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私は生まれた時から生きづらかった。
【恋歌、なぜお前はそんなにも出来損ないなんだ。】
【も、申し訳ありません!!つ、次はっ……次はご期待に添えられるようにっ…!】
【次などないと何度言ったらわかる!!お前に期待した私が馬鹿だった。もういい。】
やだ。見捨てないで。しっかりする。ちゃんとする。努力する。結果を出す。お姉様やお兄様に追いつけるよう頑張るから……。
【お父様!ピアノで賞を…。】
【話しかけるな。何もすごいことではない。それは普通だ。なぜそのような事で喜んでいるのだ。】
なんで……。お姉様にはこの前すごいぞって頭撫でてたじゃない。なんで私にはすごいぞって言ってはくれないの?私いい子にする。お父様の自慢の娘になれるよう努力する。見捨てないで。独りにしないで。
【恋歌がテストで全部満点取って来そうよ。】
【へぇ、恋歌のわりには頑張ったじゃないか。】
くすくすとお姉様とお兄様が笑う。
【でもこんな事で褒めてもらおうなんて…。ごめんだけど笑いが止まらないわ。】
【ほんとそれな。まったく……菊ノ華家ではそんな事普通なのに。甘いな。】
なんで……。もうこれ以上努力できない。何を頑張ればいいの?どうすればお姉様やお兄様みたいに褒めて貰えるの?私、頑張ったねの一言でもっと頑張れるよ?苦しい。
【私の視界にはいるな。煩わしい。】
【恋歌、もっと努力した方がいいんじゃないの?全然出来てないじゃない。】
【本当、菊ノ華家の恥だな。】
ごめんなさい。ごめんなさい。出来損ないで努力できなくて、頑張れなくて、菊ノ華家の恥でごめんなさい。
「あ、あ………。」
ぶわっと頭の中に恋歌様の記憶が流れ込んできた。何これ……いじめじゃん。
「………ほら、愛ちゃんと一緒でしょ?」
「そんなっ!恋歌様の方が…っ!!」
感情移入してしまったのと自分の辛い気持ちとで涙が止まらない。
「こんな私でも1人だけ………そばにいてくれる人ができた。護衛官なんだけどね。」
そう話す恋歌様はどこか遠くの方を見て愛おしそうな顔をする。
「……あなたは独りじゃない。きっと誰かがあなたを見つけてくれる。愛ちゃん自身を見てくれる人が現れる。大丈夫。愛ちゃんがやってきた事は無駄じゃないよ。愛ちゃんは頑張ってる。本当よく努力してる。」
なでなでと頭を優しく撫でてくれる。
「っ…………!!」
そうだ。私は誰かに頑張ったねってすごいねって言ってもらいたかった。
「一緒に頑張りましょう?理解してくれる人が現れるまで苦しいと思います。逃げてもいい。泣いてもいい。前を向いて行きましょう?」
「は、い……!」
パリィィンとガラスが割れるような音がした。そので私の意識は途切れた。
「……………滅悪完了です。」
「お疲れ様でした。恋歌様。」
扇をネックレスへ収納する。
「………恋歌様。あとは保安部署の者が対応するので戻りましょう。」
「ねぇ、愛ちゃん。私って出来損ない?」
「……何度行ったら分かってもらえるんですか…。恋歌様は出来損ないではありません。」
愛ちゃんが私の手をぎゅっと握る。
「……まだ世の中にはさ、こんなに苦しんでる子が沢山いるんだね。本当に許せない。」
今は厄祓い神としてお仕事しているからお父様もお姉様もお兄様も手のひらを返したかのように私への接し方が変わった。人ってやっぱり能力を求めるのかな?何か誰よりも秀でてないと生きてていいよって言って貰えないのかな?
「分からない。分からないよ……。苦しい。愛ちゃん……。」
「ここに居ます。私は恋歌様から離れる事はありません。私を見てください。」
くいっと腰を引き寄せられる。
「私が恋歌様の事を褒めます。称えます。生きてていいって言います。恋歌様がいなくなったら私はどうなるんですか。」
何かをこらえるような顔をする。なんでそんなに切なそうな顔するの…。
「そんな顔させてるのは私のせい…?」
「……恋歌様が御自身を否定なさる事を言うから……。お願いです。私のために生きてください。」
愛ちゃんのため…。今にも泣き出しそうな顔をした愛ちゃんを見る。………私って大切な人にこんな顔させる事しかできないの?何も出来ない自分に腹が立つ。
「分かった。今は愛ちゃんのために生きてみる。愛ちゃん、死なないでね。見捨てないでね。ちゃんと最後までそばに居てね。」
「当たり前です。何があっても一緒です。」
私達は歪んでいるんだと思う。お互いがお互いを欲して、貴方がいないと生きていけない。そんな関係、傍から見たらおかしいんだと思う。でも私達にはこの関係が心地いい。愛は人を歪ませるものだと私は心の中で密かに思った。
日本厄祓神譚 星空夢叶 @yumegamitai
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