「厄祓い神の恋歌ですっ!」

「あぁ……恋歌様っ…。た、助けっ……あああああああぁぁ!!!」

「恋歌様っ!」


目の前で隊員の人がやられる。


「あいちゃ………。」

「大丈夫です。恋歌様落ち着いて。私がいます。」


どうしよう…。人があちこちで倒れてて1回で回復させられない…。それもだけど観察対象の子見つけないと…。どっちが先?人を助ける方か、悪の根源を見つけるのか…。私じゃ、決められない…。自分で決断するのが怖い……。


「恋歌様。大丈夫です。保安部署に救助要請の連絡を出しました。まだ残っている隊員もいます。隊員はつねにポーションを持っているはずです。まずは悪の根源を見つけましょう。」


過呼吸と震えがとまない私を落ち着かせるために優しく事を進めてくれる。


「…ご、めんね。愛ちゃん、いつも……。私出来損ないだから…。」

「いえっ!恋歌様は出来損ないなんかじゃありませんよ!!私にとって唯一のお友達であり、唯一の主ですから。」


さぁ、行きましょう。とその声を合図に私は観察対象がいる場所へと向かった。










「……あ…。あぁ……。」


人が倒れていく。私がやってるの……?分からない。なんで……。


「きゃぁぁ!こっち来ないでぇぇ!」

「ああああああぁぁ!痛いっ!!ぁぁああああ!!」


そこかしこから悲鳴が聞こえる。なんで?みんなが恐怖の目で私を見る。やめて。そんな目で見ないで……。私は…私はただ……。


「____その悪、祓って魅せましょう」

「……!」


私の世界から音が消えた。パリィィンとガラスが割れるような音がして私は反射的に目を閉じた。何?何が起こったの??


「……小渕愛ちゃんですか?」

「……あなたは…。厄祓い神様?」


小柄で、可憐でそれでいて端麗だ。初めて見た…こんなに綺麗なんだ…。本人が綺麗だと周りから洗礼されていくのか…。幻覚かもしれないが心なしか桜が舞って蝶が飛んでいる。ふ、風情がありすぎる……。こつこつとブーツのヒールを鳴らして私の方に歩いてくる。


「………あなたは今悪です。」

「へっ……。」


わ、たしが悪?悪ってテレビでしか見た事ないけどあの気持ち悪い体をした人に危害を加えるあの悪だよね?


「ぇ…ぁ…なんで私が……。」

「心当たりがあるのではないですか?最近あなたの心の中で飼っていた悪は居ませんでしたか?」

「っ………!!」


い、た……。最近かと言われるとそうじゃないかもしれない。苦しそうな顔で私の答えを待ってくださっている恋歌様。


「い、ました。」

「あなたは今その悪に心も身体も支配されています。」


支配……。


「あなたを苦しめている想いはどういったものなのでしょうか?」

「っ…!!どう……。」


私の頬を恋歌様が優しく撫でる。


「私は……何も無いんです。高得点が取れるほど勉強ができるわけでなもなく、特別運動が得意な訳でもない。」


私はずっと心の中に秘めていた想いを口に出す。


「かといって絵が描けるわけでも、ピアノやバイオリンが出来るわけでも歌が上手い訳でもない。小説を書けるほどの語彙を持ち合わせていないし…………………すごいねって褒めてもらえる事なんて何一つないんです。」


恋歌様は優しい笑顔で私の話を相槌をうって聞いてくださる。今までこんなにも私の話を真剣に聞いてくれる人はいなかった。


「なにもかも普通なんです。普通でいいんです。でも、私には普通はつらかった。なんか……周りの人がすごくて、私なんかじゃ全然期待に応えられなくて…。そしたら、私、いらないんじゃないかって……。別に私がいなくなったって誰も困らないし、誰も泣いてはくれないんじゃないかって…。」


1度溢れてしまった想いは自分では制御出来なくなる。今まで苦しかった。誰も気づいてくれなかった。頑張った。努力した。けど人には得手不得手がある。そんなの知ってる。でも、なにか秀でた武器ものが欲しかった。私という存在を保つための武器が欲しかった。努力は報われる。それは違うと私はずっと思ってきた。自分で体験した事なんだから本当だ。周りにどれだけ言われようと私の限界はそれなのだ。これ以上どう努力したらいいのか分からない。これ以上私を追い詰めないで欲しい。


「愛ちゃん。よく頑張りましたね。」

「……えっ…??」


頑張った……?今まで静かに聞いてくださっていた恋歌様の第一声はそれだった。


「………私も…そうでした。愛ちゃんと違うのは自慢に聞こえるかもしれませんがなんでも最高点を取れたことです。ピアノも賞をとり、勉強も苦手な科目などなく、いつも順位は1位2位とトップをキープしていました。」


伏目がちにぽつりぽつりと話し出す恋歌様。


「運動はトップの成績で、小説でも賞をとり、絵画では展覧会で展示されるほどです。多数の事務所からオファーがくるぐらい歌がうまいとも言われました。」


でも……。とゆらゆらと光が反射する瞳がこちらを向く。


「誰一人として褒めてはくれませんでした。」

「えっ…なんで…………。」

「私の家ではそんな事普通だからです。だからなんだ。それがどうした。まだスタート地点にも立っていないだろう。自惚れるな。誇るな。なにもすごい事ではない。そう言われてきました。」


何……それ。なんで……。もう人生勝ち組なはずなのになんでそんな事……。


「辛かった。だれかにすごいねって頑張ったねって言って欲しかったっ…。」


そう言葉を紡ぐ恋歌様の顔は悲痛な顔だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る