2章 承認欲求

東京都某区にて今日も会議が行われていた。


菊乃華邸___


「今回の観察対象はさざ波高校の2年 小渕 こぶち あいさんです。」


観察対象とは悪の根源を生み出す可能性がある人物の事である。


「また学生か。」


桜恋が顎に手を当てる。


「学生は心情に変化が出やすい年頃です。観察対象になりやすいのでしょう。」


途聖が補足に入る。分かったという合図に手を挙げる。


「………よし、その高校に保安隊員を配置しろ。様子を伺ってくれ。」


桜恋の声を合図に職員が扉を出ていった。


「菊乃華、もう会議は終わりだ。戻っていい。」

「はい。ありがとうございました。」


私はガタッと席を立ってお辞儀をし、扉に手を伸ばした。


「恋歌様、私が扉を開けますゆえ。」

「え、ありがと。愛ちゃん。」


扉に伸ばした手を引っ込める。


「ふふ。ありがと、愛ちゃん。」

「この後のお食事はどうしましょう。」

「愛ちゃんとなら何でもいいよ。」


私はぎゅっと愛ちゃんの手を握る。


「はい。私も恋歌様とご一緒したいです。」


優しく手を握り返してくれる。私達はきっと歪んでいる。友情でも尊敬でも恋愛でもない。依存だ。


「恋歌様、大丈夫ですか。」

「ん?何が?」


眉をひそめながら小さい声で言う。


「桜恋様に冷たくあしらわれていたでしょう。本当に許せません。」

「あ、大丈夫だよ!桜恋君はほら………あれだから…。」


私は言葉を濁しながら愛ちゃんの手を少しだけ強く握った。


「…………恋歌様はあんな男のどこがいいのですか?」

「へぇ!?あ、え!?愛ちゃん!?」


顔に熱が集まるのが分かる。なんで私が………って分かったの?


「そりゃ、分かりますよ。恋歌様の事なんですから。」


ふふん。とドヤ顔をする愛ちゃん。


「ふふ。そっか、愛ちゃんだもんね。分かっちゃうか。うーん………。私ね、自分と似た人を好きになるんだ。」


愛ちゃんがよく分からないのか首を傾げる。


「ほら、私ってさ………そういう扱い、されてたでしょ?愛ちゃんだってお家では……。それに桜恋君もさ?だからそういう人になんていうんだろ…。共感?とか同情しちゃって…この人なら私の事………って期待しちゃうんだよね。」

「…………なるほど。でも恋歌様の事分かってるのは私1人で十分です。私だけじゃ頼りないですか?」


しゅんと子犬みたいに項垂れる。かわいいと思ってしまったのは内緒にしておこう。


「そんな事ないよ!今もこれからもこれまでも、私には愛ちゃんが必要だからね。」

「嬉しいです。私も恋歌様が必要ですよ?ずっと一緒ですからね。」

「ふふ、うん!」


繋がれた手にぬくもりを感じながら私達はご飯へと行くのだった。











「……………咲葉。」

「なんだ。」

「いや、なんでもない。」

「お前最近それ多くないか?かまってなのか?」

「違う…………。」


渚が言いたい事は分かってる。菊乃華に冷たすぎるって事だろう。………仕方がない。こればっかりは。


「もうちょっとやわらかく接しろよ。このままじゃ会議も全然進まねーだろ。」

「進んではいるだろ。」

「いやいや、愛利の顔みたか?般若みたいだったぞ。俺いつか刺されそうだよ。」


腕をさする渚。分かってる。菊乃華が俺に好意を抱いている事。でもそれを知らないふりしている。またあんな事があったら……。


「………咲葉。…咲葉。ごめん、俺が悪かった。大丈夫だから。」

「……っ。」


あの光景が脳裏に浮かぶ。真っ赤に染まったアスファルト。あれはあいつの……。


「咲葉っ!!」

「はっ……!!あ、………俺…。」

「大丈夫だ。大丈夫だから。ゆっくり深呼吸しろ。」


渚が俺の背中をさする。過呼吸になっていたみたいだ。


「ごめん…………。」

「いや、俺が悪かった。無理にしなくていい。あいつらも分かってはいるんだろうから。」


な?と顔を覗き込む渚。その顔は申し訳なさと心配が滲んで見えた。


「…………ははっ。大丈夫だって。…まぁ、善処はする。そのかわり何かあったらお前がどうにかしろよ。お前が言い出したんだからな。」

「はいはい。まったく、人使いが荒いなぁ。」


飯にするか。と渚を連れて会議室から出た。





優等生ってなんでこんなにも苦しいのだろうか。


「小渕さん。これ職員室まで運んでおいてくれるかしら?」

「……はい。分かりました。」


先生に頼まれてクラス全員分のノートを運ぶ。これって私がしないといけないの?誰かやってくれる人っていないの?なんでいつも私なの?私だって友達と喋りたい。テスト勉強も時間に余裕を持ってやりたい。どこかに出かけたい。なのに私は色んな所から縛られる。


「お、小渕!先生の手伝いか。偉いな!小渕だけだぞー。そんなに働いてくれるの。いつもありがとなー。」


ほら、そうやって。


「……いえ、私がやりたくてやっているので。」


私の存在を肯定する言い方をされるから、また必要とされたくて自分からやりたくないのにやってしまう。だって、こうやって積極的にやっていれば誰かしらにお世辞でも偉いってすごいって、私だけだって言ってくれるから。


「……何やってるんだろ…。本当。こんな自分……もうやだ……。」






「っ…!?愛ちゃん!悪の反応がっ!!」


厄祓い神は本能的に悪が発生したことを把握できるようになっている。


「………隊員は何をやっているのでしょうか?早いですね、今回。」

「急ごう。」


ちょうどご飯を食べ終わったので愛ちゃんと一緒に現場へと向かった。

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