【短編】前世で地球を救った俺が、来々世で魔王を滅ぼすことを誓う話

千月さかき

前世で地球を救った俺が、来々世で魔王を滅ぼすことを誓う話

前々世ぜんぜんせでムー王国とアトランティス王国を救った光の英雄を探しています。

 こちらはガザエル、邪狩ジャッカル、ハイムリッヒ=フォン=エターナルゲヘナです』


「うわあああああああぁっ!?」


 冒険者ギルドの『パーティメンバー募集』の掲示を見て、俺は頭を抱えた。

 なんで!? どうして!? おかしいだろ!? ここは異世界だぞ!?


 俺は前世ぜんせ……地球で死んで、この世界に転生してる。

 なのにどうして、前世で『光の英雄』を名乗っていたやつらの名前があるんだ!?


「…………転生して、あいつらとは縁が切れたと思ってたのに」

「その反応!? もしかして君も『光の英雄』なのかい!?」

「ひぃっ!?」


 振り返ると、そこには奴らがいた。

 姿かたちは、前世とほとんど変わっていない。


 大剣を背負い、よろいを羽で飾っている戦士がいる。

 こいつがガザエルだ。

 前世でも、あいつは自分を『天使の加護を受けた者』って言っていた。

 鎧に羽をくっつけてるのは、その影響だろう。

 あいつが救ったと自称してるムー王国と天使はまったく関係ないんだけど。あいつの中では違和感がないらしい。


 隣にいるサムライっぽいやつが、邪狩ジャッカルだ。

 ガザエルとは逆に闇をイメージしているのか、鎧も剣も真っ黒だ。

 闇をらいて力となすというのが、奴のキャッチコピーだったっけ。


 純白のローブに身を包んでいるのが、ハイムリッヒ=フォン=エターナルゲヘナ。略してゲヘナ。色の白い少女だ。白……つまり無の領域に存在する力を使い、隕石いんせきだって消滅させられると威張ってた。

 もちろん自称だ。前世でも、あいつは隕石を消したりなんかいない。


 この3人が前世で、俺と一緒に暮らしてた奴らだ。


「誰かと思えば君か」


 ガザエルはうれしそうに、両腕を広げてみせた。


「なつかしいな。君は『光の英雄』のひとりで、前々世で古代の王国を救った──」

「俺の名前はサイだ。名前で呼んでくれ」


 変な名前で呼ばれてたまるか。

 サイ──前世で普通に使われていた名前で呼んでほしい。


「ガザエルたちもこの世界に転生してたのか」


 そんなことだろうと思ってた。

 俺だって地球で死んだあとで、剣と魔法の世界に転生してるんだからな。

 他の連中も、同じ世界に転生してたって不思議はない。


「そうだよ。ぼくらも前世の最終局面カタストロフで命を落としたあと、こっちの世界で目覚めたんだ」

「そしたら、冒険者ギルドを見つけてさ」

「『パーティ募集』の掲示板を利用して、みんなで集まったの!」


 ガザエル、邪狩ジャッカル、ゲヘナの3人は楽しそうに語り始める。

 そっか。転生しても、こいつらは一緒なのか。

 まぁ、前世でも仲が良かったからな。このままこっちの世界で、のんびり暮らしてくれれば──


「「「サイもぼくらと一緒に魔王を倒しに行こう!!」」」

「なに言ってんだお前たち!?」

「この世界には魔王がいるんだよ?」

「知ってるけど!?」

「ぼくたちは前世と前々世で世界を救ってるよね? だったら、この世界も救うのは当然じゃないか」

「お前たち、冒険者ランクはいくつだ?」

「S・A・B・C・D・Eのうち、Cランクだね」


 なぜそれで胸を張る?


「でも、危険に出会えば覚醒するはずだよ。前世でもそうだったんだから!」

「あー。そういうことか」

「「「『光の英雄』よ。共にこの世界を救おうじゃないか!!」」」


 3人は、朝日の昇る方角を指さして宣言した。

 俺は奴らに背中を向けて、逃げ出したのだった。







「俺の話をしようと思う。

 俺は前世で、地球という世界に住んでいた。

 そして……その地球は、滅びの危機にひんしていたんだ。


 嘘じゃない。俺の力を見ればわかるだろ? ほら、城が浮いてる。

 俺はそういう力が使えるんだ。


 ん? 滅びの危機って、魔王と関係あるのかって?

 ないない。危機ってのは隕石いんせきだ。空を通る巨大な石のこと。

 天文学者の観測で、地球に隕石が降ってくることがわかったんだよ。


 それは直径1キロを超える巨大な隕石だった。

 1キロ……簡単に言うと、ここからあの山までの距離だな。

 それが凄い勢いで降ってくるんだ。

 地面はめくれ上がって、巨大な津波が世界を襲う。

 ……そうだよ。そんなことになったら、誰も生き残れない。


 手の打ちようがなくなった地球人は、変な計画を立てた

 それは、子どもたちの潜在能力を利用するというものだった。

 子どもたちを覚醒かくせいさせて、超常ちょうじょうの力で隕石を止めるって計画だ。


 ばかみたいだろ?

 でもさ、地球人には、他にやりようがなかったんだ。

 核ミサイル……巨大な爆発物でも隕石は止められなかった。

 地下にシェルター……隠れ家を作っても助からない。

 だから、できることはなんでもやるしかなかったんだよ。


 地球には色々な伝説があったからな。

 すごい力を持った神さまとか、自然現象を操る謎の存在とか。

 だから地球の大人たちは、子どもたちを覚醒かくせいさせれば、同じようなことができるようになるんじゃないかって考えたんだろうな。


 研究者たちは、子どもたちに偽の記憶を植え付けた。

 前世の記憶ってやつだ。

 伝説のムー王国を救ったとか、アトランティス王国を守ったとか……ドラゴンの転生体ってのもあったな。子どもたちに『自分は前世ですごいことをしている』と思い込ませて、能力を引き出そうとしたんだ。


 ああ。そうだよ。

 俺が冒険者ギルドで出会った連中は、その実験の被験者ひけんしゃだったんだ。


 ……え?

 作戦は成功したのかって?


 おどろくなよ? なんと、成功したんだ。

 もちろん、全員が覚醒したわけじゃない。

 子どもたちのうち、2人だけが覚醒して、とんでもない能力を発揮はっきしたんだ。


 それは偽の記憶のせいじゃなかった。

 その2人は、本当に前世で伝説の王国を救っていたんだ。

 彼らは前世の記憶に目覚めて、ついでに能力にも覚醒してしまったわけだ。


 そうしてその2人は、隕石を止めた。

 だけど、被害はゼロにはならなかった。

 被験者の子どもたちは全員、『自分がすごい能力に覚醒した』って宣言してたからな。実験を行った連中は、子どもたち全員を、隕石の真下に配置してたんだ。


 その結果、隕石の軌道を逸らすことには成功したけど、その余波で、子どもたちはみんな死んでしまったんだ。


 ……え?

 覚醒した子どもたちはどうしたのかって?

 ふたりとも死んじゃったよ。異能の使いすぎでな。

 隕石を動かすほどの力だ。リスクがないわけがない。

 寿命と引き換えだったんだよ。


 ……ああ。そうだよ。

 今、この魔王城を浮かべているのが、その力だ。


 俺が、隕石の軌道をらして、地球を救った者の1人なんだよ。


 それを踏まえて交渉したいんだけど、魔王さん・・・・

 あんたちょっと『光の英雄』たちに、倒されてやってくれないかな?」


「…………え?」


「あいつらは前世で大変な思いをしたわけだろ? その連中が今世こんせで、魔王に返り討ちにあうのは……気の毒で見てられないんだよ。だから、倒されたふりをしてやって欲しいんだ」


 俺は言った。

 床にいつくばる魔王と、魔王の側近の四天王に向かって。


 ここは人間の領域の外にある、魔王城。

 その城は今、ちょっと浮いてる。しかも揺れてる。

 前世で覚醒した俺の力によるものだ。


 俺は前々世で、伝説の王国レムリアを救っている。

 ガザエルや邪狩ジャッカル、ゲヘナの記憶は実験で植え付けられたものだけど、俺の記憶は違う。俺は実際に、前々世でレムリア王国を救っているんだ。大地を動かすほどの、巨大な力をふるって。


 それが、この力だ。

 これで俺は地球に降ってきた隕石の軌道を逸らし、今、魔王城を浮き上がらせてる。この城の最奥まで入り込んだのも、その力によるものだ。


 ただ……力はあまり使いたくないんだけどな。寿命が減るから。

 隕石の軌道をらしたときも、力の使いすぎで死んじゃったからな。


「……貴公は、そんな話をするためにここまで来たのか?」


 床から顔を上げて、魔王は言った。


「我らを滅ぼしたいなら、さっさとするがいい。勇者よ……」

「いや、魔王さん。俺は勇者じゃないよ」

「なに?」

「俺の名前はサイだ。正確には、実験体M−31。31だから『31サイ』って名乗ってる。本当の名前は忘れちまった」

「では、サイよ。貴公はわれらにどうしろというのだ?」


 床の上で、魔王が起き上がる。

 頭に2本の角を生やした人物だ。身長は人間の2倍。

 太い腕には、鋭い爪が生えている。


 ちなみに魔王城の壁には大量の穴が空いてる。

 魔王が飛ばした闇の球体を、俺が弾いた跡だ。魔王というだけあって、かなりの力を持っていた。Cランク冒険者の『光の英雄』では、太刀打ちできない強さだ。


「我々では貴公に勝てないことはわかった」


 魔王はり傷だらけの顔をぬぐって、俺を見た。


「だが、英雄とやらに負けたふりをしろというのは、できない話だ」

「どうしてだ?」

「倒された我らは、ここを去らねばならぬ。領土を放棄してどこに行けというのだ? 我が領土は山間の狭い場所にある。背後は山だ。行く場所などはないのだ」

「俺が、人の世界から魔王の領土に通じる道をふさいでやる」

「……え?」

「そうすれば誰も、魔王の領土には攻め込めなくなる。その後で、山を削ってあんたたちの土地を増やしてやる。それでいいだろ?」


 俺は魔王城の窓の外に手を伸ばす。

 軽く引っ掻く動作をすると……城の背後にある山が削れた。

 これを繰り返せば、広い平地ができるはずだ。


「き、貴公には……これほどの能力が!?」

「話に乗るか? 魔王さん」

「…………う、うむ」


 魔王はしばらく考えてから、うなずいた。


「人間との争いがなくなるならば、それでいい。話に乗るとして、我らはどうすればいいのだ?」

「まずは、精神攻撃が得意な奴を用意してくれ。あいつらが魔王城に入ってきたところで気絶させてくれればいい。その後は、俺が奴らを連れ出して、魔王は滅んだって言っておくよ。思い込みが強いやつらだからな。それで通じると思う」

「……なるほど」

「これなら誰も傷つかないと思うんだが、どうだ?」

「うむ。我が領土が広がり、安全となるなら言うことはない」

「交渉成立だな」

「だが、お前はどうしてそこまでするのだ?」

「友人のためだ。あいつらが前世で使い捨てにされて……今世であんたたちに殺されるのは見たくないんだよ。俺は……正義の味方らしいからな」


 俺は前々世で、レムリア王国を救っている。

 前世では地球を救ってる。


「つまりは、そういうめぐりあわせなんだろう。せっかくだから人間と魔王の戦争も止めて、どちらも救う。それが今世での俺の仕事だと思うんだ」

「……お前のような人間がいるのだな」


 魔王は感心したようなため息をついた。


「どちらにしろ、我らに選択権はない。お前は一息で我らを滅ぼせるのだからな」

「滅ぼす気はねぇよ」

「わかった。信じよう」


 俺と魔王は固い握手を交わした。

 交渉成立だ。








 作戦は次の通りだ。


(1)『光の英雄』のパーティが魔王の領土に来たら、なにもせずに城まで通す。

(2)奴らが城に入ったら、精神攻撃が得意な魔物 (インキュバスやサキュバス)が眠らせる。

(3)その後、俺が『光の英雄』を領土の外に連れ出して、魔王の領土の出入り口を封鎖する。

(4)魔王を倒した証拠として、『光の英雄』には、王冠とローブを渡す。


 以上だ。

 俺は城で、魔王の後ろに隠れていることにした。

 あとは連中が来るのを待つだけだ。


 そして、数日後──




 ズドドドドドドドォ──────ン!!




 魔王の領土が揺れた。


「「……は?」」


「魔王陛下に申し上げます!!」


 伝令兵が飛び込んでくる。


「『光の英雄』たちが高速飛行して突っ込んできます。お逃げください!!」


 ──と言っていた伝令兵が吹っ飛んだ。


 城の壁が砕けて、4人の人物が現れる。

 高速飛行したせいで目を回しているのが、ガザエルと邪狩ジャッカルとハイムリッヒ=フォン=エターナルゲヘナ。

 そして、4人目は──


「き、貴公は何者だ!!」

「私はミナ。実験体F−37だから、ミナ。この世界のため、魔王の命をいただく!!」

「笑わせるな! 人間ごときが魔王に敵うと思うな! 貴公の攻撃など超絶魔力障壁アルティメット・バリアで──」

「だめだ! けろ魔王!!」


 魔王城の壁を、衝撃波しょうげきはが撃ち砕いた。

 魔王への直撃を防いだのは俺の能力だ。

 そうしなければ魔王は、城ごと吹き飛んでた。


「サ、サイ? どうして……」

「さがっていてくれ、魔王。あいつは俺と同類だ」

「な、なんだと?」

「言っただろ。地球に隕石が落ちてきたとき、本当に前世の能力に覚醒した子どもが2人いた・・・・って。それが俺、実験体M−31……『31サイ』と、F−37、『37ミナ』だ」


 俺は前々世で、伝説のレムリア王国を救っている。

 そしてミナも前々世で、同じ国にいたんだ。


 違っていたのは、ミナが悪の側にいたこと。

 あいつは前々世で、俺が守るべき王国を滅ぼそうとしていたんだ。


 前々世の話だから、俺もミアも、はっきりとしたことは覚えていない。

 俺も、覚えているのはレムリアという国の名前と、自分の能力と、ミナと戦ったという事実くらいだ。


 前世でミナが地球を救おうとしたのは、『国をひとつ滅ぼそうとした自分が、人を救えるのかどうか試してみたいから』だったらしい。

 たぶん、ミナはこの世界でも同じことをしようとしているはず。

 魔王を倒しに来たのは、それが理由だろう。


 そっか……ガザエルたちは、ミナを見つけ出して、仲間にしていたのか。

 意外とやるな。さすがは『光の英雄』だ。


「久しぶりだな。F−37……ミナ」

「サイ!? どうしてあなたがここに?」

「ちょっとした縁でな。俺は、魔王の味方をすることになったんだ」

「また戦うことになるのね。前々世の因縁いんねんかしら?」

「そうだな。あのときも、俺たちは戦っていたらしいからな」

「結局、敵対する運命ってことね」

「退く気はないか? 俺は、魔王は倒されたことにして、人間の世界との通路をふさぐつもりだ。そうすれば戦争は起こらず、人間の世界には平和になる」

「悪いけど、私はこの世界では英雄になることに決めたの。人間の脅威きょういになるものは、すべて滅ぼすつもり」

「あの隕石いんせきと同じようにか?」

「そうね。邪魔するなら、あなたも敵よ」

「……戦うしかないようだな。やっぱり、因縁ってやつか。ミナ」

「……運命には従いましょう。サイ」


 そうして俺たちは戦いはじめたのだった。





 戦闘は3日3晩続いた。

 魔王城は土台を残して消滅し、周囲の山々は削れ、広大な平地が生まれた。


 魔王たちは俺がなんとか避難させた。

 ミナが現れたのなら、これは俺の戦いだ。魔王たちを巻き込むわけにはいかない。

 ちなみに『光の英雄』たちは、ミナが避難させてくれた。


 俺とミナの能力は、ほぼ同等。

 ふたりで隕石の軌道を逸らしたほどの力だ。

 全力を出せば、この惑星が崩壊してしまう。


 被害の拡大を恐れた俺たちは大気圏外たいきけんがいへ飛び出し、戦い続けた。


「さすが古代の王国を守った英雄ね。サイ!」

「レムリアだ! 自分が滅ぼしかけた国の名前くらい覚えておけ!」

「前世であなたが教えてくれたんだったわね。その名前は!!」

「お前は偽の英雄にそそのかされて、レムリアを滅ぼしかけたんだったな!!」

「もうほとんど覚えてないけどね!」

「俺もだ。戦いはここで終わらせよう!!」


 変化があったのは、4日目の朝。

 ミナの体力に限界が来た。


 単純に、能力を使った時間の違いだ。

 ミナは『光の英雄』たちを守りながら、魔王の領土に突進してきた。

 俺はその間、魔王の城で休んでいた。


 そのわずかな違いが、勝敗を分けたんだ。


「終わりだ。ミナ!」

「……ちぇっ」


 俺のこぶしが、ミナのあごとらえた。

 激しく頭を揺らしたミナは意識を失い、目を閉じる。


 俺たちはひとつの火の玉となって、地上へと落下していく。

 能力で減速しながら、俺はミナを抱きとめる。


 そうして俺たちは無事、魔王城の跡地に着地したのだった。





「お前はもう能力を使うな。この戦いで、寿命をかなり減らしただろう?」

「残り1年くらいだと思うわ」

「俺もそのくらいだな」

「決着は来世ね」

「ガザエルたちはどうする?」

「わたしが連れて帰るわ。あなたの勝ちよ。魔王は倒したことにしてあげる」

「了解。人間の領土と魔王の領土の間の道は、俺がふさいでおく」


 その後、ぱん、と手を合わせて、俺とミナは別れたのだった。


 俺とミナは、強い因果いんがで結びつけられているらしい。

 きっと、来世でも出会うことになるんだろうな。


 今度は……戦いのない世界で出会えればいいんだけど。






「「「ありがおおおおおおおおっ! サイぃぃぃいい!!」」」


 魔王側に犠牲者は出なかった。

『光の英雄』たちを素通りさせるように指示を出していたのがよかったんだろう。

 魔王も、配下の連中もボロボロになったけれど、無事だった。


「だけど……城はなくなっちゃったな」

「構わぬ。大切なのは民だ」

「あんたがそういう魔王でよかった」

「それにしても……よかったのか? ミナというものを生かしておいて。あれはお主のライバルなのだろう?」

「いいよ。これ以上、因縁いんねんに振り回されたくないからな」


 俺とミナは、前々世では殺し合っていた。

 レムリア王国のころのことは、もう記憶もあやふやだけど。

 それでも、戦っていたという事実は残っている。


 前世では、ふたりで隕石の軌道を逸らして、寿命を使い果たして死んだ。

 結局、俺たちは能力に振り回された。


 今世で同じことはしたくない。

 俺もミナも、残りの寿命は1年だけど、精一杯生きよう。

 そうして来世は、普通の人間として生きたい。


 能力や因縁に振り回されるのは、もう、たくさんだから。


「ガザエルに邪狩ジャッカル、ゲヘナも、前世から自由になってくれればいいんだけどな」

「お前は本当に、他人のことばかりだな」

「正義の味方だからな」

「そういうめぐりあわせか、面倒なことだな」


 俺と魔王は顔を見合わせて、笑った。


「とにかく、お前は我が王国の恩人だ。賓客ひんきゃくとして大切にしよう」

「ありがとう。面倒をかけてすまない」

「気にするな。お前がいなければ、このレムリア王国・・・・・・ほろんでいたのだから」


 …………ん?

 今、妙な言葉を聞いたような……?


「あのさ。魔王」

「なんだ。サイ」

「あんたは今、国の名前を言ったよな?」

「ああ……そうか、言っていなかったな。我が国の真の名前は、民にしか教えないきまりなのだ。それでお前にも言えなかったのだよ。だが、お前はすでに我が国の者だ。ともにこのレムリア王国・・・・・・で生きる仲間だ!」

「……レムリア王国?」

「うむ。レムリア王国だが?」


 ……ちょっと待て。

 俺は前々世で、レムリアという名前の王国を救っている。

 記憶もおぼろげだけど、間違いない。ミナと戦った記憶もある。


 俺はそれを、大昔の地球の話だと思っていた。

 地球にはムーやアトランティスと同じように、レムリアの伝説があるからだ。

 だから俺の前世の記憶は、地球でのことだと思っていたんだ。


 でも……よく考えたら、おかしい。

 ガザエルたちの記憶は偽物だ。

 ムーもアトランティスも現実には存在しなかった。

 なのにレムリアだけが実在するのはおかしい。


 しかも、俺が覚えているのは、自分の能力と、ミナと戦ったことと、レムリアという国を救ったという事実だけ。ミナなんか国の名前すら覚えてなかった。

 ……ということは、まさか。



 俺の記憶にあるレムリア王国は、地球の話じゃなくて……。

 俺が前々世で救ったのって……魔王が治める、このレムリア王国だったのか?



 じゃあ……これからどうなるんだ?

 この世界にいる俺が、今の俺の前々世だとしたら……俺は死んだあと、地球に転生するのか? 前世の俺に転生するってことなのか?

 そうしてレムリア王国を救ったことを思い出して、能力に覚醒して……。

 その力で隕石の軌道を逸らしたあとで、またこの世界に転生するってことか!?


 そうなると、俺は2回、このレムリア王国を救ったということになる。

 いや……2回目とも限らない。

 前々世のことは、もう忘れかけてる。

 仮に、前々々世があったとしても、まったく覚えていないはず。



 もしかしたら……俺は、ずっと同じことを繰り返しているのかもしれない。



 前世ぜんせで地球を救って。

 前々世ぜんせんせでレムリア王国 (魔王の国)を救って。

 前々々世ぜんぜんぜんせで地球を救って。

 前々々々世ぜんぜんぜんぜんせでレムリア王国を救って。

 前々々々々世ぜんぜんぜんぜんぜんせで地球を……。

 前々々々々々世ぜんぜんぜんぜんぜんぜんせでレムリア王国を…………。



 地球に転生して、隕石の軌道を逸らして……この世界に転生して、魔王のレムリア王国を救って……。

 そしてまた地球に転生して、救って。レムリア王国を救って……地球に転生して……。

 俺はそんなことを、果てしなく繰り返しているのだろうか……?


 なんだか……怖くなってきた。

 仮にループしてるとしたら、抜け出す方法はなんだ?


 変化を起こせばいいのか?

 例えば、俺がこの魔王の国を滅ぼしたら?

 そうすれば俺はレムリア王国を救っていないことになる。来世の記憶は変わる。

 地球で能力に覚醒することもないかもしれない。


 ……と、思ったけど……もう力が残ってない。

 俺の寿命はあと1年。

 今の状態で使える力は、魔王と同等くらいだ。

 国を滅ぼすのには足りない。


 どうすればいい?

 どうすれば……この果てしないループから抜け出せるんだ……?


「大丈夫か? サイ?」

「……魔王。聞いてもいいか?」

「ああ。なんでも聞いてくれ」

「俺はこのレムリア王国の恩人ということでいいんだよな?」

「その通りだ」

「じゃあ、お願いを聞いてくれるだろうか?」

「無論だ。なんでも言ってくれ」

「無茶なお願いでも構わないか?」

「魔王に二言はない!」

「わかった。それじゃ……」


 俺は魔王の両肩を、がしっ、と掴んだ。


「次のループで、このレムリア王国を滅ぼしていいかな?」

「待って! なにそれ!?」


 おどろく魔王の前で、俺はそんなことを心にちかったのだった。




おしまい



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