第30話 俺の知らないデュエルサモナーズ

「マジかよ……」


 最初の群餓鬼ゴブリンとの戦闘で一気に二体も妖怪スペクターを召喚出来た時点で何かがおかしいとは思っていたが、まさか召喚不能の事態にまで陥るとは思わなかった。


 確かに勝利の為に必要だったとはいえ、それこそ数えきれない程の自爆を強要されれば誰だって言う事を聞かなくなるよな。ブラック以外の何物でもないもん。


 本来のデュエルサモナーズなら基本、一ターンに召喚出来る妖怪スペクターは一体と決まっている。


 だがこの世界において、そのルールは完全には適応されない。


 妖怪スペクター側が俺の召喚に応じる気があれば、たとえ何体であっても召喚が可能であり、逆に召喚に応じる気がなければどんな妖怪スペクターも召喚出来ない。つまりはこういうことだろうか。


「まぁ、粘液体スライム程度ならそこまで火力は必要ないか」


 相手は頑強な鋼人形ゴーレムじゃない。ただの粘液体スライムなのだから。


 とはいえ、『怨恨の小剣士』の元の攻撃力も決して高いとは言えない。


「手札から魔法マジックカード、『遊撃する台風』を発動! 山札の上からカードを五枚引き、その後手札から三枚を墓場に送る」


 この効果で手札にある妖怪スペクターを墓地に送り、『怨恨の小剣士』の攻撃力を上昇させておく。


「さぁ行け! 『怨恨の小剣士』の攻撃!」


「待ってドロウ! 不用意に近づくと危ないわ!」


 危ないって、たかが粘液体スライムにそこまで警戒する必要なんてあるのか?


 俺の知る粘液体スライムなんて、ぷよぷよボディで体当たりするか服を溶かすくらいしかしてこない雑魚だ。攻撃力だってそこまで高くないはず……。


 ……待てよ? 


 嫌な予感を感じ取った頃には、既に俺の命令を受けた『怨恨の小剣士』が粘液体スライムへと斬りかかっていた。


 今回はちゃんと剣を使えたらしく、素早い動きで見事に粘液体スライムを一刀両断する。


 だが、肝心の粘液体スライムを斬った『怨恨の小剣士』の剣はドロドロに溶け、使い物にならなくなっていた。


 一方、上下に裂かれたはずの粘液体スライムの体は一瞬でくっついて元の状態へと戻っている。


 どちらが優勢か、火を見るよりも明らかだった。

 

 俺は急いで撤退の命令を出すが、それよりも先に粘液体スライムが『怨恨の小剣士』を自身の体で包み込む。


 閉じ込められた『怨恨の小剣士』はものの数秒も経たない内にジュワッという音を立てて消滅した。


 嘘だろ。攻撃力2300まで上昇した『怨恨の小剣士』が粘液体スライムに一撃でやられたぞ……。しかも、粘液体スライム相手に……。


粘液体スライムには物理的な攻撃は殆ど効かないの。それに体に触れた物は何でも溶かしちゃうから、冒険者の間では『剣士の天敵』って呼ばれてるわ」


「相性最悪じゃねぇか!」


 剣士の天敵相手に剣士をぶつけたって、相性的に勝てる訳ない。それは分かる。


 だが、本来デュエルサモナーズにおける妖怪スペクター同士の戦闘とは攻撃力の大小によってその勝敗が決定する。だから相性なんて、考える必要は一切なかった。


 しかし、この世界において俺の常識はおそらく通用しない。


 妖怪スペクター達の意思についてもそうだ。今まで通りの戦い方をしていてはいずれ勝てなくなる。


 勝つためにはカードに書かれたテキストやパラメータだけじゃない、もっと多くの事象を考慮して戦略を組み立てる必要があるのだろう。

 

「なんだよ、それ……」

 

 そんなの、俺の知ってるデュエルサモナーズじゃない。そんなの…………。


「…………すっげぇ、面白いじゃねぇか!」


 この世界には、俺のまだデュエルサモナーズがある。それだけで、俺の胸はどうしようもなく騒ぎ、高鳴っている。


 こうなったら、何が何でもこの能力ちからを使いこなして最強になってやるからな!


「――……ぶない! 後ろ! 後ろ!」


 後ろ後ろ……って、俺に言ってるのか?


 人が新たに決意を固めてる最中だっていうのに、何があるっていうのか。


 振り返ると、そこは一面のクソ緑。粘液体スライムが全身を広げて俺に歩み寄っているではありませんか。


「――ってあっぶねぇ!!!」


 急いでその場から逃げ出し、後ろへと下がる。動き自体は鈍重なため、躱すのはそこまで難しくなかった。


「一先ずコイツは無視して、町まで逃げるぞ!」


「「「了解(ニャ)!」」」


 従来の要領でカードが使えないとなると、このまま戦闘を続けるのは余りにも危険すぎる。一度安全な場所で情報を集めた方がいい。


 幸い、このスピードなら走って振り切るのは容易だろう。


 かくして、俺達四人の迷宮ダンジョン初攻略はこうして幕を閉じたのだった。

 


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生粋のカードゲーマー、異世界だろうとデッキ片手に最強目指します! フェイス @fayth3036

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