第29話 まさかの拒否

「ほんとっ、いい加減にしろよ……。何回目だよこの流れ」


 鬱陶しいくらいに何度も走らされたおかげで、内部の構造を完全に把握していた俺達は崩壊に巻き込まれる前に急いで迷宮ダンジョンから逃げ出した。


 外に出た後も地響きが鳴り続けていたので、相当大きな崩壊を招いてしまったことが頷ける。


「完全に塞がっちゃったニャ」


 改めて入り口を確認すると、瓦礫の山で中の様子は一切確認出来なかった。


「これは……元に戻るまでかなり時間が掛かるかもしれませんね」


「……逆にこれ、元に戻るのか?」


迷宮ダンジョンは時間が経てば何度でも復活するのよ。ただし、一度攻略されたら完全に復活するまで誰も入れなくなるわ」


 時間が経てば何度でも復活? そんな超常現象が起きるってことは……。


 プラテアに視線を送ると、黙って首を縦に振る。やはりこの迷宮ダンジョンも神様が関与している案件らしい。


「場合によっては年単位で入れなくなる所もあるらしいから、何とか先を越される前に攻略出来てよかったわ」


「けどたわしだったニャ」


 何気ない一言がスリィブのガラスハートを深く傷つけた。


「なんで……なんでたわし……ッ…………」


 最早たわしがトラウマになってるレベルでショック受けてそうだなこれ。


「ところでさ、この地響きいつまで鳴ってるんだ?」


 かれこれ脱出してから五分くらい経っているのに、未だに地響きが鳴り止まない。


「――いえ、この振動……地下からではありません!」


「後ろからニャ!」


 センリの一言で全員が背後に目を向ける。


 意識して聴音すると、何か大きな物を引き摺っている時の音が聞こえてきた。しかもかなり近い。


 注意を払って警戒を続けると、音の正体が姿を現した。


 半透明のプルプルとした丸い体に、内部で泡立つ体液。


 つぶらな瞳からは愛嬌すらも覚える、魔物の中でもトップの知名度を誇る存在。


粘液体スライム……?」


 そう、RPGとかで序盤に出てきてチュートリアルや経験値稼ぎに一役買ってくれる、あの粘液体スライムだった。


 出てくるタイミングがちょっと遅すぎる気もするが、今ここで群餓鬼ゴブリンの群れや鋼人形ゴーレムの様な厄介な相手が出てくるよりも百倍マシだ。


 特大サイズなのが少し気懸かりだが、まぁ何とかなるだろう。早速デッキからカードを取り出し、戦闘態勢に入る。


 手札を確認すると、鋼人形ゴーレムを倒した時の最強ループコンボを成立させる三枚が既に入っている。これは早々に勝負を決めてしまおうじゃないか。


「俺は『怨恨の小剣士』を召喚し、魔法マジックカード『看取り図』を発動!」


 俺の宣言によって再度呼び出される妖怪スペクター魔法マジック

 

「そして『ビビり弾』を召喚――!」


 これでまた攻撃力をむげんに…………あれ?


 宣言をしたにも関わらず、召喚が行われない。


「『ビビり弾』を召喚!」


 もう一度宣言を行うが、やはり召喚が出来ない。どうしてだ?


 ――……ニタクナイ、シニタク……。


 何処からか声が聞こえてきた。俺のすぐ近くで、震えた声で「死にたくない」って連呼している。


 まさかと思って『ビビり弾』のカードを手に取ってみると、先程の命乞いがより鮮明になって聞こえてきた。


「……え? そういうこと!?」


 召喚した妖怪スペクターと意思疎通が取れるということは、妖怪スペクター達には自我があるということになる。


 自我があるということは、当然俺の采配プレイングについて思う事もあるはず。


 つまり今、『ビビり弾』は「死にたくない」という意思から俺の召喚をしているのだ。



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