最終話 俺は告白する
分家柳井の屋敷である。
包帯やらパッチやらを体中に付けた波瑠止は、自室で茶を飲んでいた。
腹切るって言ったよな? このヤロウ?
給仕を終えたジョージが、その呑気な様子に呆れ、思わず言った。
「何のんびりしてるんですか」
「別にいいだろう? 終わったんだ」
波瑠止はそう上機嫌に言う。
結果だけ言えば、波瑠止の麻薬撲滅運動+借金投げ出しは成功した。
止正が柳井本家の麻薬製造に携わる家臣、住民の制圧を完了。
中京城の高級ホテルへの殴り込みは、林への決闘という事で話をつけていた。
傍若無人の上杉だったが、見世物の始末はちゃんとしてくれたとも言う。
「終わった、終わったですか?」
ジョージは不満である。
殺し屋相手に切った張ったさせといて……とは思う。
だが、主は一人で銃撃戦だったと聞くと、代打でよかったとも考えてしまう。
と言うか、だ。
無人兵器と勇気ある士分相手に戦い続けるだぁ?
最後は消防斧を持ち出したとか、何時の時代の人間だろうか?
とジョージは思った。
それで生きて帰って来るんだから、おかしい。
こいつ本当に生まれてくる時代を間違えているな。
とジョージは内心思っていた。絶対口にしないが。
「何だよ、文句あるのか?」
「大いにあります。仮にも探題の人間を撃ち殺してお咎め無ってのも」
波瑠止は気分よく答えた。
「下手すりゃ俺の首どころか、分家柳井が吹っ飛んでたが、そこは官僚さ」
官僚と言うのは、波瑠止が考えるより強かだった。
林と言う強力なライバルの落伍をチャンスとしたのだ。
死人に口なし。
同僚らは己の罪を死んだ林へと上手に押し付けていた。
上杉だけならず、そうした探題内のバックアップもあり波瑠止は助かった。
更に本人の予想以上に軽い刑罰で解放されたのだから。
「なんとまあ、権力闘争の出汁ですか」
「ああ、結果的にツイてた」
ずずっと茶をすすった波瑠止は続ける。
「ま、その代り俺の本家相続は無くなった」
結果的に解決したと言え、不祥事を起こしたのである。
波瑠止は当主としては首を食らっていた。
「知ってますよ。だから戻れたんでしょう?」
「喜べって、あと今日で決める」
波瑠止はそう言って、時計を見、それから外を見た。
「……ジョージ、悪いが外してくる」
ジョージは主が何をするのか察してから言った。
「頑張ってください」
「うるさいよ」
そう波瑠止は顔を赤くして言った。
待ち合わせたのは、柳井領の貯水池だった。
自然公園としても手入れされているため、そこそこ景観が良かった。
「待ちました…?」
やって来た茅に波瑠止は微笑む。
「いいや、ダイジョブ」
ヘタレながら、波瑠止は茅の手を握った。
茅は振りほどくことなく、波瑠止はドキドキしながら歩きだす。
「無事でよかった」
「それは若様もです」
何気ない会話だ。風は穏やかで、空気も綺麗だ。
「あのさ、茅」
「分かってます」
茅は答えを決めていた。
それを察したからこそ、波瑠止は彼女からの言葉を待った。
「私は、若様の事をお慕い………え?」
波瑠止は茅がびっくりした顔をしたので振り返った。
……そこには青い顔した、祖父と両親がいた。
何故だ?
「爺ちゃん、親父?」
波瑠止が問うと、止正が言った。
「………すまない、波瑠止、まーたお家騒動だ。どうにも本家の家督、それとウチの家督を怪しい親戚のバカが主張している」
え、どういうこと?
「お前が次代になる必要がありそうだ」
波瑠止は茅を見た。
彼女は苦笑気味に微笑んでいた。
「そんな! 生殺しじゃん! 最悪だ!」
少年の虚しい叫びが響いた。
―――借金からは逃げられたが、騒動からは逃げられない波瑠止であった。
【完結保証】宇宙で旗本やっている〜俺はあの子と結婚したいのに〜 行徳のり君 @atomsun711
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