第41話



 レヴィートが驚いたように声を上げる。ただ、驚いていたのは俺も同じだ。

 それから、ミリナの視線がこちらに向いて悪戯っぽくウインクをした。


「そういうわけで、レン。一緒に組まない?」

「いきなり何言ってんだよ!?」

「元々、そのうち抜けるつもりだったのよ。あんたとは性格合わないし」

「だからって……てめぇ、いきなり抜けたらどうすんだよ!? Bランクパーティーまであげてやったっていうのに……!」

「そうね。ありがとうございましたー」


 もうそれに歯向かうこともなくただただ面倒くさそうにミリナが言った。

 その舐め切った態度はレヴィートの癪に障ったようだが、彼が怒りの声を上げるより先に

 フィアとイルンが声をあげる。


「私もパーティー、抜けますね。色々とお世話に……はあまりなっていませんが、一応定型文ですので。お世話になりました」

「僕も抜けるよ。悪いね」


 続々と脱退していった彼女らは、それからこちらを見た。


「というわけでして、レンさん。パーティーに入れてもらってもいいですか?」

「僕も……嫌じゃなければ一緒に活動したいんだけど……」


 ……断る理由は、もちろんなかった。

 俺が頷いていると、目を見開いていたレヴィートが声を荒らげる。


「イルンはともかく……フィア! なんでてめぇまで抜けるんだよ!」

「私はレンさんが優秀な支援魔法使いだと思っていますので。そちらについていきたい、というだけですよ」


 フィアは笑顔でこそあったが、怒りのようなものが感じられた。

 ただ、その言い方によって反応したのは、レヴィートではなくトルネルだ。


「……僕が、追放者如きより劣っているっていうのかい? 元聖女様は、あまり冗談がお上手ではないようだね」

「冗談ではありませんから」

「……本気で言っているのかい? 無能の、追放者より、この僕が劣っていると?」


 ただひたすらに言葉で俺を罵倒してくるが、フィアは涼しい微笑を浮かべる。


「正確にいえば、あなたと比べてレンさんが劣っているかどうかはわかりませんよ。仮にあなたが優秀な支援魔法使いだとして、それでもレンさんも優秀な支援魔法使いだとは思っています」

「なら、より優秀な僕がいるパーティーに所属するのが道理じゃないかな?」


 トルネルはやたらとフィアに固執する様子を見せている。

 しかし、フィアは一度深呼吸をしてから、真剣な眼差しを向ける。


「それでは、はっきりいいましょうか」


 そう前置きをしたあと、フィアの双眸に力がこもった。


「私、そちらのレヴィートさんとゴーグルさんが人間的に好きじゃありません。それに、少しやり取りをしただけですが、あなたのこともです、トルネルさん。……仮にあなたのほうが優秀な支援魔法使いだとしても、一緒にパーティーを組んでいて、一緒に活動していて楽しめる方々と組みたいだけです」

「なっ!?」

「個人だと、嫌いな奴と組まなくていいんですから。無理はしたくないんですよ」


 にこり、とフィアが微笑むとイルンもすっと片手をあげた。


「僕も、だいたい同じ理由かな? クランに所属していない冒険者でそこそこ戦える人ってあんまりいないからここにいただけだしね。それじゃあね」


 フィアとイルンがそういって、俺のほうに来る。


「パーティー、組んでいただけますか?」

「僕も、お願いしたいんだけどいいかな?」


 フィアとイルンも俺の前にたち、そして三人の視線が向けられた。

 これからはソロで活動するものだと思っていたのだが、別にソロでやりたかったわけではない。

 パーティーを組めるのなら、それもこれまでである程度親しくなっている人たちとならもちろん、組みたかった。


「……ああ、別に構わないけど、いいのか?」

「うん。僕たち三人で話してたんだよね。二人の性格が治らないようなら三人で別のパーティーを組もうって」

「そこに、ちょうどレンが来たし。いいタイミングだったのよ。それじゃあ、今日から改めてよろしくね」


 イルンとミリナがそういったところで、ギルドの入口が大きく開け放たれた。

 そちらに視線を向けると、慌てた様子の女性がいた。

 寝起きなのか、髪などは乱れている。だが、それを加味してもその容姿は美しく、彼女の動きにギルドにいた人たちは見とれていた。

 リナーリアだ。息を切らした様子の彼女は、俺を見つけると慌ててこちらへかけてきた。


「リナーリア? どうしたの?」

「……さっき、レヴィートのパーティーに支援魔法使い希望の人が来たって聞いて慌てて跳んできたんだけど」

「ああ、そういうことね」


 ミリナたちは呆れた様子であったが、すぐに状況を理解したようで微笑んでいる。

 そして、リナーリアはじっと俺の目を見てきて、それから小さく口を開いた。 


「……その。私も、一緒のパーティーに入れて、ほしい」


 恥ずかしそうにしながら、上目遣いのような形で聞いてくる。

 ……これまた、予想外だった。


「いいのか? 確か、パーティーを組んでいなかったか?」

「あのときは依頼で面倒を見ていただけで私、今はフリー。ギルドからの依頼で新人の冒険者とパーティーを組んで面倒を見るとかはあるけど……そういうわけで、一緒のパーティーに入りたい。レンと………………一緒にいたい」


 ……リナーリアの戦闘能力高さは理解している。

 圧倒的瞬間火力と敵を引きつけたまま戦える柔軟性。

 ぜひともパーティーに欲しい人材だ。


「もちろんだ。これからよろしく、リナーリア」

「う、うん……よろしく」


 嬉しそうに微笑んでくれたリナーリア。

 ……一度の冒険でここまで俺を評価してくれているのは、嬉しい限りだ。

 パーティーを追放されたあとはどうなるかと思っていたが、なんだかんだ問題なさそうだな。


 そんなことを考えていると、がたんと崩れ落ちるような音がした。

 見れば、レヴィートは腰が抜けたように座り込んでいる。


「な、なんで……リナーリアが追放者を……」


 ……どうやらそこにショックを受けているようだ。


「ちょっと、待ってくれ。何が、どうなっているんだ。……元聖女とお近づきになれるからって聞いてきたんだよ!? というか、あの美しいエルフの女性はなんだい? なぜ、皆追放者なんかを選ぶんだい? おい!」

「それは、あいつが勝手に抜け、やがったから……」

「それは、そうみたいだが……何がどうなっているんだい……。意味が分からないよ。彼女らは追放者の意味を理解しているのか?」


 困惑した様子でトルネルがひたすらに質問をしているが、俺たちはもうそれに付き合う必要はないだろう。

 今日から、彼らはただ同じ職業というだけの他人になるわけだ。


「レン。今日はどの迷宮に行くのよ?」

「……ひとまず、リナーリアも増えたことだし連携の確認含めてCランク迷宮でいいんじゃないか? 色々起きすぎて、脳内を整理したいし……」

「そうね。まあ、軽めに行きましょうか」


 ミリナとともにそう言って、俺たちは新しいパーティーを編成してギルドを出ていく。

 ……ここにいる人たちは、俺の能力を認めてくれたから、ついてきてくれたんだ。


 彼女らの信頼は……嬉しい。

 ……それを裏切らないようにだけ、気を付けないとな。



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神様特典(チート)で最強支援者ライフ ~異世界に追放された青年は、超安定の冒険者生活を送りたい~ 木嶋隆太 @nakajinn

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