第40話



 まあ、今日はそんなに狩っていないからな。金はほとんどないよな。

 Bランク、と刻まれた冒険者カードを見て、レヴィートが嬉しそうにしている。


「ははっ! おいてめぇら! 見てみろ、とうとうBランク冒険者だぜ!」

「おお! トリアートの街にもBランク冒険者がでてくるなんてな!」

「おまえ、どっかのクランに所属するつもりじゃねぇだろうな?」


 トリアート、というのはこの街の名前だ。

 冒険者たちの称える声を一心に浴び、レヴィートは優越感に浸っている。ゴーグルもそこに混ざり、二人は冒険者たちにアピールしている。


 この街からすれば、Bランク迷宮はかなりのランクになるだろう。

 そもそも、Cランク冒険者がレヴィートたちしかいないような状況だったみたいだしな。

 俺が受け取った冒険者カードにも同じようにBランクと刻まれている。


 それをポケットにしまってから、【アイテムボックス】に収納。いつもの作業だ。

 今日はもう終わりで良さそうなので、俺たち四人はギルドを出ていった。


「はぁ……なんか、この町の冒険者たちは嫌ね」

「そうですね。別の町に行きたいところですが、レヴィートさんとゴーグルさんは気に入っているようですよね」

「なんでも、夜の店にお気に入りの子がいるらしいよ」


 イルンがそういうと、ミリナがあきれた様子で口を開く。


「ああ、そういうこと。どうせまたフラれるわよ」

「それが、Bランク冒険者に上がったら付き合ってあげるとか言われたらしいよ」

「はぁ? それじゃあなによ。あたしたち、そのために結構無茶してBランク迷宮の攻略させられてたの?」

「かもね」


 がくり、とミリナが肩を落とす。

 ……まあ、確かにそれが理由となると少し落ち込む気持ちも分かる。


「まあでも、強くはなってるんだしいいんじゃないか?」

「それは、そうね。とりあえず、あたしたちは打ち上げにどっかで食事でもして帰りましょ」

「そうだな」

「それでは、お酒の美味しいお店がありますのでそちらにしませんか?」

「もちろん、美味しいものもあるんでしょうね?」

「ええ、色々ありますよ」

「それじゃあ、フィアのおすすめに行くわよ!」


 ミリナが元気よくそう言って、俺たちは店へと移動していった。




 俺たちBランクに昇格してから、三日ほどが経った日だった。

 いつものように迷宮へ潜るのか、と思っていたのだが、俺たちはギルドへ向かっていた。

 切り出したのはレヴィートだ。今日は予定があるから、という話だ。


「それで、何よ。依頼でも受けるの?」

「ついてからのお楽しみだ、って言ってんだろ?」

「あんたねぇ……一応準備ってものがあるでしょうが」

「うるせぇよ。依頼じゃねぇ、いつも通りBランク迷宮に挑むだけだから気にすんなよ」


 それならばいつもの通りギルドに行けばいいのだが、レヴィートとゴーグルはニヤニヤと俺を見てくる。

 ……どういう意味か分からないがあまりいい予感はしないな。

 ギルドへと入ると、受付近くに一人の男性が立っていた。

 ギルド職員がこちらに気づき、声をかけてきた。


「レヴィートさん。呼びつけるようになってしまって申し訳ありませんでした」

「いや、気にするな。それで? そいつが……例の?」

「はい。こちらが、あなたのパーティーに参加したいという支援魔法使いのトルネルさんです。ランクは現在Dランクになりますね」


 こちらに振り返ったトルネルは、にこりと微笑んだ。


「Bランクパーティーが支援魔法使いを募集していると聞いたんだけど、ここで間違いないよね?」

「ああ、そうだぜ! 本職の支援魔法使いなんだな!? 追放者じゃないんだな!?」


 とてもとても、レヴィートは嬉しそうである。

 ……とうとう、この日が来てしまったか。


「ああ。僕はちゃーんと、この世界の人間さ。今は追放者が支援魔法使いをやっているんだってな。どいつなんだい?」


 トルネルの視線が俺たちへと向けられ、レヴィートが俺を指さしながら嗤った。


「あいつだよ。本当に無能でな。早いところちゃんとした支援魔法使いをパーティーに入れたいと思っていたんだよ」

「……見た目から無能そうだね。僕はもともとクランに所属していてね。個人で活動したくなったところに高ランクのパーティーを見つけて運が良かったよ」

「クランに? なんでクラン抜けたんだ?」

「クランはどんなに稼いでも報酬を持っていかれるだろう? 僕みたいな優秀な人間はパーティーで活動したほうが稼げるんだよね。個人の方が自由だし、何より嫌いな奴とも組まなくていいしね。僕はよく才能をねたまれることがあってねぇ、そういう煩わしい人間関係が嫌なのさ」


 かなり強気な冒険者だ。

 ただ、彼の言い分も納得できるし、実際その道を選ぶ冒険者も多いらしい。

 ある程度クランでレベルを上げてから独立。仮にソロでDランク迷宮にでも潜れるようになれば、生活で苦労することはないからな。


「なるほどな。オレと同じ考えじゃねぇか」


 レヴィートとトルネルは笑みをかわしてから、ぐっと握手をした。

 ……どうやら、ここまでのようだな。

 俺のレベルは現在35。……まあ、異世界に来てからの日数を考えれば、かなりあげられたよな。


 ここからはソロになるが、スキルとステータスをきちんと割り振っていけばいくらでも戦えそうだ。

 レヴィートたちが握手を終えたところで、視線が俺に向けられる。

 そして、彼は首を切るように親指を動かした。


「それじゃあ、そういうわけだ追放者。おまえは元の世界からだけじゃなくて、オレたちのパーティーからも追放されるってわけだ」

「まあ、仕方ないよな? おまえじゃなければオレたちはとっくにもっと上に行っていたんだからな」


 レヴィートとゴーグルが笑みをかわし、トルネルもどこか見下した笑みを浮かべていた。


「そういうわけだよ、追放者くん。ちゃんとした支援魔法使いがこのパーティーをさらなる高みに導いてあげるからね。安心して冒険者を引退しなよ」


 トルネルがはっきりとそういってきて、俺は小さく頷いた。

 ……いきなりになるが、今日からは一人での自由行動だな。


 お金はコツコツ貯めていたので余っているが決して余裕があるわけではないので、しっかりと稼いでいかないとな。

 そんなことを考えながら、俺がギルドの出口へと歩き出そうとしたところでミリナに腕を掴まれた。


 どうしたんだ? と思っていると、彼女は口を開いた。


「レヴィート、話があるわ」

「なんだ? まさか、そいつを残せって話かよ?」

「違うわ。あたしはパーティーを抜けるわ」

「は!?」



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