第39話



 【ダンジョンワープ】を使い、俺たちは迷宮から脱出した。

 いつもよりだいぶ早い時間だ。俺としてはもう少しレベル上げをしたかったが、レヴィートはさっさと帰ってランクを更新したいそうだ。


 ギルドへと戻ったところで、いつものように素材を渡していく。

 そして、レヴィートに渡していたキングネオワーウルフの素材を、受付に差し出した。


「おい、これ。何か分かるか?」

「まさか……キングネオワーウルフの素材ですか!?」


 驚いたようにギルド職員が言うと、レヴィートは嬉しそうに笑う。


「ああ、そうだよ。そういうわけで、Bランク昇格を頼む」

「か、かしこまりましたっ」


 レヴィートが冒険者カードを預けたので、俺たちも同じように渡す。

 それから、素材の鑑定や冒険者カードの書き換えが終わるまで、ギルドで待機していたのだが、


「レヴィートすげぇな!」

「追放者とかいうハンデありでここまで上がるとか……おまえ、本当才能だけはあるな」

「だけはよけぇだ! オレはすべてにおいて天才なんだよ!」


 レヴィートとゴーグルは冒険者たちに囲まれてちやほやとされていた。

 Bランク昇格、それも追放者ありでの達成は偉業として語られている。

 それを余っていた四人掛けの席に座って聞いていたのだが、ミリナが苛立った様子でぼそりと口にする。


「……どっちかっていうと、その追放者のほうが活躍してたと思うんだけどレヴィートの脳って都合いいわよね」

「ここまでポンコツですと……あまり前衛の方だと、支援魔法の恩恵を受けにくいのでしょうか?」


 フィアの純粋な疑問に、イルンが首を横に振る。


「いや、僕は凄い動きやすくなってるの分かるよ。まあ二人はソロで活動することはないから気づかないかもしれないけどさ」


 イルンの場合、休みも訓練として多少迷宮に潜っている。

 だから、支援魔法がある状態とない状態での変化に気づきやすいのだろう。

 レヴィートとゴーグルは訓練は嫌いなようで、まったくそんな様子はない。

 ……まあ、俺もそんなに地道な努力が好きなほうではないので、気持ちは分からないでもない。


「レヴィートとゴーグルって、支援魔法を受けたあとの力が自分の能力だと思ってるわよね。……パーティー単位で考えれば間違いじゃないけど、あそこまでの態度をとれるのは凄いわよね」


 ミリナは呆れた様子で肘をついて、そちらを眺めている。

 俺としては別にどんな評価を受けようが、レベルが上がればそれでいいという感覚だ。

 レヴィートたちを眺めていると、こちらに数人の男がやってきた。

 そして、座っていた俺を突き飛ばしてくる。


「おい、どけよ追放者」

「よわ……っ」


 彼らは倒れた俺を見てくすくすと笑ってる。

 ……あいにく今は支援者モードのステータスなので、悪意の前に無力である。

 ぺたりと床に座っていると、男たちの視線はフィアへと向けられた。


「なあ、フィアちゃん。今晩、一緒に飲みにいかないか?」

「そうそう。なんなら奢るぜ?」

「この前そこの雑魚と飲んでたろ? オレたちのほうがよほど楽しませられるぜ?」


 フィアはやはりその容姿からあちこちで声をかけられることが多い。

 冒険者たちの視線はフィアの体へと向けられていて、その表情はだらしのないものとなっている。 

 うちのパーティーだと、フィアが一番モテる。ミリナも整ってはいるのだが、あまり声をかけられるところは見ないな。


 イルンは女性冒険者からたびたび声をかけられている。俺はもちろん皆無。……別に容姿が悪いからではないはず。

 俺が追放者だからだ……きっと、そうに違いない。


「行きませんが。それより、レンさんを突き飛ばしたことへの謝罪などはないのですか?」

「ああ? 追放者だろ? どうでもいいじゃんか」

「そうそう。レヴィートたちの腰ぎんちゃくでBランク昇格だろ? ずるいんだよおまえ!」


 苛立った様子で冒険者が蹴りつけてこようとしたので、ひょいとかわす。

 ……彼らはEランクかDランク程度の冒険者だろう。

 【速度強化】、【速度強化+】を使えばもともとのステータスでも十分にかわすことができた。


「ちっ、逃げ足だけは速いな」

「……あんたたち、それ以上やるっていうなら、あたしも相手になるわよ?」

「さすがに、乱暴がすぎないか?」


 ミリナとイルンが苛立った様子で魔法を、短剣を構える。

 冒険者たちは気にくわなそうに俺を睨みつけてから、去っていった。

 ……俺への嫉妬の視線は、いくつもあるな。


「……あいつ、追放者の癖にレヴィートたちについていっているだけでBラク冒険者だろ?」

「……ありえねぇ。ギルドのランク昇格見直したほうがいいだろ」

「ていうか、女とガキに守られてるって情けねぇな」

「庇護欲でもかきたてるんかねぇ? 雑魚ってのも取柄なのかもな」


 これまでもわりと蔑みの視線は多かった。


「だ……だだだだだ誰がガキですって……っ!」

「まあまあ、落ち着いてください」


 フィアは笑顔でミリナを押さえているが、ミリナの顔は怒りで燃え上がっている。

 だが、今回Bランク昇格が決まったからか、そこに嫉妬も混ざるようになったようだ。

 ……Bランクに上がっても別にやることが変わるわけではないし、上がらないほうがいいのかもな。


「皆様。ランクの更新が終わりましたのでこちらへ来てください」


 受付に呼ばれたので、席から立ち上がる。

 レヴィートが先頭に立ち、ゴールドと冒険者カードを受け取った。

 ギルド職員から渡されたゴールドは、108200ゴールドだそうだ。



―――――――――――

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