記憶の地層は鋼鉄の翼を艤装し未来を志向する

とても凝ったSFです。
SFには違いないのですが、人類のひとつの到達点である殺伐とした景色と、古代に息づく機械仕掛けの神が同時に存在する、倒錯した時代感を味わえる文学作品です。

古色蒼然。ただし電子演算機能付きの。

一話一話は短いですが、難解な用語、漢字、言い回しが多用されており、それがギュッと凝縮されているので、見た目よりも読むのに時間がかかるかもしれません。
圧縮されたファイルを解凍するかのごとき作業を、己の知識と感性で丁寧に行っていく。
そういう知的遊戯を厭わない方には、心の底からお薦めさせていただきます。

振り返ってみれば、小説を読むというより、アート作品を鑑賞するような気持ちでこちらの作品と対峙していたかもしれません。

絵画で言うならダリやジョルジョ・デ・キリコといった、シュルレアリスム画家たちの世界観に近いと感じます。

読みながら常に頭の片隅にちらついていたのは、ミヒャエル・エンデ作『はてしない物語』の中で、主人公バスチアンが最後に辿り着く「記憶の採掘場」の光景です。
いや、実際に見たことはないのですが。

まるで地層のように降り積もり、重なり、化石となった記憶たちを、遥か遠い未来の地点に立って作者は掘り起こしている……
そんな気がしながら、掘り出された一点一点の記憶を、私も覗き見させていただきました。とても刺激的で楽しい時間でした。

硬質な作風ではありますが、著者の蘆 蕭雪さんは、大変懐の深い方です。
どんな手前勝手なコメントを残そうとも、おおらかに受け入れてくださり、その世界で自由に遊ばせてくださいました。

一見無機質で金属的な外殻の内部に広がる鮮やかな幻想世界を、ぜひご堪能ください。