第37話 エピローグ 似た者夫婦

 季節は巡り、また春がやってきた。


 光二の自宅も再建され、庭には魔法で急速育成された桜が咲き誇っている。


 この所忙しく日本の復興に奔走していた光二も、最近はようやく休日をとれるようになってきた。


 そんな一日、光二とルインは並んで縁側に胡坐を掻き、花見をしていた。


 周りには馴染みの自衛隊員たちもいて、好き勝手に飲んでいる。


「大将、ご一献」


 三島が光二のぐい呑みが空いたのを目ざとく見つけ、酒瓶を傾けてくる。


「ほどほどにしてくれ。もう十分飲んだよ」


 光二は苦笑する。


 自衛隊員は体育会系なところがあり、やたらとみんな献杯してきたがる。


 光二はそれに一通り応えたので、結構酒量が進んでいた。


「そんなことおっしゃらないでくだせえ。大将がガブガブ飲んでくださらないと、部下の小官も酔いにくいんでさあ」


 三島が赤ら顔に人好きのする笑みを浮かべて言う。


「そういうことであれば、私が頂こう。貴官の上司ではないが、軍属としての階級は上だろう?」


 ルインが光二のぐい飲みを取って、一気に飲み干す。


「おお! さすが奥方はきっぷがいいや!」


 三島が愉快そうに手を叩いた。


「いやあ、でも、とりあえず、こうして酒を飲めるくらい日本が復活して、よかったすね! ちょっと値は張りますけど、ジャンクフードも復活してきて、ジブンは嬉しいっすよ!」


 園田がジョッキにコークハイを作りながら言った。


 彼女の酒のアテは自腹でどこからか買ってきたらしい唐揚げだ。


「統計予測によると、今年の日本のGDP成長率が+10%を記録しそうです。この調子で安定的な成長が見込めればいいですね」


 本郷がコンビニコーヒーに数滴のウイスキーを垂らし、タブレットをいじる。


 『戦後の焼野原から経済大国へとのし上がった奇跡』。


 日本人なら一度は耳にしたことがある成功譚。


 それが今、再現されつつある。


 ただし、その主体が日本人であるとは限らないのだが。


「我が国の民と、日本人の融和も進んでいるようで何よりだ」


 ルインが献上されてきた鹿肉のジャーキーを齧りながら言う。


 パルソミアからの移民はすでに日本に入っている。


 都市部はまだ様子見で控えめな人数だが、日本の国土的に余りまくっている山間部には割と多めに入れた。


 今のところ、日本人との軋轢の話は聞こえてきない。


 むしろ、山林の整備が行き届くようになって、マツタケが復活したり、獣害が減ったりと、近隣の農家からは逆に喜ばれているほどだ。


「アメリカから連れてきた難民も、思ったよりも日本に定着したしなあ」


 光二はチェイサーのお茶をコップに注いで飲み干す。


 エイリアンの襲撃の前から、先進国の割に賃金の安い日本に工場が回帰する流れはあった。しかし、襲撃後はそこに光二たちのチートによる物理的、政治的安定性が加わり、さらに世界中の企業から日本に工場を建てたいという需要が増えた。


 そうなるとただでさえ逼迫していた日本の労働力不足はいよいよ如何ともしがたくなり、『誰でもいいから働いてくれ』という状況になった。


 アメリカから保護してきた難民はそんな日本の労働環境には渡りに船であり、パルソミアに行くのを嫌がった移民たちをスムーズに日本に編入しやすい状況が生まれた。


 光二はそんな難民たちのために、日本の壊滅した街のいくつかを移民街として新規に整備し直した。


 そこには元からの住民の日本人はいないので、当然、反発も起きず、移民のスムーズな受け入れが可能になったという訳だ。


「あれだけ移民は嫌々言ってたのが嘘みたいっすよね。これから色んな国の本場の味が楽しめる店が増えそうで、めちゃくちゃ楽しみっす!」


 園田は唐揚げに謎のスパイスをかけながら言った。

 彼女の言う通り、全国的にも思ったよりも移民の導入への国民からの反発は少ない。

 そうなったのは、もちろん、光二がメディアの論調を支配してそういう方向にもっていたというのも一因ではある。


 だが、それ以上に、異世界人の移民がたくさんいる現状では、地球の移民と日本人との文化の違いなど、気にするのもバカバカしいほど些細なものに思えたという所が大きいのだろう。


 いくら日本人が閉鎖的とはいっても限度はある。ショック療法というか、良くも悪くも流されやすい日本人の国民性が良い方向に発揮された一例といえるのかもしれない。


「なんにしても、平和にこしたことはねえやな。このまま呑気に花見酒でも飲んでくらせりゃあ、小官は言うことなしでさあ」


 三島はそう言って、舞い散る桜の花びらに手を伸ばす。


「俺もさっさと総理なんて辞めてルインとイチャコラ――んっ」


 軽口を叩こうとしたその時。


 唐突にこめかみに感じる疼痛。


 肌が怖気立つ。


 すなわち、強敵の気配。


「ふっ、やはりコージも感じたか?」


 ルインがぐい飲みを置いて立ち上がる。


「ああ。また宇宙人どもが動き出しやがったな。全く花見くらいのんびりさせて欲しいんだが」


 光二は小さくため息をついて、大きく伸びをした。


「前のエイリアンのようなシステマチックな動きではない。組織立っている。気配の大きさから推測すると――接敵までおよそ一ヶ月といったところか」


 ルインはそう言って、窓の外の昼の月をじっと見つめる。


 桜の木陰から出てきたアブドラが、ホバリングして空を睨みつけた。


「多分、先日のエイリアンは敵の先遣隊、次は敵の本体ってことだよな。……日本は狙われるだろうな」


 光二は解毒の魔法を発動し、一瞬で酔いをさます。


「無論、敵にも戦況のフィードバック手段くらいはあるだろう。まともに分析すれば、現状、地球での一番の軍事的脅威は私たちだろうからな。真っ先に潰そうとするのは当然だ」


 ルインが飛んできたアブドラを抱きしめて答える。


「激しい戦いになりそうだな?」


 光二は不敵な笑みを浮かべる。


「ああ。このヒリつく感覚は久しぶりだ」


 ルインが無敵の笑みを返してきた。


 二人が甘い夫婦の時間を楽しめるのは、まだまだ先の話のようだ。



 ==============あとがき==============

 二人の戦いはこれからも続くようです。

 ……という訳で、ひとまずキリが良い本話にて、この作品は完結とさせて頂きます。

 ここまで拙作にお付き合いくださった皆様に、心からの感謝を申し上げます。

 続きに関しては評判が良ければもしかしたら――書けたらいいなと思っておりますが、どうなるか分かりません。

 こんな本作ではございますが、もしおもしろかったと思って頂けましたら、★やお気に入り登録などで応援して頂けますと、大変励みになります。

 改めまして、最後まで拙作をお読みくださり、まことにありがとうございました。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バカ息子総理、実は異世界帰りの最強勇者につき―日本が宇宙人に侵略されたので、エルフ嫁と一緒にチート魔法で反撃することにした―― 穂積潜@12/20 新作発売! @namiguchi_manima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画