103. やはり頼りになるのは

「うーん。さすがはお兄さん。何をやったらそうなるの?」


 今日はウェルンとのコラボ配信だ。ゲーム開始からの出来事を軽く話した結果、飛び出してきた感想がこれだった。


「俺が聞きたいわ」

「そばで見ててもわけわからないのです」

「まぁ、いつも通りか」


 聞いといて雑にまとめるのはやめろよ。たしかに、いつも通りだけども。


「今日は近くの森で魔物を対峙しながら魔法システムの紹介をしようと思ってたけど……大丈夫?」

「大丈夫ではないが、今後も習得できる当てはないぞ」

「その精霊の子は?」


 と、ウェルンが視線を向けるのは、俺の後頭部。そこには、俺の髪をがじがじと齧っているドラトがいる。


 精霊魔法は、戦闘のたびに精霊を呼び出して戦うのが基本だ。呼び出されていないとき、精霊は自由に過ごしているらしい。ドラトは、その自由時間で俺の髪を齧ることを選んだ。それだけの話である。


「戦闘では役に立たないぞ」

「ブブ」


 抗議するようにドラトが声を上げる。だが、まだイカ墨ブレスしか吐けないので、役立たずなのは純然たる事実である。


 俺の言葉を聞いたウェルンは半笑いで頷く。


「まぁ、魔法が使えなくったって、何かしら撮れ高を作ってくれそうだし問題ないよ。いざとなれば、リリィ師匠がいるからね」

「任せるのです! ダーリンの代わりはリリィが立派に務めてみせるのです!」


 というわけで、一応、コラボ配信は実施されることになった。向かうのは、魔術学園の周辺に広がる平原だ。ハーラッパ平原という名前らしい。俺が言うのも何だがネーミングセンスが死んでいる。


 ハーラッパ平原は、グラン・マギステッドにおいては最も敵のレベルが低いフィールドで、俺達のようにゲームを始めたばかりのプレイヤーでも十分に戦える。


 もっとも、それは魔法が使えればの話だが。


「炎の矢、炎の矢、爆炎……なのです!」

「旋風、風刃、旋風、風刃! 軽い敵にはこの組み合わせは良さそうだね」


 リリィとウェルンが楽しそうに戦っているところで、俺は死闘を繰り広げていた。相手は“ぷるるんジェリー”というグラン・マギステッド最弱の敵である。


「ぬおぉぉぉ! コイツ、腕に張り付いてくるぞ!」


 武器すら持っていないので素手ゴロで戦っているが、まったくダメージが通らない。魔法を使うこと前提のゲームだからか物理耐性がやたらと高いのだ。


「ブ、ブブ!」


 頼みの綱となるはずだった精霊のドラトは俺の頭に張りついたまま楽しげに声を上げるばかり。応援してくれているのかもしれないが、役には立たない。


「お兄さーん! そいつはほぼ完全な物理耐性があるみたいだよ! 魔法じゃないと倒せないって!」


 自分の敵を倒し終えたウェルンが少し離れたところから絶望的な情報を伝えてくる。だったら、手伝ってくれと思うのだが、ニヤニヤするばかりでその気はなさそうだ。


「ダーリン! 今、助けるのです!」

「待って、師匠。ここはお兄さんを見守るべきところだと思う。過酷な状況に追い込まれることで、お兄さんの真の力が発揮されるかもしれないでしょ?」

「むむ……? そうなのです?」


 騙されるな、リリィ。あの顔は、絶対に何かよからぬことを考えているぞ!


 そう叫びたかったのだが、厄介なことにジェリーのヤツがまとわりついてくるのでそれどころではなかった。腕を伝って、顔に張り付かんとしてくるので、こちらも必死だ。


「お兄さん、このままじゃやられちゃうよ! 形振り構ってる場合じゃないって! どんな形でも魔法は魔法だよ!」


 この言葉を聞いて、俺は悟った。ウェルンのヤツ、俺に額から出すレーザー魔法を使わせるつもりだ! 撮れ高のために、俺を犠牲にするつもりか!


「ぐおおお!」


 まったく、なんてヤツだ!


 怒りの力で少しだけジェリーを引き剥がすことに成功したが、それも一瞬のこと。やはり魔法無しで抵抗するのは難しく、徐々に体が飲み込まれてしまう。


 だが、使わんぞ!


 自分で決断したならともかく、ウェルンにはめられる形で披露する気はない。ウェルンの撮れ高のために利用されるなんてまっぴらごめんだ。


 最悪、ここで死んでも構わない。が、足掻けるだけ足掻いてみよう。


「精霊召喚――――金だらい!」


 呼び声に応え、金だらいが空から降ってくる。それは俺の頭にぶつかってカアァァンと良い音を響かせた。


 だが、それだけでは終わらない。金だらいがバウンドしてジェリーにぶつかると、ジェリーの一部が弾け飛んだのだ。


「効いてるのです!」

「あはははは!」


 ウェルンが大笑いしている。結局、ヤツが望む展開になっている気がしなくもないが、額からレーザー出すよりはマシだろ、たぶん。


 くくく!

 金だらいが効くなら、おそらく、こっちも効くだろう。


「精霊召喚、フライパン!」


 どこからともなく飛んできたフライパンが、掲げた右手にピタリと収まる。やっぱりコイツは手に馴染むな。


「のおおおおお!」

「ブブ、ブブ!」


 フライパンを手にした俺に、ジェリーなど敵ではなかった。今までの鬱屈を晴らすべく、容赦ない殴打を繰り出して、ついにジェリーを消滅させることに成功したのである。


 なんか、別のゲームなのにGTBと同じようなことしてるな。いや、GTBもフライパンで戦うゲームじゃないんだが。

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2025年1月9日 07:05 毎週 火・木・土 07:05

究極のデジタル音痴は今日も不本意ながらゲームを壊す 小龍ろん @dolphin025025

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