ブレインタッチ

oufa

本編


「あのぉ、すみません。ちょっとお時間よろしいですか?」


 一組のカップルに声を掛ける二人の男。一人の男はカメラを手にしていた。


「実は私は奇術師でして。今動画配信の撮影をやってるんですが、ご協力いただいてもいいでしょうか?」


 男の一人がお願いするとそのカップルは快くOKをした。


 この奇術師を名乗る男、いにしえは人の考えていることがわずかに分かる。対象の人物が頭に思い浮かべてことを読み取ることができるのだ。


 古は少し派手な格好をしたカップルの女性の方に話し掛けた。



「それでは彼氏さんの名前を当ててみたいと思いますので、彼女さん、目を閉じて好きな人の名前を頭で想像してみてください」


「え~ほんとに当てれるのぉ?」


 彼女は少し笑いながら目を閉じる。古は左手を彼女の頭近くにかざすと遠い目をした。何度か首をかしげながら「う~ん」と唸った。


 少し笑みを浮かべながら目を閉じている彼女。その横に立っている彼氏の方も期待半分、疑い半分な顔で古を見ていた。



「わかりました。目を開けてください」


 彼女が目を開けると古はしばらく悩んだ末に口を開いた。


「彼氏さんの名前はシンイチさんですね?」


「おぉ! すげえ! 当たってる」


 隣にいた彼氏が驚きのリアクションをする。わずかに遅れて彼女も「すご~い」と拍手を送った。一方、見事的中させた古はわずかに照れたような笑みを浮かべた。




 カップルが仲良く手を繋ぎ去った後、カメラを手にしたスタッフが古に話し掛ける。


「今日は随分悩んでましたね? 調子悪かったですか?」


 すると古は苦笑いしながら答えた。



「彼女の頭には三人の男の顔が浮かんでたんだ。でも全員同じ名前で助かったよ」







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