004 全然、参考にならない!

「で、何だけどさ、俺はどうやら年齢より上に見られるらしいな」

「うん、やっと気付いたのか、彗」

 放課後の部室……という名の生物実験室。俺が文庫から手を離して、近くに座る光瑠に話すと、光瑠もこれまた文庫を閉じ……とはならず、目を離さずそう言ってのけた。

「で、一体どういったところがそういった誤解を生んでいるんだと思う?」

「珍しいね。彗が見た目を気にするなんてことがあるなんて。それこそ天と地がひっくり返るしかそんなことはないと思ってたけど」

って訳ではないんだけどな。実際より若く見えるんは問題ないけど、歳いって見えるのは問題なんよ。校内屈指の童顔イケメンの光瑠には判らないかもだけどな」

「ふぅん。因みに聞くけど、どんな問題があるネ?」

 校内屈指の、で光瑠は一瞬顔を顰めたが、そんな風に返してきた。光瑠は自分の容姿を気に入っていない。誤解を恐れずに言うなら、『女のアクセサリーにはなりたくない』。光瑠はよくそんなことを言う。

「なんでそんな中国人みたいな話し方をするネ?」

「多分、姚扶琳ヤオフーリンの喋り方が移っちゃったんだな」

 そう言って、光瑠は持っていた本の表紙を指で軽く叩く。

「で、どんな問題があるんだ?」

「うん、光瑠が出来ることが出来ないという問題がある」

「答えになってないっていう自覚ある?」

「ない。俺は答えた。だから俺がのが

「まあ、いいよ。どーせロクでもないことだろうしね」

 そう言って光瑠は再び文庫本に目を戻す。

「ま、精々頑張って考えたまえ、ヘイスティングス」

「だっから、どうでもいいって言ってるだろう!そしてお前がポアロを名乗るな!」

「それでな、俺は今日この本を買って来たんだがな」

「今日?彗が学校に来たのが8時過ぎ。7時台から空いているなんていう稀有な本屋がこの近辺あるいは君の近所にあるのか?」

「いや、ない。反語を使う必要あったか?」

「きっと、それも姚扶琳の口調が……なんていう嘘くさい冗談はさておき。まさかあのミスミ山を水源とする 延長6516mのかの有名な川の名前をする通販サイトで学校に届けさせた訳じゃないよな」

「そんな頭の悪いことはしねぇよ、光瑠じゃあるまいし。てか、たった4文字をよくもそんなにややこしく言えたもんだな」

「色々と権利の関係が……ね?で、どうやって買ったんだ?」


 流石に興味が出てきたのか、ページが進まないまま開いていた本を閉じる光瑠。


「昼休みに、近くの本屋に買いに行った」

「驚くほど普通だな!」

「そうだろ、そうだろシンプル・イズ・ベスト。アマ……じゃなかったミスミ川を水源とする延長6516mのかの有名な川の名前をする通販サイト……だったなを使うなんていう面倒な方法とる必要ないんだよ!」

「そこ威張るとこじゃないと思うけど。

 でも、守衛さんに止められなかったの?」

「うん?頭下げて挨拶しながら行ったらスルーだったぞ?」

「帰る時も?」

「ああ」

「彗、それって明らか教員と間違えられてるよね?」

「そうなるな!」

「まぁ、確かに……」

 と、光瑠は俺の全身を眺める。そんなに見つめられたら照れるって……!なんちゃって。

「彗っておっさんぽいわな」


 そう、何を明かそうこの学校、制服なるものがなく、私服で通うことができるのだ。

 というと、語弊がある。

 去年まではここ、聖嶺高校も制服があったのだが、現代の風潮に乗っかった形か今年から制服が廃止。1年であろうと3年だろうと旧制服を買うことも出来るから着てる者も少なくはないが、俺、光瑠両名はきていない。


「という訳で、冒頭に戻る訳なんよ!俺が年齢より上に見られるっていう話」

「ああ、そういうこと」

「どうよ、俺の華麗なる伏線回収は!」

「どうもこうも、彗がまたバカやってるなってことだけなんだけど」

「なんと、心外な!」

「胸に手を当てて、今までの行いをゆっくりと省みたらどうだ?」

「…1…2…3…ああ、大丈夫だ。何も思い当たることはなかった」

「あ、そう。で、何の本を買ってきたの?」

「うん?これこれ。でもミステリじゃないぞ」

「『なぜか、部活の後輩に懐かれています!』ぅ?」

「ああ、永沢らの対策に丁度いいんじゃないかと思ってな。昨日ネットで見つけて、今日の昼休みに爆速で買いに行ったわけだ」

「で、その実態はとある男子高校生が部活で後輩女子に好かれる部活内ラブコメだった訳か。しかもハーレム……」

 ウエ……と気持ち悪いものでも見たかのように光瑠は顔をグチャと崩して顔を背ける。学校屈指のイケメンが台無しだ。

「5時間目の物理の時間内に爆速で読み終わらせたんだが、得られ情報はなかった」

「えっ?そうなの?今の状況に丁度いいと思ったんだけど」

 心底驚いた顔で光瑠はそう言う。

「どこが?こんなのいつでもハーレム状況を作れる光瑠にしか需要ねぇだろ」

「ケーイ!言って良いことと悪いことがあると思うんだけど!?」

「鳩山光瑠様、申し訳ございませんでした。ご無礼をお赦しください」

 首をおかしな方向に曲げられそうだったので、高速で(テキトーな)謝罪をかます。

「まぁいいけど」

「ってか、年齢を若く、とは言わないから年相応に見られる方法を教えて欲しいもんだ。入場料金とか高校生って言っても信じてもらえないから大変なんだよ」

「ああ、さっき言ってたのはそういうこと……」

「そうだ!どうだ、俺の華麗なる伏線回収は!」


 ガラガラガラガラ!


 そんな男子2人のくだらない会話も例の女子の入室によって遮られた。

 ドアを壊されなかっただけマシだが……。



 お読みくださり、ありがとうございました!

 久しぶりの更新になってしまい、(もし、待っている方がいらっしゃったら)申し訳ないです……!

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テキトーに部活を作っていたら、後輩に何故か懐かれたんだが。 田谷波 赤 @Hanshinfan

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