俺の彼女が人として終わっているんだが

Melon

俺の彼女は......

 二十一歳の春、俺は告白した。

 ずっと好きだったけど、声をかけることができなかったあの子に。

 正直今までほとんど話したことなかったからどうせ断られると思ったが、勇気を出して告白した。


「……いいよ」


 返事は、驚くことにOKだった。

 嬉しすぎて泣きそうだった。


 次の言葉を聞くまでは。


「じゃ、さっそく酒飲みにでも行くかぁ!」


 彼女の言葉と口から漂ってきた酒とタバコの臭いで嬉しい気持ちは消え去った。



(うぅ、まさかこんな子だったなんて……)


 俺は憧れだった同級生に告白した。

 長い髪は美しく、食事姿は王族のように綺麗。

 クラスカーストのトップ中のトップ。

 だと思い込んでいた。


「ねーねーお尻ってアルコールの吸収量すごいらしいじゃん? お尻に酒突っ込んだらちょっとで酔えるから得じゃない? あっはっは!」


 自宅で卒論を書いている俺の横で、瓶に入った酒をラッパ飲みしながらそんなことを言った。


「そ、そんなことしたら死にますよ……」


「ふっ、酒で死ねるなら本望よ……。なーんてね、あはー」


(ダメだ、終わってるこの人……)


 呆れた俺は、彼女を無視して卒論を書くことにした。


 告白した数分後に別れたいと思ったが、こちらから告白しておいてすぐに振るのも失礼だし、もしかしたら彼女にもいいところがあるかもしれないと思い、なんだかんだ一ヶ月ほど付き合っている。


「ぷはーっ! タバコうめー幸せー」


 しかし、付き合って一緒にいればいるほどヤバいことしかわからない。

 バイト代は全部酒とつまみとタバコ、人の家で勝手に酒風呂はするし、カーペットに嘔吐する。

 人が一生懸命卒論を書いている前でくつろぎながら酒とタバコ。


「……ちょっとコンビニ行ってきます」


 酒とタバコの匂いに耐えられなくなった俺は、出かけることにした。


「あー私も行くー」


 酒を飲んで酔っ払ってる彼女は立ち上がり、フラフラしながらついてきた。


「……仕方ないですね。道端で吐いたりしないでくださいよ?」


「りょーかーい。……うっ」


 彼女の口から放たれた汚い滝を呆然と眺めた後、掃除をして家を出た。



「クソータバコ値上がりしてるー! このままじゃ私たち喫煙者は生活できなくなっちゃうよー!」


 コンビニ前で地団駄を踏む彼女。

 いい年した成人にあるまじき行為である。


「選挙があったらタバコ税無くしてくれる人に入れよー……」


「そんなんで日本の未来を担う重要人物を決めないでくださいよ……。そもそも、そんな人いませんって」


「じゃあ私がこの国を変える! 私が総理に……」


「うわぁぁぁん!」


 俺たちがろくでもない話をしていると、近くから男の子が泣いている声が聞こえてきた。


「な、なんだ? とりあえず行ってみよう」


 俺は、彼女の手を掴み引っ張る。


「ちょ、急に引っ張らないで。ゲロがぁ、ゲロが出るぅ……」


 そんな彼女を無視し、コンビニの近くの曲がり角を曲がる。


「ママあああ!」


 そう叫びながら、男の子が泣いていた。

 どうやら迷子のようだ。


「迷子か……。とりあえず慰めてあげたいけど……どうすれば……」


「私に任せなさい!」


 さっきまで吐きそうで気分悪そうにしていた彼女が自信満々に言う。

 彼女は、男の子に近づき、しゃがんで顔の高さを合わせる。


「ヘイ少年! 君が欲しいのはお酒? タバコ? そーれーとーもー、歯茎に塗るやつ?」


「うわあああん! この人臭いよおおおお!」


 余計泣いてしまった。


「子どもがそんなもん欲しがるわけないでしょ! あと歯茎に塗るやつってなんですか!?」


「すまんな少年。あいにく私はそういう危険なものはやってないんだ。他を当たりな」


「くさあああああい! うええええん!」


「もう離れてください!」


 俺は、少年を彼女から引き離す。

 少年を落ち着かせるために背中をさすってみたり、優しく声をかけてみた。

 しかし、全く効果がなかった。


「うーん……。どうすれば……」


「少年! こっちを見ろ!」


 突然彼女が男の子を呼ぶ。

 また余計なことをするんじゃないかと思った。

 彼女は、瓶に入った酒を口に含む。


「ひへほほー!」


 彼女は、ライターをポケットから取り出す。

 そして、ライターの火に目掛けて酒を放出した。

 酒のアルコールに引火し、彼女が火を吹いてるように見えた。


「危なっ! 何やってるんですか!」


 俺は、彼女に注意した。


「んっ」


 彼女は、男の子を指差す。


「か、カッコいい!」


「えっ……」


 男の子は、火を吹く彼女に見惚れて泣き止んでいた。

 酒を吹き終えた彼女は、袖で口を拭いた。


「落ち着いたか少年。それじゃあ交番に行ってお母さん探すぞ」


「うん!」


 彼女は、少年と手を繋ぐ。

 そして、歩き出した。


「ま、待ってください!」


 置いてかれそうになった俺は、慌てて追いかけた。



 その後、交番で男の子を保護してもらった。数十分後に母親がやってきて、男の子は無事母親の元へ戻った。


「バイバーイお姉ちゃーん! 僕も頑張ってお姉ちゃんみたいに口から火を吹けるようになるねー!」


「頑張りなー!」


 彼女は、手を振って男の子を見送った。


「それじゃ、私たちも帰ろっか」


「……そうですね」


 俺と彼女は手を繋ぐ。

 付き合ってからずっと彼女のいいところが見つからなかった。

 しかし今日、彼女のいいところを見つけることができた。

 俺は、彼女に再び惚れた。


「あのー。ちょっといいですか? そちらの形、先ほどから手が震えてるんですが……」


「え?」


 俺は、彼女の手を見る。

 確かに、手が震えていた。

 おそらく酒の飲み過ぎでおかしくなっているのだろう。


「まさか、違法薬物とかやってないよね?」


「わ、私は酒とタバコしか嗜んでません! 誓ってドラッグはやってません!」


 そう言ったが、信じてもらえずに帰るのは夜遅くになってしまった。



「はぁ疲れた……」


 疲れてしまい、卒論を書く元気も無くなってしまった。


「いやー。疲れた後の酒は美味いねー」


 帰ってきてからずっと酒を飲む彼女。


「そういえば、卒論は書かないんですか?」


「卒論なんて教授をこの瓶で頭をバシーン! って叩いて脅せばなんとかなるよ! あっはっは!」


 相変わらずめちゃくちゃだ。

 正直、こんな彼女と付き合って後悔している。

 だが、今日みたいにいいところが見つかるかもしれない。

 そんな日がまた訪れることを信じて、俺は付き合い続けることにした。


「あートイレトイレ。やば、吐きそ」


 彼女は、俺の卒論の上で嘔吐した。


「うぅ、背中さすってー……」


「……死んでください」


「ひどっ!」


 おわり

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