人気者になりたかった、ただそれだけ

足の速さなら、絶対に負けるはずがなかった。
でも、誰も見ていなかった。

人気者のカメに嫉妬したウサギは、かけっこ勝負を挑む。
しかしカメは走る代わりに、旅の様子を動画で配信し始める。
そして動物たちは、その動画に夢中になった。

誰にも見られないまま、ただ走り続けるウサギ。
それでも勝ちたかった。認めてほしかった。
孤独なウサギが手を組んだのは、怪しげな動画通のサル。

最初は奇妙なコンビだった。
過激な演出も滑り倒し、動画は炎上寸前。
それでも少しずつ、ウサギには応援が届き始める。

誰かが見てくれている。
それだけで、嬉しくて、足が止まってしまった。

かけっこには負けた。けれど、
初めて名前を呼んでもらえた夏が、そこにはあった。

これは、一匹のウサギが“居場所”を見つけるまでの、ちょっとおかしくて、あたたかい物語。