あの名試合に隠された駆け引きとは……


 誰もが知っている童謡「ウサギとカメ」。

 ウサギが舐めプした結果、素質では圧倒的に劣っているカメに逆転敗北を喫するという筋書きは、
 多くの子供に堅実に進むことの大切さと、逆転の爽快感と、ちょっぴり暗い喜びを与えたとされている。

 本作では「現代版」と称するだけあって、なんと「動画配信」を始めとした現代の要素が盛られているのだ。

 果たして現代の「かけっこ」の勝者はどちらになるのか……?



 この物語は童謡の雰囲気はそのままに、価値観や教訓は現代に向けた内容に落とし込めている点が素晴らしいと思った。

 童謡や昔ばなしは子供に教える名目もあってか、どうしても勧善懲悪・信賞必罰の要素が多くなってしまう。
 それこそ「ウサギとカメ」の歌詞を改めて見てみると、終盤にカメは

「あんまりおそいうさぎさん さっきのじまんはどうしたの」

 と冒頭にバカにされていた恨みもあったのか、仕返しの一言を述べている。


 だが、現代においては、ウサギの滑稽さを嘲笑うより、ウサギの俊敏さに目を向け、手を取り合える物語が望まれている。

 この作品では基本的な筋書きやキャラクターの性格は「ウサギとカメ」基準としつつも、そこに「動画配信」を中心とした様々な要素(「バズる」「うさん臭い内容」「炎上」「ネット特有の連帯感」)を盛り込んでいる。
 その中でウサギは自分が喧嘩を吹っ掛けた理由や、本当の願望を見つけだす。

 原典とは別の意味で爽快感のある、成長の物語に仕上がっている。

 アイデア・雰囲気・テーマ性、どれを取っても高水準な一作であった。