第47話 正義の味方ジョージ月影、参上。
ピーヒョロロ、横笛の高鳴る音。
どこからともなくメロディーが流れる。
来るぞ来るぞ、正義の印
三日月輝く帽子にマント
悪者たちを退治して
平和の大地を取り戻す
月に代わって悪者退治
弱きを助け強きをくじく
ジョージ月影、今参上。
ここは火星のヘラス盆地。
火星最大のクレーターと言われるヘラス盆地は周囲を2000メートル級の山脈に囲まれた自然の奇形である。古くはクレーター内に水が保たれ、巨大な湖だったが、数万年前の気候変動によって乾燥化し、肥沃な泥を含んだ盆地となって現在に至る。気候は寒冷で夏でも摂氏10度に届くかどうかというところだ。冬は極寒で零下20度も珍しくない。
数年前、東ベン農工大学で開発されたバイオ技術により、このような厳しい環境でも十分育つ里芋がこの地で暮らす貧しい農民たちによって育てられている。彼らは茅葺で吹き曝しに近い民家に住み、小さな集落をあちこちに作っている。冬が来ない間に畑の小芋を掘って食料にするのだが、東ベンの朝廷から派遣された地方役人によって収穫物を召し上げられるのでいつも飢餓と戦っているのだ。
今日もこの地を支配する按察使、李安徳の手下が子供たちが収穫した里芋を略奪しようとしている。
「こらあ、ガキども、その里芋を全部こっちへよこすんだ」
ひとりの髭面で人相の悪い役人が子供の手を捻じ上げて、里芋の籠を奪おうとしている。
「お役人さん、やめてください、これは今日の晩飯なんで」
「知ったこっちゃねえわ、このガキ」
もうひとりの太鼓腹で大柄の役人が、少女の里芋を籠から出して着物の懐に詰め込もうとしている。
「ヤダよう、おっかあにおこられちまう。お役人様、返してよお、お芋、返してよお」
「うっせえわ、この地を治める李安徳様の命令じゃ。李安徳様の命令って言えば、畏れ多くも帝のご命令ということじゃ」
芋をずだ袋に詰め込む役人たち。
芋を奪われ、籠を投げ出された数人の子供達が泣きながら役人の袴にしがみ付く。
「返しておくれよお、今日でもう二日も食ってねえ。返してよおくれよお」
ピーーー、ヒョロロ、ピーヒョロロ。
突然横笛が北風の中をつんざく。
「誰だ!」
髭面の役人が叫ぶ。
すると茅葺の小屋の隅からひとりの男。
青いマントが風にはためき、青いシルクハットの真ん中に輝く三日月の紋様。黒の衣装に黒い皮ブーツ。腰にはライトセーバーを紐で吊るしている。キラリと輝く厳しい眼光。
「お、お前は?!」
「名乗る前にお主らが名乗れ、この卑怯者め」
「俺たちは朝廷から派遣された役人さ。この地を治める李安徳様の
命でここの里芋を徴用しに参ったもの。つべこべ言われる筋合いなねえぜ」
「黙れ!弱い子供をいじめて食糧を分捕るお前らに朝廷や帝を名乗る権限などどこにもないわ。このジョージ月影が月に代わって成敗してくれるわ。覚悟せよ」
ジョージがライトセーバーを抜くと、役人たちは一斉にレーザー銃をジョージに向ける。
「やっちまえ」
ジョージは右腕に付けた装置に叫ぶ。
「ムーンライト・バリア」
役人たちの放ったレーザー光線は、ジョージの光り輝くバリアに跳ね返され、あるものは腕に、あるものは脚や腹に光線を浴びる。
「いってえええ」
転がり呻く悪者たち。
必死に立ち上がりながら、よろめいて去ってゆく。
「覚えてろよ、このやろー」
何人かが悪態をついて振り返る。
「あっははは、面白え」
「おじさん、ありがとう。オイラの名前はスーク。
せめてお名前だけでも」
最初に芋を奪われた小柄な少年がずだ袋の里芋を回収しながらジョージの足元にしがみ付く。
「オレの名はジョージ月影。坊やにいいものをプレゼントしよう。
今度アイツらが来たらこの横笛を吹くんだ。これは簡単に音が出るから大丈夫だよ。これにはGPS装置が内蔵されてて、音声が出ると危険だと判断してオレはすぐに駆けつける。あそこに浮いている飛行船に乗ってな」
ジョージは少年の首に笛をぶら下げると、遠く夕暮れの空を指差す。
「ありがとう、ジョージ。このご恩は絶対忘れないよ、なあみんな」
子供たちが頷く。
「弱い者イジメはこのジョージ月影が絶対許さねえ。みんなお父さんやお母さんのいうことをよく聞いて、元気でな。これは地球から持ってきたチョコレートっていう甘い菓子だ。みんなで仲良く分けるんだ、いいな」
そういうと今度は少女にプラスチックの袋を渡す。
「ありがとう、ジョージ」
「あばよ、また会おう」
夕日の中をジョージは飛行船に乗るため遠ざかっていく。
そしてあのメロディがどこからともなく聞こえるのであった。
つづく
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今回は懐かしい昭和のTV番組を再現してみました。
50代以上の方には特に懐かしんでいただけると思います。
MARS CURRYー火星には高度な文明と美味しい肉があった。 山谷灘尾 @yamayanadao1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。MARS CURRYー火星には高度な文明と美味しい肉があった。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます