第8話 自分の未来は自分で

『拝啓 ティナ様。風薫る季節となりましたがいかがお過ごしでしょうか。こちらはとても過ごしやすく……』


「アンジュ、お茶が入りましたよ」


 窓からさわやかな風が吹き、叔母と私の青い髪を揺らす。

 随分と艶やかになり少しずつ元気を取り戻しつつある叔母は、並ぶと姉妹に間違われるほどだ。


 あれからティナの父である現宰相とアレン殿下の口添えのおかげで、やっと領地療養が叶うことになった。


 ティナも自分だけの王子様を見つけたらしく、隣国に嫁ぐことも決まった。

 私もその結婚式に呼ばれている。


 殿下には叔母の口利きの代わりに婚約を申し込まれたものの、きっぱり断っちゃったんだけどね。

 ティナの友人の話だと、まだ殿下は私に未練があるらしい。


 今、彼の婚約者の席は空席のまま。

 彼の空席は今のところ埋まる予定もない。

 それもそうね。

 運命の番にも婚約者にも逃げられた男など、誰も恐ろしくて近寄らないわ。


 いくら身分があっても、王位継承権は二位でしかない彼はそれほど高嶺の花でもないらしい。


「んー、やっぱり私、結婚は当分いいや」

「そんなこと言っていても、そのうちどこかのいい人に巡り合って、あなたも結婚するかもしれないでしょう?」

「そうだけど、ま、その時は私がじっくり選ぶつもりよ」


 そう言って、私は意地悪な笑みを浮かべる。


「そうね、それがいいわ。どんな人か、じっくり選ばないとね」


 私たちは二人で顔を見合わせて、クスクス笑い合う。

 白馬に乗った王子様はいなくても、私たちはようやく平穏で幸せな日々を手に入れることができた。


 そう自分の手で掴み取って。

 それだけで十分、私は満足だった。

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運命の番? そんなモンは知りません。この世界に白馬の王子様はいないようなので、私は喜んで退場させていただきます。 美杉。節約令嬢、書籍化進行中 @yy_misugi

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