田中さん。
@kasugaihaku
田中さん。第1話
「おーい」「起きろーぃ」
「うぅん?」
そんな間抜けな声を出し、目を開ける。
見知らぬショートヘアの少女?がこちらを覗き込んでいるのだ。
「どわッ」
またもや間抜けな声を出し、飛び起きる。
「やっと起きやがったか」
「えッ」「起きやがったって言った?!」
「言っていないです。」
この可愛らしい顔とは裏腹な毒舌っぷりを初っ端から見せてくる少女。ひとまず腰を落ち着ける。
「えっと、状況的にはあなたは天国にも地獄にも行けないんで現世を彷徨っていた所、監視として私がつけられた感じですね。」
ハテナしか浮かばぬ状態で、早口で状況説明をする少女の声をバックに脳内で出来る限りの整理をする。
「それで、多分成仏出来てないんじゃね?的なことをクソ上層部に言われてですね。クソが」
「えッいまクソって2回言ったよね?!」
「言ってないです。」
「え〜まあ心残りを探しにいこうということです。」
「心残りったってなぁ?」
全く持って不本意のこの事態は、心残りを探すことで解決するらしいがそもそも情報が不足していると心底不安に思うと同時に楽しそうと思う自分もいた。
「自分の死因も分からないからなぁ…」
「え、マジですか。」
「は〜、こりゃめんどくさいっすね〜。」
「何かすまん。」
「いや全部クソ上層部のせいなんで。」
「こわ…」
「てか、意外と混乱しないんですね。」
「う〜ん、まぁ色々あり過ぎて考えないほうがいい気がして…」
「そうですか。」
「聞いといて興味持ってねぇな!」
「黙ってください。」
「やっぱこの子こわぁいッ!」
「ということで、程々に頑張っていましょう。」
「頑張るったって何をですか?」
「え、だから心残り探しですよ。」
「話し聞いてました?耳あります?」
そんな雑談を交えつつ、心残りを探しどうにか成仏しようという二人の冬の見慣れないビーチからの旅が始まった。
「こちら、旅セットです。」
「基本野宿なんで、よろしくお願いします。」
「ホテルとか泊まればいいじゃないですか」
「今あなたの状態分かってます?幽霊ですよ?そんなので言ったら怪奇現象どころの騒ぎじゃないです。」
怒涛の早口でまくしたてられたじたじになっていると、渡された旅セットの中からひょこっと黄色い花?が見えた。それも馬鹿でかい、顔らしき部分もあるひまわりの様な形だった。
「あ、オハナさん。」
「そんなとこいたんですか?そういうのは辞めてください。支障が出ます。」
と、少女が花に話しかけている様は謎に謎を重ねる風景だった。ぽか〜んとしていると
「ゴメンッネエッ」
「花が喋った…」「すげえ〜」
花はぎこちない日本語を話し、俺は恐怖より先に感心してしまった。
「あっそうだ。自己紹介してませんでしたね。」
「私は勿忘(なかぼう)って言います。こちらはオハナさんです。私の上司?的な感じです。」
「オハナダヨ~ヨロシクッ」
「はぁ…俺は田中雀也って言います。あだ名でジャックって呼ばれてたこともあって、かっこよくないっすか?」
「中2ですか?」
「う〜ん鋭いナイフが心に!」
そんなんこんなで、足早に説明を済まされ聞きたいことも聞けずに歩き出したこの旅は、二人と一輪で進んでいくことになった。
今まで気づかなかった波の音を聞きながら、砂浜を出た。
先程まで天高く輝いていた太陽も沈みかけた道中で、気になった事を口に出してみた。
「あの、これ行き先何処なんですかね?」
「今から決めるんですよ。」
「えッ結構歩いてません?」
「とりあえず、動いたほうが良くないすか?」
勿忘ちゃんが言う。毒舌だけど脳筋なのか?とギャップのある子だなぁと思いつつ、心配になりながらも聞く。
「えと、じゃあ今日から早速野宿ってこと…?」
「文句ありますか?」
「ァ、ナイデス。」
相変わらずの斬れ味をしみじみと味わっていると、
「アソコドォ?」
とオハナさんが言う。まるであの某配管工ゲームのキノコ帽子のアイツみたいな声だ。
葉っぱ?のような部分で指し示していたのはがらんとしている公園とも言い難い空き地だった。
「お、良さそう。」
勿忘ちゃんが呟き、進行方向がその空き地に変わった。これからどうなるのか分からんが俺は何だかワクワクしている!
田中さん。 @kasugaihaku
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