13 先輩とナンパ
「お姉さん、暗い顔してどうしました?」
できる限り優しげな声になるよう意識しながら声をかけると、スマホに視線を向けていたお姉さんがゆっくりと顔を上げた。
‥‥‥うわっ、すっげぇ美人。
遠目からでも綺麗な人だとは思っていたが、近くで見るとそのレベルが違う。
パッチリとした瞳は愛らしさを感じさせているのに対し、左目の下にある泣きぼくろは色気を感じさせてまさに大人の女という雰囲気を漂わせている。
鼻は小さくて形が良く、グロスの塗られている薄い唇には艶がある。
そしてこれらの顔のパーツはベストなバランスで配置されており、これ以上ないほど完璧に整った顔立ちになっている。
さらに綺麗な黒髪をシュシュで緩くまとめて左肩に垂らしているのも大人っぽさを強めており、お姉さんの顔立ちととてもよく合っていた。
ついつい見惚れてしまい次の言葉が口から出てこない。
「おい」
先輩に背中を小突かれてハッと意識を現実に引き戻す。
目の前に立つお姉さんはどこか困惑した様子だ。
ここで逃すわけにはいかないと気を取り直して話しかける。
「何かあったなら、俺たちで良ければ話聞きますよ」
「えっと‥‥‥」
「人に話したほうが楽になることもありますよ?」
「‥‥‥なら、聞いてもらおうかしら?」
「「是非」」
思わずといった感じで声が出てしまった。
なんなら先輩とも被った。
お姉さんが目をぱちくりさせて驚いている。
がっつきすぎたか‥‥‥?
「ふふっ。ここじゃアレだからあそこのカフェにでも入りましょう?」
杞憂だったようだ。
お姉さんは小さく笑みをこぼして近くのカフェを指差した。
俺たちも否はないのでお姉さんの後についてカフェに向かった。
=====
カフェに入って注文を済ませた後、お姉さんが話してくれた内容はこうだった。
お姉さんは今日、マッチングアプリで知り合った男と食事に行く約束をしていたのだそうだ。
かなり気の合う男だったので会うのを楽しみにしていたのだが、先ほど急に仕事が入って来られなくなったらしい。
それであんな暗い顔をしていたとのことだった。
それを聞いて俺が思ったことは、相手の男は今日のことを一生後悔するんだろうな、だった。
だってこんな美人と食事に行けて、うまくいけば付き合えたかもしれないのにたった一回の仕事でそのチャンスを棒に振ったんだから。
こんな美人が相手なら、俺は仕事放り出してでも会いにくるね。
「それじゃあ、お姉さんはこの後予定とかない感じですかね?」
俺がストローでジュースを飲みながらそんなことを考えていると、先輩がお姉さんに話しかけた。
なんか話し方が小慣れてるなー、と思いながら2人のやりとりを黙って聞く。
「そうね。約束も無くなっちゃったから予定はないわ」
「なら、俺らと遊びに行きませんか?」
「遊びに?」
「はい。そういうことが合った日には思いっきり遊ぶと気分がスッキリしますからね。後は俺らがお姉さんと遊びたいって下心もありますけど」
「ふふっ、正直なのね」
お、なんか好感触。
やっぱ先輩って見た目通り遊び慣れてんだなぁ。
言葉の使い方も会話の仕方も上手い。
「そうね‥‥‥‥じゃあ、一緒に遊びましょうか」
=====
と言うことでやって来ました、ボーリング場。
で、何でここに来ているのかと言えば、お姉さんと遊ぶことが決まった後先輩がどこに行きたいかを尋ねたらボーリング場と言ったからだ。
何でも体を動かした方が気分がスッキリするから、だそうだ。
そしてそのお姉さん自身が今何をしているかと言えばーー
「もぅ〜、とれないっ。これ、アームの力弱すぎるんじゃないかしらっ?」
ボーリング場に設置されているゲームセンターエリアでクレーンゲームに沼っていた。
最初こそ運試し的な感じでプレイしていたのだが、取れそうで取れない状態が続いた結果こうなってしまったのだ。
すでに2000円くらい突っ込んでると思う。
そしてお姉さんがそんな状態で俺と先輩は何をしているのかと言えばーー
「もう少しっ、もう少しだっ。ここを耐えれば‥‥‥‥がぁっ、クソっ!何でここで落とすんだよっ!」
「先輩、もうちまちま突っ込むのやめましょう。もう一気に500円ずつ入れましょう。こいつにこれ以上金を渡したくないっ!」
お姉さんと同じ台で一緒に沼っていた。
ちなみに今沼っている台の景品はやたらとムカつく顔をしたキャラクターのぬいぐるみだ。
可愛くも何ともないが、今ここでやめるとこのぬいぐるみに『お?やめんの?やめんの?ここまでお金突っ込んどいてやめるの?はい、お前の負けー』と言われているような気がして我慢ならないのだ。
この被害妄想じみた考え方が余計に沼らせているとわかってはいてもやめられない。
だって、イラつくし!
そんな感じで3人揃って沼ること30分弱。
正確な金額はわからないが、何度目かの500円玉を投入した時。
クレーンゲームの台から流れていた音楽のリズムが変化し、足元の方からボトンと何かが落ちる音が聞こえた。
視線を向けている台の中には開いたアームと何も無くなった空間がある。
お姉さんが無言でその場にしゃがみ、取り出し口から一体のぬいぐるみを取り出した。
それは俺達が今まで狙っていたぬいぐるみそのものだ。
お姉さんは取り出したぬいぐるみをそっと持ち上げると、
その頭を両手で握りつぶした。
ぬいぐるみの顔が原型を留めないほどギュ〜ッと思いっきり力を込めて。
物凄いストレス溜まったんだろうなぁって思いながら、俺は黙ってそれを眺めていた。
正直、俺もそれを見て少しスッキリした。
=====
ぬいぐるみを獲得した後、3ゲームほどボーリングをして俺達は外に出た。
ボーリング場から駅への道を会話をしながら歩く。
「いや〜、にしても蓮の玉の軌道は面白かったな。投げた瞬間速攻でガーターに落ちていって」
「そうね。私も何度か来たことあるけど、あんな軌道は初めてよ」
「‥‥‥‥あれは玉が悪いんですよ。俺が下手なわけじゃないですよ」
「そんなわけないだろ。ボーリングは基本投げる奴の技量によるからな」
「‥‥‥‥」
クソッ。
事実として俺が投げた玉ばかりが一直線にガーターに向かっていくところを2人に見られているので何も言い返せない。
だが、やられっぱなしで終わるのは気に食わないので反撃することに。
「でも、それを言ったら先輩だってーー」
「おいっ、それは言うなってーー」
「ふふっーー」
3人で話しながら歩いているとあっという間に駅に着いてしまった。
「それじゃ、俺らはこれで」
「あ、待って」
ここで解散すると決めていたので改札を通ろうとした時、お姉さんの何かを思い出したような声に足を止めて振り返る。
お姉さんはスマホの画面をこちらに向けてフリフリと振っている。
「今日は楽しかったから、連絡先、交換しましょう?」
「「あ」」
先輩と2人揃って声を上げる。
楽しすぎて忘れていたが、今日の目的はナンパした女の子の連絡先を手に入れることだった。
俺達はいそいそとスマホを取り出して、それぞれのメッセージアプリで連絡先を交換する。
追加された連絡先の名前は『はな』と平仮名打ってある。
「今更だけど、私の名前は花。
「俺は
「
「良弥君に蓮君ね。覚えたわ。また暇があったら遊びましょう?」
「うす」
「はい」
最後にニコリと笑みを浮かべて去っていくお姉さんーー花さん。
その後ろ姿を見ながらポツリと呟く。
「白石‥‥‥偶然、だよな?」
=====
「あ、もしもし咲?予定なくなったから今から帰るわね。‥‥‥ええ、わかったわ。それじゃ」
ラブコメの親友キャラの俺、隠れ美少女なモブを堕とす 猫魔怠 @nekomata0827428
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます