プロローグ2

「.......どうやら、私の生涯もここまでのようだな」


「...ジョゼフ!膀胱の病の所為で壊疽がそこまで深刻なことになってるのかー!?」


「ああぁ...。...ニコラス、我が親友よ。私の息はもう長くない。マリー・アントワネット王妃はもう処刑され、いなくなられたわ、最近のトマもエジプト遠征にてナポレオンの命令に背いて軍隊から追い出されたと聞いたわで、悲惨な出来事ばかりでもう何もかも大変なんだよね?」


「ええ、そうだけど、.......だがシュヴァリエ・デオン殿は?....彼女、まだフェンシングのプロとしても外交官としての活動も続けているらしいから、他と違ってまだ余裕ありそうな人生を満喫していそうだよね?」


親友のニコラスの指摘に『彼女』のことが思い出される。

(実際には、『彼女』には良く助けてもらっていた。そう、彼女と共にあの地下迷路で『悪魔』と戦った時のことも......フリーメイソン同士としてのよしみもあったからな)


「そうだね、だから残念!多忙な『彼女』のこと、もう一度見たかーぐほおおオーーー!!?ぐほこほこほーーっ!!」


「ジョゼフーーーー!!!」


「ここまで......だな。我が親友ニコラスよ。私、もう行くね。あの世へ」


「ジョセフ.......ああ、さらばだ、友!主はアナタの羊飼いです、アナタには何も欠けていません。主はアナタを緑の牧草地に寝かせます、主はアナタを静かな水辺に導いてくれる、主はアナタの魂をリフレッシュさせてくれます。主もアナタを正しい道に導いてくれる、アナタの名のために。歩いているのに最も暗い谷を通って、アナタは悪を恐れません、何故ならアナタは主と一緒にいるからです。アナタの杖とあなたのロッド、それらはアナタを慰めてくれます」


「ありがとう、親友よ。もう行くよ」


とある一家にて、二人の男性が話し合っていた。

一人はベッドで横たわっていて、重い病を抱えている。

もう一人は椅子に座って彼と話している。

明らかに死の間際にいるベッドの人が、友達であろう人と最後の時を共にした。

そして、もう息を引き取った彼は、光に導かれて、とある次元に召されることに.......


(ああ、シュヴァリエ・デオン......。...いや、シャルロットよ。もう一度、君に私の音楽を聴かせたかった......そして、またも若い頃の君の美しき顔、そのサラサラな綺麗な金髪、そしてその勇敢なる佇まいとフェンシングの技量をもう一度見たかった.......実に残念..........こんな惨め気分にさせた病気でという形で死ぬなんて........)


混血児ということで私が今まで苦労したこともあれば、楽したこともあったけれど、『彼女』と親友とアントワネット王妃、そしてデュマ.......この4人だけは私にとって、人生におけるとっても素敵な人達で、かけがえのない『絆』だった.......


後、......マリー=ジョゼフィーヌ・ド・モンタランベール侯爵夫人、.......あの時は済まなかった。君からの誘惑に抗えず、夫がいるのに手を出してしまった。


もしも、私がデオンともっと仲良くなれたら、夫人と過ちを犯さなくても『彼女』との結婚も、.......


夢では......


無かったはず...


ああ、......シュヴァリエ・デオン....


この地球も...


さようなら...


..............................................................................


..............................................


光の中にいる私は、永遠にも及ぶかと疑いたくなる感覚で彷徨っていると、前世の記憶がよみがえる:


「ね、ね、あんた!」


「うん?」


「だから、あんたよー!あ・ん・た・のことよー!」


「私が?」


とあるフェンシング会場にて、当時の15歳の私が初めて『彼女』と出会った。


「そうよー!なんで褐色肌のムラ―トなのに、黒人奴隷の子だって聞いたのにここで足を踏み入れられた訳ー!?明らかにおかしいのよーもう~!」


「いや、それは母ではなく私の父に言って下さいよ。望んで生まれてきた訳じゃないんですから」


活発な金髪の子のようで、容姿端麗な『美少年』に見える当時の15歳の『彼女』は、確かに男性の制服を着ている。貴族風味なデザインが惜しげもなく出てる白と赤がメイン色の制服はここの私立フェンシング学園で規定されるものだから、『彼女』もあの頃で入学したばかりの新人のようだった。


あの時、女かと見まがう程の美しい顔立ちに、そしてその女言葉を使っている時点で既に私の中で『彼女』がどういう人間か察することができた(まあ、大人になってから男言葉を使いこなせる立派なスパイになっていくけど)......


「ふ~ん。まあいいわ。確かにあんたの父って、サン=ジョルジュ男爵だって聞いたのよね。ほら、あのマイナーな貴族家で」


「そうですけど?そもそも君はどういう人なのかな?先に名乗るべきはずですよね?」


「シャルル=ルイ=ロベール=ピエール・デオン・ド・ボーモンだわー!少々家の事情が芳しくないけれど、れっきとした子爵家の息子よ!でも、親しい者は僕のことをシャルルというわね。まあ、庶子のムラ―トのあんたには無理だけど...。ほら、もうすぐ試合であんたのことをぎったんぎったんにしてやるからー!」


「それはどうかな?ところで、私の名まー」


「あ、それは僕が聞かなくてもいいわ。どうせ直ぐに一生見ることにならなくなるし」


「.......言ってくれますね、ボーモンさん!では、そんな腕が立つなら見せてもらいたくなりますね!」


私はそう言い放った。自信があるというのは嘘でもない。何故なら、この2年間でボエシエール先生から色んなフェンシングの技を習得してきたから。ぽっと出の金髪ちゃんには負けないつもりだよ。


「ふーん!見せてあげなくてもあんたの目は勝手に我が剣の美しきロンドを視界に焼きつくから、今の内に首を洗って待ってなさいー!昼食後の試合であんたを絶対に負かして泣かせてやるからね!」


とまあ、その後の結果は言わずもがな、私の完全勝利だったけど、その時のシャルロットの顔ときたらー


「えぇ...。ぼ、僕がま、負けた...?」


信じられないと言ったふうに顔を真っ赤させているボーモンさんがあまりにも間抜けでありながらもどこか可愛さも感じさせるポンコツな表情に見えそうなので、笑いが抑えられなくなりそう。なので、爆笑してしまう前に私が、


「そうですね。この試合、私の勝利のようです。まあ、次の機会があれば君と戦ってもいいんですけどね。楽しいですし」


「~~~!!こ、これには何か間違いがあるのよー!そうに決まってるわー!じゃないと白人の息子であり、超絶美少年な僕がムラ―トのあんたに負けるはずがないんだものー!(まあ、確かに顔はちょっとイケメンに見えるけど、褐色のムラ―トだし、僕が負けるのは納得できないわ~~!)」


「じゃ、次は賭けませんか?私が勝った場合、私に対する優越感と偏見をやめて、対等な者同士としての友達になれと」


「そ、そっちがその気なら乗ってやるわよー!ふーん!次の試合は2週間後ねー!じゃー!」


慌てて去っていくあの時の金髪『美少年』のフェンシングっ子、シャルルの走り方があまりにも悪役っぽく慌てすぎているから、なんか可愛く感じちゃったって今からでもはっきりと覚える。ああ、転んでるし.......。


『ようこそ天地へ』


(ん?)


私の過去への回想を打ち切るように、急に眩い光の中で浮遊していた私が急に何かの地面に降ろされる感じがして、光力の勢いも徐々に収まってそうな感覚を覚えるので、両目を開けると、


『ジョゼフ・ブローニュ・シュヴァリエ・ド・サン=ジョルジュ。おぬしのフェンシング能力、乗馬スキル、ダンスと音楽の才能のすべてを、今の妾が必要としているのじゃ!ほれ、もっと前へ来てきて~~。顔が見れぬではないかー!』


どうやら、私の目の前には低慎重な10代後半に見えそうな美少女がいて、美しい銀髪と複雑な文様が描かれている黄金色のドレスを着ているようだ。


ニコニコと不敵の微笑んでいるその子は、私の心と魂の何もかもをすべて見通せるほどの神秘的な力がありそう......これは只者じゃなさそうだね。


も、もしかして、彼女は天使か何かかなー?

まあ、主が必ず良い道へと導いてくれるし心配する必要はないはずだね。


大人になった前の人生で、フランスの地下迷宮でフリーメイソンの会員としての裏活動を続けていたら、複数の『悪魔』を同士のシャルロットと一緒に討伐したことあるから、きっとこの場面は私に対する何かを労うために授けようとするご褒美の何かであるはず。

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新世界の絆は永遠に(Les liens du nouveau monde sont éternels) 黒のクワメと白のシレシア @silesia156

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