第6話
大臣による聞き取り調査とやらが終わって、私は拘置所の自分の房へ戻る――と思いきや、なんとそのまま別の方向へ案内されてしまった。
ああ。これが噂の緑の長い廊下か。
私はこの先にあるものを知っていた。きっと現代人ならみんな知っている。
この先にはきっと、バスのような車がある。中にはバンドのついた椅子があって、注射器が用意されているはずだ。そして注射器は電動式で、みなさまの協力に感謝しながら作動して薬液を注入する。
とことこと歩いて、やがて、長い廊下が終わる。押し開けた扉の先には、淡い緑色をした司法省特製の執行車がスタンバイしていた。 私が乗ったら発進して、火葬場に直行するのだ。
拘置所から執行者車までの隙間。ほんの一メートル歩く間だけ、外気を浴びた。白い寒空。清々しい。いつかの中庭を思い出す。
ああ。本当に特筆することのない、つまらない人生だった。
でも、いつまでも折れないかっこいい女の人の中の、大樹みたいな心の柱にちょっとした傷をつけるくらいはできただろうか。
彼女、アプリのインストール、間に合ったかな。
私は促されて執行車のステップに足をかけた。親切にも滑り止めがついている。もはや滑って転んでも問題ないでしょうにと思うと、少し面白かった。
さて――この人生はここまでかな。 私の命なんて、この程度。みんなの命だって、この程度。
これで、おしまい。
アプリの前の皆さま、お待たせしました。一億二千万ポイントをどうぞ。
億分の一のリブラ もしくろ @mosikuro
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