第4話 神々の誓約


「ふーん、詩人の様な名前ね。」

女は浴槽の淵に座って少し微笑む。

「そう言うあんたの名前は?

何しにここへ?」

馬鹿にされたようで気に食わないが敵ではなさそうだ。

「私は私の神に啓示を受けてあくまで個人的に神殺しを代行してる。

あんたも邪魔するなら容赦しないわ。」

前言撤回、この女、物騒なこと言いやがる。

「ははーん通りでその黄衣からハスターの臭いがするわけだ。」

俺と女が睨み合っているとニャルラトホテップが割って入る。

「何奴!」

触手の剣を構える女に奴はニヤリと悪い笑みを浮かべる。

「そんなに熱り立たないでよ。

ハスターが関わってくるならちょうどいい。

君の神様にこう伝えておきな。

クトゥルフが向こう側に寝返ったから僕のパパ上は寝ながら怒りに打ち震えてる。この意味がわかるよな?と。」

「脅迫のつもりか?なら今ここで始末する!」

女が剣を振りかぶって切り掛かってくる。

「ちょ!俺関係ねぇって!

ひぃ!助けろ!ニャルラトホテップ!」

女の斬撃を避けて命辛々、リビングまで逃げる。

「あははは、愉快愉快…でも一方的な殺戮もいいけど今君に倒れられたらこちらも困るなぁ。」

「なら、加護を出せばいいだろ。

お前が選んだ代行人を殺せば邪魔が一人減る!」

剣先が俺の頬を掠る。

おっかない女だと机の下に逃げるが真っ二つに破られる。

「ストーップ、明倫ちゃん。

その邪神の代行者倒してもポイント加算にはならないよ。」

黄色いローブを纏った小人が俺と女の間に割って入る。

「ハスターさん、どいてそいつ殺せない。

私の邪魔をするならみんな敵よ。

今後の障害にならない保証はどこにもない。」

苛立ちを隠せないのか剣を握る手が力が篭って白くなる。

「まー君には時間が残されてないとはいえ協力者として一人でも多い方が君の目的にも有利なんじゃない?

ねぇ、崇君?」

小人が振り向きながら俺の名を呼ぶ。

「だからなんで俺の名を知っている?!」

「なんでも知ってるよ。

おいらは腐っても神だからね。

それよりお互い話し合いをしようよ。」

めちゃくちゃに散らかった部屋で互いに胡座をかいて向き直る。

気まず過ぎる。

「…部屋をめちゃくちゃにして悪かったわ。」

目を逸らしながらいう彼女に拍子抜けする。

決して謝らないと思っていたから。

「ああ、まあ、あの時は俺も殺されかけてたし、助かったよ。ありがとう。」

互いに見合いかという雰囲気でよそよそしい態度を貫く。

「ねぇ。」

「なあ。」

沈黙が辛くなってどちらともなく切り出そうとしたら被ってしまった。

「なにこの空気キショいんだけど。

僕ちゃんドン引き〜。」

やめろ俺らをそんな目で見るんじゃあない。

いい感じの雰囲気をぶち壊し、取り敢えず半壊した家を片付ける。

幸いなことに壁や床は傷ついておらず棚やコップなど壊れたものを片付けるだけで済んだ。

「ねぇ、あんたさえ良ければうちの教団に来ない?」

唐突に明倫が誘ってくる。

「ええー何うちの人間ちゃん誘ってんのこの雌猫。」

ニャルラトホテップが俺の肩に顎を乗せて人形姿のままデカくなる。

「やめろやめろ。デカくなるな重たい。」

「ぶー人間ちゃんはボクの庇護を受けてるのにハスターの教団に行くなんて許さないゾ!」

「少なくともまともに助けてくれないそこの木偶の坊邪神よりもハスター様は助けてくれるけど?」

「明倫もやめろって。」

二人は俺を挟んで睨み合いをする。

「そういえばニャルラトホテップ、お前そんなこと言うならお前も宗教とかやってるの?」

取り敢えず、奴に向き直ると目を輝かせる。

「勿論だとも!アメリカにいくつか支部があるんだけどね…。」とペラペラ喋り出す。

一頻り、話を聴いた後。

「やっぱりお前の胡散臭い宗教には入らねぇ。」

そう言うとニヤリとニャルラトホテップの口が三日月のように歪む。

「それでこそボクが選んだ星者だ。」

「どこの宗教にも入らねぇけど敵を知るならまず宗教を知るべきだな。

よし、明倫お前の教団に明日にでも案内してくれ。」

俺の言い草に疑りの目を向ける明倫。

「あのさぁ、君、なんでそんなに偉そうなの?

さっきから言ってる事が二転三転してるんだけど。」

「俺は紙を信じるよりも自分の信じた道を進むからな。」

「全く答えになってないんだけど。

でもまあ、君の行く末を見たくなったからいいよ。」

穏やかな笑みを浮かべる彼女に少しだけドキっとした。

こいつこんな顔もできるんだ。

「じゃあ、また明日、君の家に迎えに行くから逃げるんじゃあないよ。」

黄色いローブを翻して彼女は去って行った。

 その後、俺はこっ酷く両親からお叱りを受けた。

「にゃはは怒られてやんの。」

頭上を美少女人形の姿のまま飛び回るウザいニャルラトホテップ。

「大体、何でオリュンポスの奴らは人間を狙うんだ?

一人一人狙うより天変地異とか起こして一気に圧倒的に物量で押したら人間はひとたまりもないだろ。」

俺がそういえば奴は首を横に振った。

「それはねぇ神々の誓約っていうやつがあるんだよ。

ボクのパパ上が現存する神々に地球を明け渡す時に交わした誓約で生きとし生けるもの全ての生物を雑に天変地異などで運命付けて絶滅させてはならないってね。」

「成程、で、その制約を破ったらどうなるのさ?」

「破ったら今度こそこの宇宙の終わりだろうね。

その誓約が守られてる限りパパ上は眠り続けると神々の前で誓いを立てたから今の宇宙が存在してるから。」

「お前の父親が目覚めたら宇宙が崩壊するって…一体どんな奴なんだよ。」

「だーかーらー全ての宇宙の生みの親だって言ったじゃない。」

そんな事初耳だぞ。

 

【To be continued】

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