第5話 仇敵襲来


 明倫が教団支部に帰ると教団が炎上していた。

轟々と赤い炎が建物の原型を飲み込む様に燃えている。

「み、皆無事ー?!生きてる〜!!」

我に帰って呼びかけるが帰ってくる声はない。

「助けなきゃ…。まだ中に人がいるかもしれない。」

「辞めときな明倫ちゃん。

燃やされる前に殺されてる。」

人形体のハスターが彼女のポケットの中で言う。

「じゃあ何故…貴方なら感知できた筈だ!神様なんでしょ!」

彼女がポケットからハスターを取り出して怒鳴る。

バツが悪そうに彼は目線を逸らして口を開いた。

「…それはオイラの偶像が盗まれたから何もできなかったからだ。」

「確かに貴方達はこの地球では依代が無いと動けないのは知ってます。

ですが…それでもあんまりです…。」

泣き崩れる彼女に小さな神は何もできない。

邪神達は現神々との誓約で現神々が地球の生物を滅ぼさない代わりに行動を制限されている。

「じゃあ、全員死んでしまっているって事ですか?」

彼女が涙ながらに言うとハスターは首を縦に頷いた。

「ここにいるのも危ないから同盟を組んだ崇君の家に戻った方が…。」

「まさか貴方が仕組んだ事では無いでしょうね?」

「そんな馬鹿なことを考えるのは辞めて。大体、オイラの自演自作なら教団を焼くより死体を腐らせて骨も残さない様にした方が有利なはずだぞ。」

ハスターの同盟神はクトゥグア、炎の神だと言われている。

ニャルラトホテップはどの神からも煙たがられる存在であり、同盟を組んでいる相手はいない筈。

「一理ありますね…信じてますからね?」

半信半疑の目で明倫はハスターに向き直る。

野宿する訳にもいかず来た道を引き返す。

「大体、クトゥグアが火を放ったらこの教団だけをピンポイントで焼くのは難しい。

ニャルラトホテップは自分のテリトリーのンガイの森を焼かれたんだ。

大体、炎の性質が違う。」

焼けた教団の一部の炭を拾ってきたハスターがいう。

「それはどう言う…事です?」

「アイツの炎は周りの大気を凍らせてから焼く。

その痕跡が無いのは唯の放火かあるいは…。」

真っ暗な道を歩いていると青い炎を纏った少年が道を塞ぐ。

「ねぇ、お姉さん。ぼくと火遊びしない?」

臨戦体制で距離を取る。

「アンタが殺ったの?」

「質問を質問で返すのは良く無いなぁ。うん、よく無いねって事で間違いを正すために燃やすね。」

ブツブツと不気味なことを呟いて少年は高く手を上げた瞬間。

無数の星々が輝くように火の玉が出現する。

「やばいよ明倫ちゃん。

あの火球、太陽の温度と同じ6000℃だ!」

肩に乗ってる義体のハスター様が怯える。

「言われなくても分かってます!」

「あ?逃げる気?掠っただけでも君の足がなくなるくらいの温度だけど生きて目的地まで着けるかなぁ?」

ひたすら走りながら後ろから迫り来る火球の気配を感知して飛ぶ!

転げ回って受け身を取りつつ体制を崩しても前へ前へと走る。

「あはは、哀れなドブネズミみたいに逃げて逃げて何になるの?

ねぇねぇ、今どんな気持ち?」

気色悪い笑い声が響く。

「明倫ちゃん!そこを左に曲がって!」

ハスター様の声で反射的に体が動く!

さっきまでそこにいたアスファルトが溶けてひしゃげてジュウジュウと音を立てる。

ハスター様の声がなければ私はあそこで焼け死んでいたんだ。

震える肩を抱いて走り出す。

あと少しでアイツの家に着く!

 

 深夜、ふと目が覚めてトイレに行こうとしたら外が騒がしくなってきた。

「煩いなぁ〜。」

ニャルも目を擦りながら窓際にヒョイっと乗って耳をガラス窓に付ける。

「うんうん、ふーん。

人間ちゃん、どうやら君に安息の時間はないらしい。じゃ、頑張りたまえよ!」

そう言って俺の肩に奴が飛び乗った瞬間、パリーンと窓ガラスが割れて傷だらけの明倫が息も絶え絶えに飛び込んできた。

「ちょ、大丈夫?」

「はあはあ、追われてるから力を貸して!」

俺に縋る彼女を振り払えなかった。

でも俺は加護も何もかもない単なる人間だ。

あんなに強かった明倫が勝てない相手に俺が助太刀したって意味がない。

「…わかった。」

損得なしに目の前の友人が困ってるのに断れる程俺は意志が強くない。

たとえ犬死にでも命の恩人を逃す為なら何だってしてやろう。

「妙なこと考えてるから力を仕方なく貸すけど星者が死ぬとボクらはこの世に干渉できなくなるから困るんだよね。」

そう言ってニャルラトホテップは指を鳴らして俺よりデカくなる。

「ハスター、お前ビヤーキーとか出せないの?

ノーデンスの爺さんの所まで行けば取り敢えず安全だと思うからそこまで逃げろ。」

明倫の肩にいる黄色いレインコートの義体を睨む。

彼は渋々と言った形でカラスでもなく、モグラでもなく、ハゲタカでもなく、アリでもなく、腐乱死体でもない怪物を出した。

「ビヤーキー出すと疲れるから出したくないんだけどなぁ。」

「ンなの関係ねぇだろ今は。

お前は残ってボクと足止めしろ。」

「はーやれやれ神遣いが荒いよニャルラトホテップ。」

明倫の肩から飛び降りてこちらもデカくなり、触手を出す。

「あんなに信者が居たくせにざまあねぇな。」

「んー信者は多いからいいってもんじゃないけどね。

オイラは明倫ちゃんさえ生き残れば後はどうでもいい。」

コキコキと肩を鳴らしていたら青い炎を纏った少年が降り立つ。

「やあやあ、外なる異星の神達よ。

僕達の計画の邪魔はしないでくれないかな?」

にっこりと笑う少年にハスターが触手で鞭打つ!

「おっと、怖い怖い。」

「ハッ、お前がこの程度の攻撃避けられない訳ねぇよな。

太陽神アポロン、夜は姉のテリトリーじゃないのか?クソガキはおねんねの時間だぞ。」

皮肉をいうと目を細めるアポロン。

「星者を逃さなくていいのかい?

まあ、外なる神ごと焼き尽くすつもりだけどね!」

無数の火球が星々のように辺り一面を照らし出す。

「行けビヤーキー。

ここから先は通行料を払えコラァ。」

「こいつと同類に扱われるのは癪だけど!」

ニャルラトホテップも斬撃で火球を全て落とす。

戦いの火蓋は切って落とされた。

 

【To be continued】

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星者の降神 海谷 うしお @shiooto

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