日常に異質を馴染ませる文章の妙。

  • ★★★ Excellent!!!

恐らく多くの人の目に触れることになるであろう本作に、かねてから柚木呂高氏の作品を拝読している者の一人として差し出がましくもレビューをしたためたい。柚木呂高氏は一体どういう作家なのか、作品を読んだ方もこれから読まれる方にも是非知って欲しいと思ったからである。
さて、柚木作品に共通する魅力は、「日常に異質を馴染ませる文章の妙」だと私は考えている。とりわけ本作は彼の作風を如実に表していて、例えば人魚という異質な存在や首だけになった人魚の友人と同棲するといった出来事を、さも当然かのようにあっさりと描いているのを見ることができる。例えば首が飛ぶシーンの表現ーー血が噴き出るのをチョコレートフォンデュに喩えているが、これは非現実的な事象と乖離した日常性の高い物をあえて比喩に選んでおり、そうすることで読者は主人公の視点がいまだ日常からは離れていないのだと錯覚するのである。
こういった細かい文章表現のセンスもさることながら、スペキュレイティブフィクション的な事象を淡々とありのままに描く文体は一見シュールでありつつも、そこに中国文学に影響を受けたであろう独特な語彙や言い回しを持ち込むことで世界観に類稀なシナジーを生み出している様は実に豪快で、まさに柚木氏にしかなし得ない荒業であるといえる。
繊細さと豪快さ、両方の良さを併せ持った文章で描く柚木呂高の世界は他に類を見ないと私は確信している。もっと多くの方に読んで頂きたい作品が沢山あるので、本作を読まれてこの世界観に共感した方には作者フォローを推奨する。彼がプロデビューをした際、「アマチュア時代から応援してたぜ」と友達に自慢出来るからだ。