第2話

「時々疑うんだ、お前と話していると」


何を?彼女は無垢な目を向けて僕に聞き返した。


「未鳥 あすかは、果たして人間なのだろうか?ってね」


「なるほど……さてさて。一体全体、私のどこが春井くんにそんな難しい疑問を抱かせたのだろうか——その解答を求める」


彼女はわざとらしく、薄く気味悪い笑みを浮かばせつつも、手にしているような形のないマイクを僕の口元へと差し出した。


当然躊躇なくかつ誠実的に応える——お前の全部だよ。


「あらひどい」


語気も、手を撤去する動きも、あらかじめにシナリオがあったのようだった。


ミステリー小説のように。最初から犯人は何者かが決められている。それでも作者は面白みを絞り出すため、敢えて間違えの選択を幾つも下して人物達を悩ませる。僕はまさに彼女が書いたシナリオの中に囚われている。そういう異常を意識しているから未鳥 あすかが怖いんだ。彼女との距離を置こうとすればする程、僕らを繋がる糸がさらに絡み合ってやがてその結びは解けなくなる。


「前置きはいいから、話してくれ」


「何を?」


「お前の目的だよ」


彼女は呆れた目で僕をじっと見詰めた。


「春井くん、キミね……」


「な、何……?」


「主語の使い方、ちゃんと分ってます?主語をかけない言葉よりも理解し難いものなんてないわよ?」


「それは、どうだろう……?」


「はい?」


「僕だって普段からこんなじゃないさ。でも、いままでだってそうだ、僕が何をしようと必ずお前の行動に上回される。そうだ。お前を塔で俯瞰する観測者に喩えるなら、僕はきっと塔の下の迷人だ。なら、すべてを見据えるお前に、何かなんなのか、何かどうしたのかを説明するのはあきらに駄文じゃないか?ただ自分が進みたい方向を言って、進み方をお前に教われればいい、僕は……」


この先に放つ言葉をぐっと堪えた。


——僕はお前とそういう関係でいたい。と危うく語りかけるところだった。


白状すると、僕は何時しか、未鳥 あすかに変な気持ちを抱くようになった。重度な人間不信であるはずの僕はこの通り、遊園地にはにいられない。と言うより、人目がつく場所は基本耐えられない。思春期の妄想でなければ、男苦手意識の少女の敏感な自意識でもない。これは自身の天性によるものだ、他人にすがりよるようなやすいものじゃない。


「僕は?」


首をやや左へ傾ける。未鳥 あすかは相変わらず何もかも見え透いたように笑う。その笑顔をそう受け止めるのは多分僕だけかもしれないけど、わかるんだ……

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「雨が止むまで待っている」 @Ichiroe

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