第59話

 ゾンビはめんどうだ。

 いや死霊、アンデッド全般がめんどうだ。

 まずもう死んでる。

 これ以上死なない。

 でも動く。

 首切っても動く。

 じゃあ動きを止めるにはどうするか。

 ターンアンデッドで呪縛を切るか。

 無力化するか。

 ターンアンデッドは時間がかかる。

 手足を折るか切断するのが一番安心だ。

 魔法の効果が切れるまで放置すれば元の死体に戻る。

 もしくは焼くか冷凍すればいい。

 灰にするのは難しくても筋肉を壊せば動けなくなる。

 ただし人間の精神がすり減る。

 人型ってだけでも嫌なのに、オークだから手足が無駄に丈夫だしね。

 教会騎士やモンクはその辺を熟知している。

 精神も強く、アンデッドへの対策は常にしている。

 例えばお香。

 これはアンデッドの動きが鈍くなる。

 なお、古くから行われてる儀式で仕組みは誰にもわからない。

 さらに札。

 これも動きを遅くできる。

 これも魔術的な解析で現在の体系から外れた古代魔法だとわかってる。

 つまりどういう仕組みか誰にもわからない。

 作り方は知ってるのにどういう仕組みがわからないものって怖いよね?

 これで動きを止めて物理攻撃。

 無力化してターンアンデッドまでの時間を稼ぐ。

 これが結構精神にくる。

 俺はここで精神的なコストを払うのは嫌だった。

 俺は手を前に出す。


「お、おい! リック! 皆のもの退避!!!」


 カール兄ちゃんが怒鳴った。

 大丈夫だっての。

 前よりコントロールよくなってるから。

 こっちもちゃんと練習してるんだって。


「ドラゴンブレス!!!」


 光属性のドラゴンブレスが放出される。

 ここまではいつもの破壊。

 ここからが練習の成果。


「拡散!!! そして誘導!!!」


 光弾が拡散しながらオークゾンビを撃ち抜いていく。

 光属性の恐ろしい点は速すぎて避けられないこと。

 しかも誘導つき!!!

 その分威力は弱い。と言っても炎と比べてだ。

 オーク相手なら問題ない。


「ぎゃッ!」


 小さな悲鳴が上がってオークゾンビが倒れていく。

 狙いは関節。

 アゴも撃ち抜いた。

 普通のゾンビならこれで無力化できるはず……。


「甘いわ!!!」


 リッチの声がする。

 関節を撃ち抜いたというのにオークの死体が起き上がってくる。

 当然、筋肉が損傷しているため巨体が関節から崩れる。

 ぐにゃりぐにゃりと近づいてくる。

 神経に触るかのような嫌悪を感じた。

 いくら子分と言えどもこれはさすがにやりすぎじゃねえか?

 さらにオークの死体は近くの死体をその肉に取り込む。

 肉が融合して損傷箇所を穴埋めし、その身体を何倍にも大きくしていく。


「うごおおおおおおおおおッ!!!」


 咆吼。

 腐り始めているのか、それとも毒が消化液と反応を起こし異臭を放っているのか。

 血、毒、消化された肉。それが一体となったにおいが充満した。

 身の毛がよだつ。

 そしてその白く濁った目が俺たちをにらむ。


「来るぞ! 押し返せ!!!」


 リャン師範が声をあげた。

 かつてオークだった肉の塊、質量だけはある肉ががめちゃくちゃな動きで突っ込んでくる。


「うおおおおおおおおおおお!」


 モンクが一斉に棍で突き、遅れて騎士たちも槍で突撃した。

 もはや作戦もへったくれもない。

 筋肉まかせの突撃である。

 ひどすぎる。


「リック! 土の槍!!!」


 ラクエルの声がした。

 俺はダンジョンを踏みしめる。

 ダンジョンの床は土?

 いや堆積物とカルシウムだ。

 それを尖った槍にして隆起させる。

 肉の塊はいくつもの槍で串刺しになった。

 ジタバタ動こうとするが完全にガチッとハマってる。

 今回の教訓。

 見た目がグロいからって焦らない。

 たとえなんであれ肉でしかない。

 武器を持ったオークの集団よりは弱い。


「ほう……ドラゴンか。そこのドラゴンのオスよ。なぜ人間の味方をする?」


 オス……?

 リッチは……ラクエルではなく俺の事を言っているようだった。

 無視しよう。


「ターンアンデッド発動します!!!」


 タイミングよくシェリルが声をあげた。

 よし、無視だ。無視。


「ターンアンデッド!!!」


 ターンアンデッドは死体を操ってる術者と死体とのリンクを切る魔法だ。

 他の死霊にも効果がある。

 つまりゾンビは一撃で倒せる。

 効果範囲は術者に依存する。

 つまり次期聖女による効果範囲は広い。


「ぐ、ぐあああああああああッ!!!」


 かつてオークだったものはどろっと溶けた。

 肉が分離して転がる。

 また使われるかもしれないから焼いておく。

 リッチの声もしなくなった。

 リッチにはターンアンデッド効かないけどね。

 術者が自分自身だからね。


「ふう、なんとかなった……」


 シェリルがぺたんと座り込んだ。


「ナイス!」


「シェリルちゃん! やったね!!!」


 ラクエルもほめる。

 シェリルいがいなかったら最悪消耗戦を覚悟しなければならなかった。

 なおヒース兄ちゃんのターンアンデッドはそんなに効果範囲が大きくない。

 シェリルとの比較だから範囲が小さいように思えるけど、ヒース兄ちゃんの効果範囲は広い方である。

 シェリルが規格外なだけなのである。

 そう考えるとターンアンデッドって難しい呪文だよな。


「オークを浄化したら休憩するぞ」


 お香を焚いてモンクたちが経を読む。

 モンク流のターンアンデッドだ。

 教会のやつよりは効果はマイルド。

 でも効果時間が長い。

 リッチを倒すくらいの時間が稼げればいい。

 俺はリッチのことを考える。

 リッチを許せねえと思うほどではないが、なんかイラッとする。

 なんというか、ここまで的確にかんに障る行動をしてくれるとは。


「あのリッチ、おそらく戦争経験者だ」


 カール兄ちゃんがぼそっとつぶやいた。


「なんでそう思うの?」


「やり方が生臭い。人間が嫌がる行動を熟知してる。戦術ってのは相手の精神や体力をどう削るかだ。それを知ってやがる。オークゾンビもただの嫌がらせだろうな」


「厄介な……」


 戦争経験があるリッチとか。

 手に負えないやつじゃん!

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幼馴染みドラゴンが嫁になりたそうにこちらを見てる…… 藤原ゴンザレス @hujigon

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