第58話

 鋲のついた革鎧の上からブレストプレートを着る。

 鎖かたびらは重量がありすぎるのでこれ。

 その上から首まである毛皮のマントを羽織る。

 教会のマークが付いているやつだ。

 これなら首をかじられても数秒は保つ。

 ガントレットは重すぎて探索向きじゃないので鋲マシマシの革手袋だ。

 滑り止めつき。

 レガースも重すぎるので省略。

 その代わりに縄マシマシの脚絆を着用。

 こんなんでも一撃は耐えられる。

 こっちにはモンクの本山のマークが。

 よく見ると手袋にも。

 俺の所有権を主張するのやめてもらっていいですか?

 正直言うとモンク隊でもよかったんだけど、多人数戦闘の訓練をしてないから騎士隊で参加した。

 同士討ちするかもしれない。

 ラクエルは騎士隊の後衛班に入る。

 教会騎士と王国騎士の違いだが、僧兵っていう違いの他には王国騎士は対人間で教会騎士は対モンスターという違いがある。

 もちろん王国騎士もモンスターと戦うし、教会騎士だって教会焼かれたら人間相手に報復する。

 だけど名目上教会はモンスターから人類を守るための組織とされている。

 政治からは一線を引いて遠くから見守るスタイル。

 歴史上はガンガン政治に介入してるけどね。

 というわけでダンジョン突入。

 今回ミザリーはお休み。

 ダンジョン探索用のスキル苦手だもんね。

 その代わり回復と神聖魔法要員でシェリルとヒース兄ちゃんが同行する。

 聖女の婆ちゃんは、怪我しただけで責任取らされる人が山のようにいるくらい偉いので待機。

 カール兄ちゃんは王国騎士の指揮を執っている。

 というわけで教会騎士に混じって出撃。

 偉そうなおじさんが騎士に気合を入れる。


「勇者様が同行されるぞ!!! 我らの勝利は確定した!!!」


「うおおおおおおおおおおッ!!!」


 あ、さっそく使われた。

 でもいいか。

 怪我人出すよりはいいや。

 で、潜っていく。

 地形で死ぬことがないのは確認済みだ。

 中に入ると異変が起きていた。

 そこら中でゴブリンが死んでる。

 うーん?

 すると笑顔のカール兄ちゃんとヒース兄ちゃんに手招きされる。


「なんかやった?」


「いや、思い当たりが……あー! あったわ! そういやオークの食ってた鍋に毒入れたわ」


「なんの毒入れた?」


 ヒース兄ちゃんが笑顔で聞いてくる。

 いやでも口や目尻がピクピクしてる。


「えー……っと。強力なヤツ?」


「オリジナルブレンドか!!!」


 なぜか一瞬でバレた。

 いやその……自分の限界に挑戦したかったんだ……。


「ラクエルに教えてもらった古代の毒を……その」


 そこにさらに魔法で毒性をあげて……。

 と言っても無味無臭にしただけだけど。


「皆殺しか……その毒あとでよこせ。アズラットと分析する。お前の毒で世界が滅ぶかもしれんからな!!! 次は無許可でやるなよ!!!」


「うっす」


 ちょっと想定よりも毒性が強かったようだ。


「ヒース殿! この鍋を見てくれ!!!」


 リャン師範がヒース兄ちゃんを呼ぶ。

 一緒に行くとオーク鍋だった。

 あー、そうか。

 毒を食ったオークを食べてゴブリンが死んだと。

 こりゃ下のオークも甚大な被害が出てるな。


「毒だな」


「毒ッスね」


「勇者ってこんなに鬼畜な生き物だったか?」


「制作者の俺も毒の威力にどん引きです」


「皆の衆! オーク肉絶対に食うな!!! 死ぬぞ!!!」


 リャン師範も焦った声を出す。

 リッチ一切関係ないところで動揺が広がる。


「さすが勇者様……容赦ねえ……」


「リッチを倒すためには手段を選ばない……さすが勇者様だ」


「さすが勇者様だ……逆らわないでおこう」


 この場合の【さすが勇者様】はどん引きを現す。

 モンスターは見かけ次第殺す虐殺者スローターと思われたようだ。

 ぼく、悪い勇者じゃないよ?

 そのまま安全に下に降りる。

 本当にオークの虐殺現場があった。


「争った形跡がない。苦しまずに即死したようだな。……どんだけ強い毒なんだよ」


 ラクエルによると毒竜クラスらしいけど。

 そこから皮膚が溶けるとかの苦しむ効果を抜いて、速やかに心臓が止まるように調整しただけだ。

 一堂が俺を見てひそひそ話をする。

 なにこれいじめ?


「よかったなリック。数日後には貴族社会に誇張して伝わるぞ。戦闘特化型の超危険人物だって。もうお前をバカにするヤツはいなくなったぞ」


「ヒース兄ちゃんだってそれを作り出した一味扱いだからね!!!」


「俺は聖職者だぞ! そんなことするわけねえだろ!」


「シーフじゃん!!! 指揮取るレベルのシーフじゃん!!!」


 子弟の醜い争いをしながらオークの死体の側を抜ける。

 すると声がする。


「見事だ! どうやったのかはわからぬが我が配下を皆殺しにするとは。これこそ醜い人間の本性よ!!!」


 モンスター始末しただけでこの言われよう。

 だったら襲ってくるなと。

 このツッコミどころだらけのガバ理論の主はリッチに違いない。


「だが残念だったな! リッチたる我にそれは逆効果。魔導の奥義を見せてくれようぞ!!!」


 その声が響いた次の瞬間、オークの死体がぴくりと動いた。

 するとヒース兄ちゃんが声をあげる。


「ゾンビだ! 気を付けろ!!!」


 ですよねー!!!

 そう来ますよねー!!!

 シェリルが声をあげた。


「今からターンアンデッドを唱えます! 時間を稼いでください!!!」


 オークが一斉に起き上がった。

 俺は聖剣で斬りつける。


「ぎゃああああッ!」


 よし、どういう仕組みかわからんけど効果あり。

 リャン師範の声がする。


「香を焚け! 動きが遅くなるはずだ!!!」


 同時に棍でぶん殴る音がする。

 オークがこっちまで飛んできた。

 前から思ってたけどモンクって人外に片足突っ込んでるよね?

 俺は飛んできたオークにトドメを刺す。

 ゾンビのなにが厄介か。

 生きてるときより弱いんだけど、倒す術がほとんどないんだよね。

 燃やすかバラバラにするか。

 とにかく面倒なことになった。

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