停滞か、それとも。

 この状況でも尚、ダンジョンに潜りたいと宣う八磨。


『白羽さんの言い方から察するに、白羽さんは街の中で術をかけられたんですよね……だったら、ダンジョンとか関係無いと思いますよ』


「……それは、どうかな。先ず僕に仕掛けて来た理由は、僕が邪魔だからでしょ」


 僕の考えだと、やっぱりダンジョンは危険だ。


「僕が居なくなれば、君は一人でダンジョンに潜り出す。若しくは、僕も洗脳して君を誘い出す。それを狙ってるんじゃないかな」


『だとしたら、尚更大丈夫ですよ。私達二人でダンジョンを攻略すれば、手出しは出来ない筈です』


「でも、帰り道では一人になる」


『今回、直接手を出されたのは白羽さんですよね? でも、標的は私……これって、おかしくないですか?』


「……そう、だね」


 でも、今の話には関係無い。


『多分、敵は私に直接手を出せない理由があるんだと思います。私の予想だと……能力を使おうとすれば気付かれるから、とか』


「なるほどね」


 確かに、僕と違って八磨は鋭い。誰かが何かを仕掛けようとすれば、それを察知するくらいは出来るだろう。


「それは十分あり得る話だし、僕の考えていた触れなければ能力は使えないって言う条件とも合うね」


 となれば、やはりあの男は怪しい。声は……どうだったか。僕らほど若くは無かったし、老人の声でも無かった。分かるのは、そのくらいか。


『だから、私が白羽さんを迎えに行って、家まで護送します。これなら危険は無い筈です』


「……リスクを負ってまですることじゃないと思うよ」


 ダンジョンに潜るのは解決を待ってからでも良い。


『私たちの人生が、ここで止まっても良いんですか?』


「……どういうことかな?」


『誰かが解決するのを待てって言いたいんですよね。それまで、ずっと何も出来ないなんて……私は受け入れられないです。そもそも、私達が動かない限り、相手も何も出来ない筈ですから、敵は一生見つかりませんよ』


 確かに、相手の顔すら見ていない僕たちの情報だけで敵を見つけられるとは思えない。それはつまり、待ってるだけじゃ解決しないってことだ。


『相手はきっと、強すぎる相手は狙えません。だって、それが出来るなら私を狙う必要もありませんから』


「それは、そうだね」


 八磨を狙うのは、素養があって手頃な相手だからだ。今後かなり強くなれるが、今はそこそこだ。一番狙い目だろう。


『だから、強くなるんですよ。敵が手を出せないように警戒したまま、一生手を出せないくらい強くなれば良いんです』


「それは……極論って奴じゃないかな」


『でも、それ以外に私たちが進む方法は無いです』


「……一週間」


 僕は短く告げた。


「一週間、大人に任せて……どうにもならなければ、何か僕らで行動しよう。安全に」


『……良いこと、思いつきました』


 八磨は僕の言葉に賛成も否定もせずに、そう呟いた。


『三日経ってもどうにもならなければ……ある程度強くなるまで、私の家族を連れて行きましょう』


「君、どうしてもダンジョンに行けないのが嫌なんだね」


 しかし、家族か。ちょっと、嫌だな。


「確かに、君の家族の話は何度か聞いたし、相当強いってことも分かるけど……気が乗らないなぁ」


『確かに私もパワーレベリングみたいで嫌ですけど、三人パーティでの探索ってのもやってみたいですし』


 三人で攻略か。経験値の分配も貢献度依存って聞いたし、効率が良いのかは分からないね。


「能力に実力が見合ってない状態は危険だからね。あんまりそういうのには手を出したく無いんだけど……まぁ、背に腹は代えられないからね」


 それに、数日訓練をすれば追いつくかも知れない。


「分かった。それで、良いと思う。ただ、僕としてはちょっと気まずいけどね」


 何なら、僕の家まで護送してもらうことになるかも知れないんだ。割と、キツイものがある。


『大丈夫です。お姉ちゃんは優しいですし……お兄ちゃんは、そんなの気にならないくらいアレですから』


「良く分からないけど、僕はお姉ちゃんの方を希望しておくよ」


 アレって何だよ、アレって。八磨から見てその評価って、絶対ヤバい奴だろ。


『あ、すみません。用事の時間が来ました』


「うん。じゃあ、気を付けてね」


『白羽さんこそ、気を付けて下さいね!』


 電話の向こうから誰かの声が僅かに聞こえ、電話は切られた。


「……先ずは、通報かな」


 僕は1、1、0と順番に数字を打った。

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ダンジョンが蔓延る現代の生き方 暁月ライト @AkatsukiWrite

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