第167話 鈍色の復讐心
《三人称視点》
王国内某所。
そこは、何の変哲も無い普通の部屋だった。
普通の家と変わらず家具が置いてあり、部屋の中は清潔に保たれていて、誰が見ても一般人が暮らしているようにしか思えない。そんな、怪しさの欠片もないごくごく平凡な部屋だ。
ただ、異様な点を挙げるとすれば。
まだ日が完全に落ちていないのに、まるで人目を憚るかのごとく真っ黒なカーテンが窓を覆い、一片の陽光すら通さないことと。
この部屋の主が今手に持っている、自身の身長よりも長い
「くっ……ははは」
不意に、鈍色の塊を持ったその男は、乾いた笑い声を上げた。
真っ暗な室内で顔はわからないが、はち切れんばかりの筋肉を持つ筋骨隆々の男だということはわかる。
そして――ソイツは以前、《
その男は、鈍色の塊を慈しむかのように手入れしつつ、暗闇の中で口角を上げて笑った。
唇の隙間から覗く白い歯だけが、不気味に輝く。
「このチャンスを、ずっと待っていた……アイツにやられた、その日から」
男は、怨嗟(えんさ)の籠もった声色で呟く。
その呟きは、外界から完全にシャットアウトされている室内に吸い込まれ、誰の耳にも届かない。
「生半可な実力じゃあ、あの野郎には敵わねぇ。だから、《神命の理》との接触を図った。まさか、学内に潜伏していた《
男は、自身の幸運に感謝するように呟いて、マッチの箱からマッチを取り出した。
「最高権力者に接触できたことで、コイツも手に入れることができた……これさえあれば、アイツを倒せる」
マッチを擦り、テーブルの上に置かれたろうそくに火を付ける。
真っ暗だった室内が、不気味なオレンジ色の明かりでぼんやりと照らされた。
その明かりが、鈍色の物体のシルエットを浮かび上がらせる。
どこか機械的なデザインをしているそれは、近年王都で出回っている「魔力銃」と呼ばれる魔法兵器だった。
魔法銃は、発動する魔法の種類や取り回しこそ詠唱式の魔法使用に劣るものの、上級魔法が詠唱できない人間でも魔力量によっては難なく上級魔法クラスの攻撃ができてしまうのである。
それ故に近年では通信魔道具よりも高価な値段で取り引きされている貴重なものだが、今男が持っているのは王都で少数が出回っている量産品ではなかった。
一メートル近い
魔法銃よりも、一発の威力と射程を倍加させた特注品だ。
もちろん、《
実用化もテストもされていない危険な試作品を、テストという形で捨て駒の男に貸し与えただけのことだ。
しかし、そんなことは男とてわかっていた。
わかった上で、このチャンスに乗っかったのだ。
(あの忌々しいリクスを倒すには、こちらも相応のリスクを負わねぇと……アイツを殺せるのなら、安い賭けだぜ)
男は、オレンジ色の炎に照らされて不気味に笑った。
ただ、自身の歪んだ復讐を遂げるために。
今、闇の中でリクス達を狙う者が動き出した。
姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~ 果 一 @noveljapanese
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