第166話 バラガスの策謀

《三人称視点》




 ――時間は流れ、期末試験まで残り一週間を切った頃。


 リクス達は着々と、試験対策及びバラガス達の妨害対策を行っていた。


 その裏で、悪意を持ってリクス達を妨害しようとしている者達がいた。




 言わずもがな。


 バラガスにラージャ、ジェシカの3人だ。


 


 時刻は午後5時半頃。


 オレンジ色の夕日が差し込む職員室前に、3人の人影があった。




「失礼します」




 バラガスが職員室に入出すると、ラージャとジェシカがそれに続く。


 用があるのは、担任であるフレイア先生ではない。


 書類仕事に追われている彼女の席の後ろを素通りし、バラガス達は一番奥に座っている教師の下へと向かった。




「すいません、ランダ先生」


「……ん?」




 バラガスが声をかけると、ランダは書類整理をやめて顔を上げた。


 ランダは、ラマンダルス王立英雄学校に古くから努める、40代後半の実技担当教師である。


 もう初老とは思えないくらいギラついた目に、筋骨隆々な身体。短く借り上げた深緑色の髪が特徴的な強面の男教師だ。


 


 そして――期末試験における、技能検査の担当教師でもある。


 バラガス達がここに来たのは、言わずもがなリクス達を試験で落とすためだ。




「どうした、お前等?」


「実はですね、リクス君達に伝言を頼まれまして、それで先生に伝えてきました。なんでも、どうしても外せない用事があるとのことでして」


「そうか。要件はなんだ?」




 ランダがそう問い返した瞬間、バラガスはニヤリとほくそ笑んだ。


 


「今日提出したプリントに書く内容を間違えたらしいので、訂正がしたいとのことでした」




 ランダは、我が意を得たりとでも言いたげな顔のまま、すらすらとを語った。


 


 今日提出したプリントというのは、言わずもがな重要書類だ。


 技能検査は、剣術や体術、槍術、攻撃魔法に回復魔法など、数々の実技科目の中から一つやりたいものを選んで、数値をはかって貰う試験だ。




 よって、当日技能検査をする際に、実際に試験を受ける科目というのを事前に選ぶ機会が設けられるのである。


 それこそが、今日提出したプリントなのだった。


 つまり――バラガスは、リクス達が選択した科目を勝手に変えようと企んでいるのだった。




「そうか……で、誰が何に変更なんだ?」


「それはですね――」




 バラガスは、内心小躍りしたい気持ちで一杯になりながら、ランダに捏造した情報を伝えるのだった。




――。




「――わかった。リクス、サリィ、サルム、フランシェスカの四名が、それぞれ科目を変更すると言ったんだな?」


「はい、その通りです」


「そうか。伝えに来てくれてありがとう」


「いえいえ、友人のためですから。それでは、俺達はこれで失礼しますね」




 バラガスは、聖人のような微笑みを浮かべる裏で黒く笑いながら、平然とそんなことを述べたのだった。




「――ぎゃはははははは! まさか、こんなにすんなりいくとはねぇ!」




 職員室を出て、職員室に声が届かない場所まで移動した瞬間、耐えきれないとばかりにラージャが吹き出した。




「ほんそれ! あーしらの言うこと、丸呑みにしてやんの。マジでウケるし」




 ジェシカもまた、嘲るように笑いながら、ラージャの言葉に賛同する。




「まあ、仕方ないだろ。なんたってリクスは、編入試験でブロズ先輩(笑)を破り、学園テロじゃ大活躍して「ロータス勲章」を貰ってる。先日の《選抜魔剣術大会》にも優勝した、紛れもなく1年の……いや、この学校きってのエースだ。リクスに嫌がらせしようとしてるヤツがいるなんて、誰も思わないぜ?」


「それな。だから、こういうしょーもない悪戯が刺さるんだろ?」


「ああ、そうだジェシカ。彼等には少し失脚して貰う。……最悪、退学まではいかずとも夏休みの補習になるくらいには赤っ恥を掻いてくれないと、俺等の気が済まない」




 バラガスは、舌打ちしつつそう言った。


 結局の所、彼等のやっていることは八つ当たりなのだ。


 同年代にリクスという強い光が生まれてしまい、自分たちは脇役にすらなれず、光に消されてしまったただの無能だと認めたくないだけの小者。




 しかし、元より八つ当たりで退学させようとしているだけのヤツらの計画など、杜撰としか言いようがなかった。


 それが証拠に、偽の情報を受け取ったランダは、、とある人物の元へと向かったのである。




 


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