最終話 眺める男

「スクルージ街」の通りの突き当りには、まるで教会のような尖塔を持つ、レンガ造りの建物がある。

 昔は消防署として使われていた建物で、ひときわ目立つ屋上の尖塔は、町を見渡して火災の場所を確認するために使われていたらしい。


 一人の老人が、今まさにその尖塔の窓から、雪の降る通りを眺めていた。

 今やまばらに灯りが点るだけの、ほとんど闇に沈んでしまったようなこの町の中で、24のネオンに照らされた通りだけは、嘘のように明るく見えた。


 老人は、かつてこの町で手広く商売を手掛けていた。金の亡者、守銭奴などと罵られたことも、一度や二度ではない。

 大恐慌後、商売から手を引いた彼は、役所から払い下げてもらったこの古い建物を、自宅として暮らしていたのだった。

 24のネオンを毎晩眺める、ただそのために。


 ネオン広告は、芸術ではない。あくまで、少しでも売り上げを伸ばすため、もっとお金を儲けるため、そんな目的で作られたものだ。しかし、この美しさはどうだろう。

 欲望こそが美を作り出し、街を発展させた。経済が崩壊し、文明の全てが崩れ去ろうとしている今、その事実を誰が否定できるだろうか?


 さて、そろそろ時間だ。

 老人は、手元のスイッチを切る。

 24のネオンが全て消灯し、通りは暗闇に戻る。過ぎた日の幻と共に。


 明日の夜もまた、老人はこのスイッチを入れる。

「スクルージ街」のネオンは、再び24の物語を語り始めることだろう。


(了)


☆最後までお付き合いいただいた読者のみなさま、ありがとうございました。

良いクリスマスをお過ごしください。☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スクルージ街の24のネオン ~街角のアドベントカレンダー~ 天野橋立 @hashidateamano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ