氷の中の私

小鳥遊

氷の中の私

山奥の氷の中に閉じこめられた私が発見されたのは、500年後の事だった。


街中の人達は、凄い発見だ!と私を見せ物として、大きなビルの1階に氷が溶けないようにして飾り、連日たくさんの人が私を見に来た。


私の心はまだ、ここにあるのに。

声を出したくても、動きたくても何もできない。

人々は私を興味本位で見にくる。

泣きたいのに泣けない私。


ある日、私を見にあなたがやって来た。

友人達と一緒に来たあなたは、「こんな厚い氷に閉じ込められて見せ物にされて可哀想に」と言ってくれた。


そんな風に言ってくれた人は、はじめてだった。

私は一瞬であなたに心を奪われた。


あなたは、それから何度も私に会いに来てくれた。私はそれが待ち遠しくて、いつもあなたを探していた。


あなたと話したい。

あなたに触れたい。

でも厚い氷が私達の距離を遠ざけていた。


私の気持ちはつのるばかり。


何度も来てくれるあなた。


でも。

そのうちあなたは来なくなった。


何年も月日が経った。

私は、あなたを待つのはもうやめようと思った。


私を見に来る人はだんだんと減っていった。

私は街の中に忘れられた人形。

私を他の場所に移すという話しが出てきた。


もう一度だけ、せめて一目だけでもいいから、あの人に逢いたいと私は願った。


私を移すという最後の日、あなたは私の前に現れた。

でも、あなたは小さな写真の中にいた。

あなたの写真を持ってきたのは、あなたの友達だと気付いた。


「お前はこの子の事、凄く気に入ってたんだよな。生きているうちに、もう一度逢わせてあげたかったな」と、その人は写真のあなたに言った。


私は、自分の心を自分を包む、この氷の温度と一緒にした。


薄れゆく景色の中で、私は写真の中のあの人の顔を最後に見つめていた。


あなたの顔を見つめていた。


おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

氷の中の私 小鳥遊 @ritsu25

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ