第二十九話 『もうお前に助けてもらうわけにはいかないんだ』


「おい!!漣!!起きろよ!!」


(クソッ!!やられた!!)


右脚を切断され、頭から大量の血を流して倒れる漣。そして、未だ全身に切り傷と深く切り裂かれた肩を抑えながら立ち上がる雷兎。見るからに、劣勢だった。


『ハッ!窮奇はこんな奴等に負けたのかよダセェな!!いや、倒したのはお前らじゃなく、アッチのガキ共か?』


ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、数キロ先に巻き起こっている激しい戦闘音に耳を傾ける橈骨。その身は、無傷だった。


「漣、少し、待ってろ。」


『お?やるか?』


「死ね。」


地面に漣の頭を置いて、ゆっくりと立ち上がる雷兎。そしてそのギラついた視線を橈骨へと向けた瞬間、【雷閃】が奔った。


『速いなぁ!!!だが!!速いだけだァ!!』


「火力はなァッ!!!!!!」


橈骨ですら脊髄反射で大剣を自分の前に翳すことでしか防げなかったスピードで、橈骨の顔面へと電拳を放つが、大剣に受け止められる。


だが。


『ぐっ!?』


感電する。


雷を纏い超高速化している雷兎の攻撃には当然電力が加わっており、その何億ボルトという電流をモロに感電した橈骨はほんの一瞬大剣を手放す。


「【雷兎・電轟絶撃】!!!!」


『【鬼神支配・オーバーエレメンタルアーマー】!』


感電の影響で、ほんの一瞬だけ肉体の自由が効かない橈骨の腹部に容赦無い電撃の蹴りが叩き込まれる。


しかし、肉体が動かないと認識した橈骨は咄嗟の判断で術を発動して全身に青い鎧を纏ってダメージを軽減させる。


「拡張異能だと、、、そんなの、上位の異能技術じゃねぇか、、、」


拡張異能、異能を使用する際の霊力の性質を変化させることで異能の効果を変化させる一技術。楓の神護炎鎧が良い例だろう。


そして橈骨の異能は鬼神支配、あらゆる物質・装甲・魂を全て貫いてダメージを与え、相手に防御を不可能にする異能。それを逆転させてあらゆる攻撃を無効化する、異能と化しているのだ。


『そろそろ終わらせるぞ?』


「ぐぅっ!!??」


橈骨の睨みつけるような視線と共に放たれたのは、動体視力を電力で強化している雷兎ですら見切る事が出来ないほどの速度の蹴り。それは雷兎の腹を襲って数本の肋骨をへし折る。


(内臓に刺さってはいない!!)


とてつもない激痛と衝撃が全身を襲う中、不幸中の幸いを認識して眼をかっ開く雷兎。その右手は橈骨へと向いていた。


「【雷兎・礼賛之雷将】!!」


『【鬼神支配・ライトコルプスクストライブ】』


雷兎の右手から放たれる超高速雷撃は、数十億ボルトというとてつもない電圧を持って橈骨の全身に襲いかかる。


しかし、橈骨が起動した【羽衣】は電撃を受けた瞬間地面へと電力を受け流して無効化させる。


『死ね』


次の瞬間、橈骨の大剣を持っていない左手のパンチが雷兎を空中へと放り投げるアッパーを放つ。それをまともに喰らった雷兎は果てしないダメージと、意識が飛ぶほどの衝撃を味わう。


ほんの一瞬の失神、だがその0.01秒は橈骨が雷兎に止めの一撃を刺す分には充分すぎる時間だった。


『【鬼神支配・オーガデストロイ】』


空中へと放り投げられた雷兎の首に、破壊の一撃が迫りくる。それは、異能も使用している確実な殺意で満たされた一振りだ。


(終わりだな。)


橈骨は自身の勝利を革新した。雷兎は失神している中で絶望を感じた。辺りの空気はありえないほどピリついてクライマックスの雰囲気を伝える。そんな空間に、、、














――――――――【炎矢】が轟いた。



『なっ!?』


「ぐあっ!?」


振り抜かれた大剣を焼き溶かして弾き飛ばすのは、遥か右後方から放たれた神焼の弓矢。それは、仲間の存在を確認するには十分だった。


「ごめん、遅れて。」


地面に叩きつけられ、意識を強制的に戻された雷兎の視界に映るのは、全身を酷い怪我で包んだ楓の姿。だが、楓の全身から漂う霊力は先程までとは確実に【レベル】が違う練り上げられた霊力だった。



(確実に、、、成長している、、、)


『テメェこのクソガキ、饕餮はどうした?』


「殺したわ。」


完全な不意打ちによって、少々の火傷を負っているがすぐに戦線復帰してきた橈骨は、厳しすぎる視線を楓へ向けるが楓はスッキリした声音であっさりと答える。


『なら、死ね。』


蹴り抜かれる地面、垂れる冷や汗。見るからに限界を迎えているであろう楓は脚を震えさせながらも仲間を死なせまいと一歩も動かなかった。


(何回目だ、、、、俺は何回楓に助けられた、、、)


1級妖怪討伐任務の際、死にかけた俺を護りながら戦ってくれたのは楓だ。戦闘訓練の時に、世羅先生に殺されかけた時に庇ってくれたのも楓だ。


なのに、俺はまた楓に助けられている。しかも今回ばかりは楓が死んでしまう。


死の間際、究極まで引き伸ばされた体内時間で雷兎は走馬灯のような記憶が蘇った。





 

 

―――――――――――――――――――――



「ママ、、、?パパ、、?おにい、ちゃん、、、?」


血の海で埋め尽くされたリビングに転がる4つの死体の前で、全身から電気を発しながら涙を流す子供。彼こそが、異能力に目覚めたばかりの10歳の頃の雷兎である。


雷兎は一般家庭の出であり、才能があった。霊力は通常の異能力者の数十倍ほどあり、異能も雷を操る異能で強力。そんな幼いながらに力を持ってしまった少年が雷兎だ。


知っているだろうか?妖怪とは、霊力を求めて彷徨う害獣である。故に、子供でありながら霊力を大量に持ち、周りの大人が一般人の雷兎は絶好のカモなのである。


それ故に雷兎の家に1級妖怪が襲撃してきたのである。雷兎は、目の前で家族が殴られ、蹴られ、切り刻まれ、捕食されるのを目の当たりにしてしまった。


そこからは本人も良く覚えていない。しかし、その後の現場を見た異能力者はこう言った。


「まるで、落雷が起きたような現場だった。」


と。


雷兎はそれから、強くなることを選んだ。もう二度と自分の力で周りの大切な人達を傷つけないように、もう二度と理不尽な殺人を誰も被らないように。







―――――――――――――――――――――



(はっ、、、それが、このざまかよッ、、、)


強くなることを選んだ、弱音を吐くのもやめた。でも、それでも届かない絶対的な壁があった。


(もう二度と、、、誰も傷つけない、、、)


脳内をループする己の信念。幼き頃の自分が決めた絶対のルールが今も雷兎の心を縛り付ける。


(違うだろ、俺より重症な楓が頑張ってるのに俺が護られるだけなんて。)



――――――――ならば、どうする?


飽きるほど繰り返した自問自答に、ようやく答えが出せる。そんな風に微笑んだ雷兎は、目の前で震える楓の肩を掴んで啖呵を切ってみせた。


「もう二度と!!お前に護られるわけにはいかない!!俺が、お前等を護るんだ!!!!」


全身に迸る凄まじい電力、爆ぜる霊力。それは、かつて家族を殺した妖怪を葬り去った時の【雷】だった。


『オラァァァァァァァァ!!!!!!』


「オラァァァァァァァァ!!!!!!!!!」


ぶつかり合う雷と大剣。先程までと同じならば雷が跳ね返されてふたりとも切り刻まれてバッドエンドだ。しかし、、、


『なにっ!!??』


粉砕。


馬鹿げた電気を纏った電拳は金切り音を鳴らしながらぶつかる大剣を粉々に粉砕して、橈骨の顔面へその拳を叩きつけた。


「トラウマの克服、、、先生。俺、できましたよ。」


遥か遠くを見つめる雷兎は、返ってくるはずもない返答を遮って再度橈骨へと視線を向ける。


「まだ、やれるな?」

 

『粋がるなよ、ガキ。』


そこに居たのは、初めてまともなダメージを受けて血を吐く橈骨の姿であった。






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厨二病社会人は転生したら無双する 〜異能が存在する現代日本に転生した元一般人は、地獄の特訓で世界最強になる〜 いふる〜と@毎日七時投稿! @atWABD

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