レティシア side ①

 

 レティシア side ①




『んぅ……エルランドさまぁ……もっと……もっとしてください……あぁ……』

『くくく……どうしたリディア……先程までとは打って変わって従順じゃないか……』


 玉座の間を後にした私の耳に、中で行われている情事による声が聞こえてきました。

 愉悦に震えるエルランド様の声と、快楽に溺れるリディアの嬌声が混じりあっています。


「ふふふ。楽しんでいただけているようで良かったです」


『エルランド・ハーウッドの魂を先代魔王の身体に転生させる』


 このことを話せば、彼に一番強い恨みを持っているリディアがあの場にやってくるのは想定内の出来事。


 エルランド様の手にした『固有能力』の説明をするには打って付けと言えたでしょう。


 あとは彼女を『前払いの報酬』として彼に差し出せば良い話です。


「お疲れ様でした魔王様。無事にエルランド・ハーウッドの魂を転生させることが出来ましたね」

「ふふふ。これも彼を殺してくれた人間界の王のお陰です」


 私の背後から聞こえてきた声にそう言葉を返しました。


「あの男も馬鹿なことをしたものですね。エルランドが居ない人間軍など遅るるに足りません」

「いえ……まだ油断は出来ませんよルーシー。人間軍にはまだ『英雄候補』と呼ばれる者が四名居ますからね」


 私がそう言って後ろを振り向くと『密偵』を任せているルーシー・エクシリアの姿がありました。


「英雄候補……そうですね。彼女たちは確かに脅威です。ですが、こちらにもエルランド・ハーウッドを参謀として迎え入れました。彼がその知略を発揮するのならば、やはり部はこちらにあるでしょう」

「ふふふ。そうですね。リディアの身体も満足していただけているようですし。早速明日から彼には働いていただくことにしましょうか」

「はい。英雄候補の一人 シエル・アルフォートが明日の戦場に顔を出すと調べが着いております。恐らくですが空戦部隊を引き連れて……」


 密偵のルーシーが調べてきた情報を、私にそう告げていた時でした。


「いや違うぞ。シエルは空戦部隊では無く、地上戦部隊を引き連れてやって来る」


「エルランド様!!??」

「……お言葉ですがエルランド様。何故そのようにお考えが聞いても?」


 突然背後から聞こえてきた彼の声に、私とルーシーは驚きを隠せませんでした。

 そして、彼の言葉に対してルーシーが眉をひそめながら問い返していました。


 それもそうでしょう。彼女にも密偵としての誇りと自負があります。

 自身が調べて来たことに対して、こうして正面から否定をされれば理由を知りたくもなるでしょう。


「ルーシーがこちらを探っているのは俺も把握していた。そしてこれまでずっと『空戦魔法部隊』での攻撃を繰り返してきていたことも俺の案だ」

「でしょうね。我が魔王軍の弱点は『空戦』にあります。先代魔王は自身の翼で空戦を得意としていました。故に魔王軍では、空の戦力よりも地上の戦力を高める方向へと向かっていました」

「そして、先代魔王が死んだ後、空戦部隊の戦力拡充が行われていない現状をついて俺が攻撃を仕掛けていたんだ」


 エルランド様の言っていることは真実です。

 彼が参謀に加わってから、地上戦を囮にして空戦部隊で奇襲をかける戦術が多く見られるようになりました。


 ですが、それも昨日までの話。

 既に翼を持つ魔族を多数集結させて、人間軍の空戦に備えるように配備をしています。


 身体能力では人間を魔族が圧倒しています。

 同数ならばこちらが圧勝するのは道理です。


「くくく……空戦は囮だ。これまで散々空戦を意識してきたからな。明日の作戦では地上戦で一気に魔王城を攻め落とすことになっている」

「なぁ!!??」


 彼の言葉を聞いて、ルーシーの驚愕した声が廊下に響きました。

 き、気持ちはわかります。私も同じですから……


「さ、作戦会議も空戦を主体に行うと言っていたでは無いですか!!」

「ははは!!やはり見ていたな。確かにあの場で俺が主要部隊の隊長に『話していた』内容は空戦部隊で魔王軍を攻め込むと言うものだ」

「……ま、まさか」

「くくく……ようやく理解したか。俺が配っていた資料が『暗号化された地上戦での魔王軍への進軍作戦の概要』なんだよ。つまり、俺がぺちゃくちゃと話していたことは全て嘘。配っていた資料こそ本当の作戦だったという話だ」

「そ、そこまでしていたのですか……」


 ルーシーが身体と声を震わせながらそう言うと、エルランド様は彼女の頭に右手を乗せて軽く撫でていました。


 う、羨ましい!!私も撫でられたいのに!!


「魔王軍の優秀な密偵がこちらを探っていたからこそ、役に立つ作戦だ。お前がそうして居なければ全く意味をなさない行為でもある。これはお前の『優秀さの証明』でもある」

「あ、ありがとう……ございます……エルランドさま……」

「くくく。これからは味方同士だ。宜しく頼むぞルーシー・エクシリア」

「は、はい!!」


 顔を真っ赤に染めてルーシーは嬉しそうに首を縦に振りました。

 洗脳の力なんか使わなくても、彼女が『堕ちた』ことは明白ですね。


「そ、それでは失礼します!!」


 彼女はそう言うと私達の前から姿を消しました。


「ふふふ。まさかこんなに早く貴方の力を借りることになるとは思いませんでした」


 私は隣に居るエルランド様にそう話を振りました。


「この程度のことは事前に持ってた知識を話しただけのことだ。簡単な『手土産』だと思ってくれて構わんさ」

「ふふふ。上質な手土産に心が震えてしまいます」


 私はそう言葉を返したあと、彼の身体に身を寄せました。


「……リディアでは『足りなかった』のではありませんか?」

「……くくく。なんだ、わかっていたのか」

「えぇ。先代も『一人では』全く足りてないご様子でしたので」


 私がそう言うと、エルランド様は少し乱暴に身体を抱き締めてくれました。

 そして耳元に唇を寄せて言いました。


「レティシアの身体を愉しませてもらおうか。今夜は寝れると思うなよ?」

「ふふふ。それは楽しみです。私も『好意を寄せていた殿方』に抱かれるのは本望です」

「ほう……初めて聞く言葉だな」

「ふふふ。私……優秀な男性が好みですからね。貴方を手に入れてくて仕方がなかったのでですよ?」


 私が軽く流し目を作りながらそう言うと、彼の唇がニヤリと吊り上がりました。


「ははは。いじらしいことを言うじゃないか。たっぷり可愛がってやる」

「はい。よろしくお願いいたします。エルランド・ハーウッド様」




 こうして、私はお慕いしていた殿方に『初めて』を堪能していただくことが出来ました。


 ふふふ。とてもとても……幸せな時間でしたね。

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