第七話 ~魔王軍の士気を確認したあと、魔法によって全軍を転移させた~
第七話
「くくく。なるほどな。全軍が揃うとなると、なかなか壮観な眺めじゃないか」
城門の前に陣を取り、俺はその先頭に立っていた。
そして、ルーシーの手腕によって整然と揃えられた魔王軍を眺めて満足感を得ていた。
くくく。これならば我々の『勝利』だ
俺の『確信』は外れない。
まずはここから、魔王軍の反抗と行こうじゃないか。
「エルランド様……その、大丈夫なのでしょうか?」
俺の隣に立っていたレティシアが心配そうな表情でそう言ってきた。
「今回の戦闘ではお前とリディアは留守番だ。俺の勝利に関しては何も心配することは無い」
「……そう、ですか。わかりました。それでは私は城で貴方の帰りを待つことにしましょう」
そう言葉を返すと、レティシアはふわりと微笑みを浮かべながら続けた。
「ふふふ。私は夫の帰りを待つのも嫁の勤めです」
「くくく。言うじゃないか。まぁ万が一俺の予想を超えた出来事が起きて、城が強襲される可能性があるかも知れん。その場合の『保険』という訳だな」
「なるほど。因みにその確率はどれほどですか?」
「くくく……天文学的な数字の確率だな。だが、無視する訳には行かない。この戦いに負けたら終わりなのだからな」
俺はそう言うと、レティシアから視線を切り、魔王軍へと視線を移した。
そして、腰から魔剣『ミスティルテイン』を抜き放ち、天へと掲げた。
「さぁ行くぞ!!ここから我らの連勝街道が始まる!!この俺について来い!!」
俺の叫びに応じるように、全軍から雄叫びが上がった。
くくく。士気は非常に高い。やはり俺が先陣を切るのは正解だな。
初陣での行動が今後の信頼に関わるのは当然だ。
いきなり後ろでコソコソやっていては誰も着いてこない。
こうして俺が先頭に立って指揮を行う。
これこそが正解なのだからな。
「エルランド様。ここより五キロほどの場所に人間軍が陣を敷いています。今は休憩をしている模様です」
偵察を終えて俺の隣にやって来たルーシーが、耳元で有力な情報を告げてきた。
「ご苦労だったなルーシー。良くやった。褒めてやろう」
「はい!!ありがとうございます!!」
俺が軽くルーシーの頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに瞳を細めた。
その様子を見ていたレティシアが羨ましそうにしていたが、まぁお前は今夜また可愛がってやるから今は我慢しろ。
俺はそう考えながら、一人の魔族を呼びつけた。
「四天王の一人『千の魔法使い』ラクシャータよ!!来い!!」
俺の声が響き渡ると、目の前に『魔法陣』が現れた。
そして輝きを放つ魔法陣から紫の髪の毛を腰まで伸ばした、美しい女性の魔族が姿を見せた。
『千の魔法使い』の異名を持つ魔族。
ラクシャータ・ラクラインだ。
「お呼びに預かり参上致しました、エルランド様」
「うむ。それではラクシャータよ。お前の転移魔法で魔王軍を人間軍の前まで転移させろ」
『転移魔法』は非常に高度な魔法で、通常ならば、一人を送るのが精一杯だろう。
だが、ラクシャータならば一度に『一万』までの魔族を転移させることが出来る。
くくく。こいつの転移魔法には何度も煮え湯を飲まされたからな。
この戦力が今度は俺の物になる。戦術の幅が広がると言うものだ。
「その程度のことでしたら、容易に行えます。それでは準備はよろしいですか?」
「あぁ、構わない。すぐに行おう今は時間が惜しいからな」
「了解致しました」
ラクシャータはそう言うと、腰から『魔法杖』を取り出して詠唱を行い始めた。
「それではエルランド様。ご武運を祈っております」
詠唱を行うラクシャータの横を通り、レティシアが俺の元へとやって来た。
「あぁ、今夜もたっぷりと可愛がってやるからな。期待して待っていろ」
「ふふふ。はい。お待ちしております」
レティシアの身体を抱き寄せ、唇を重ね合わせる。
その様子を見ていたルーシーが羨ましそうな視線を向けていた。
くくく。案ずるな。お前も一緒に可愛がってやるからな。
そして、俺がレティシアの身体を離すと、ラクシャータの詠唱が終わりを告げたようだった。
「エルランド様。行けます」
「よし。では向かうとしよう。ラクシャータ、やれ」
「了解しました。……『転移魔法発動』!!」
ラクシャータの手にした魔法杖が眩い光を放つと、その光が魔王軍全体を包み込んだ。
すると、次の瞬間。目の前が白くなり、身体が浮遊するような感覚に包まれた。
なるほど。これが転移魔法の感覚か。
あまり気分の良いものでは無いな。
こうして俺たちは、レティシアとリディアを城に残し、人間軍の休憩地点へと転移を行った。
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