シエル side ①

 

 シエル side ①




 ギルフォード王の部屋を後にした私は、自室へと戻り、ベッドに身を投げました。


『寝具の質』にこだわりを持っている私です。

 極上の柔らかさに包まれながら思案しました。


「あの『エルランド・ハーウッド』が、ギルフォード如きに殺されるとは考えられませんね」


 私があの場で『残念』と言ったのは、本当に彼が殺されていたのであるならば、その程度の男だったのかと思ったからです。


 まぁ、同じ『英雄候補』の一人であるオーレリアが手を下したと言うのなら仕方ないとも言えますね。

 戦闘能力は皆無で、頭脳に全ての能力値を振ってる人間ですからね。


「……明日、全てが終わります。戦争が終わったらのんびりと旅に出るのも良いですね」


 脳裏に浮かんだ『一抹の不安』を押し殺して、私が小さくそう呟いた時でした。


 コンコン。と部屋の扉がノックされました。


「鍵は空いてますよ。どうぞ」


 ベッドに腰をかけるように体制を整えたあと、私がそう答えると、ガチャリとドアノブが回され扉が開きました。


「夜分にごめんね。ノエル」

「あら、オーレリアじゃない。どうしたの?」


 私の部屋に入って来たのは『英雄候補』のオーレリアでした。


「シエルのことだから、本当にエルランドが死んだかを知りたがってると思ってね」

「そうね。でもその様子なら確実に貴女が屠ったのでしょう?」


 私が彼女にそう問いかけると、オーレリアは首を縦に振りました。


「そうよ。私が彼を殺したわ。あの『天才軍師』と言えど、最後は呆気なかったわね」

「……後悔はなかったの?」

「ある訳ないじゃない。私は貴方と違って、彼に対して特別な感情は持ってないわ」

「特別な感情……そうね。確かに持ってたわ。でも、死んだと言うなら、その程度の男だったと言うわけね」


 私はそう言うと、ベッドから腰を上げて棚からワイングラスと深紅のワインを取り出しました。


「一杯くらい付き合いなさいよ」

「あら?明日は最終決戦よ。お酒なんか飲んでもいいのかしら?」


 私がテーブルにグラスを置きながら言うと、オーレリアは軽く笑いながらそう言葉を返してきました。


「ふふふ。明日にお酒が残るような飲み方をするつもりは無いわよ」

「わかったわ。それじゃあ私も付き合うわよ」


 そして、私とオーレリアは椅子に座ったあと軽く微笑み合いました。


「貴女とこうしてお酒を飲むのは久しぶりね」


 私がグラスにワインを注ぎながらそう言うと、オーレリアは笑いながら言葉を返しました。


「そうね。大学を卒業した時以来かしら?お互い歳をとったものね」

「……歳の話をするのは辞めなさい。私も貴女も浅くない傷を負うわよ」


 すると、オーレリアは私に対して勝ち誇ったように言ってきました。


「ふふ。私はシエルと違って『将来を誓った男性』がいるわよ」

「……待ちなさい。そんな話は聞いてないわよ」

「だって話してないもの。この戦争が終わったら結婚をするつもりよ」

「……それは『死亡フラグ』と言われるやつよ」

「あはは!!漫画の読みすぎよシエル。学生時代からの趣味は変わらないみたいね」


 オーレリアは笑いながら、私の背後にある『本棚』を眺めていました。

 そして、彼女は注がれたワインを一口飲んだあと、瞳を伏せて私に言いました。


「……エルランドを殺したのは悪かったわね」

「王の命令でしょ。断れるものでは無いわ」


 私もワインを一口飲み込んでそう答えました。


「何の警戒もせずにのこのこ王の所に行くような彼の迂闊さが招いたことよ」

「……わかったわ。それじゃあこの話はここで終わりね」

「そうね。それじゃあここからは『オーレリアの彼氏との馴れ初め』でも聞いてこうかしら?」


 私が笑いながらそう言うと、彼女も笑いながら言葉を返しました。


「あはは!!良いわよ。私の『惚気話』を聞かせてあげるわよ」



 こうして、私は

『あの天才軍師を失って、本当に明日の戦いで勝てるのか?』

と言う不安を押し殺しながら、親友とワインを片手に笑いあっていました。

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