ギルフォード side ①

 

 ギルフォード side ①




「御苦労だったな。オーレリアよ」

「いえ、この程度の事でしたら造作もありません」


 足元に転がるエルランド・ハーウッドだった物に視線を向けながら私はオーレリア・ラクシャータに告げる。


「エルランド・ハーウッドは王に対して謀反を画作していた。よってここで処刑をすることになった」

「はい。そのように処理致します」


 オーレリアはそう言うと、エルランドの身体に炎を放つ。そして、数秒ほどで肉塊は灰に変わった。


「それでは失礼します」


 一礼をした彼女に私はもう一つの要件を告げる。


「オーレリアよ。その足でシエル・アルフォートを呼んで来い。明日のことで話がある」

「了解致しました」


 オーレリアはそう言うと踵を返して部屋を後にした。


「……ふぅ。ようやくだ。ようやく……全てが私の手に入る」


 魔族との戦争もあと一歩で勝利するところまで来た。

 明日の一戦で全てが終わるだろう。


 そして魔族を支配した暁には、あの美しい魔王 レティシア・ミストガルドを私の物に出来る。


「ははは……あの美しい顔を私の手で歪めることが出来る。心が踊るじゃないか……っ!!」


 コンコン


 すると、私の耳に扉をノックする音が聞こえてきた。


 シエル・アルフォートがやって来たのだろう。


「入るが良い」

「失礼します」


 ガチャリと扉が開き、部屋の中に入ってきたのは英雄候補の一人。シエル・アルフォートだった。


「オーレリアから、王が私をお呼びと聞きました」

「明日の作戦についての確認だ。作戦会議には私も参加していたが、これまでと同じように『空戦主体の作戦』で構わないのか?」


 現在の魔王軍は『空戦』に弱さがある。


 エルランドによってそれが暴かれ、徹底的にそこを攻め込んで行った。

 今回の作戦会議で彼が熱弁を振るっていたのは『地上戦部隊を囮にした空戦部隊での奇襲作戦』だったな。


 敵の弱みを突くのは戦争の定石。

 だが『天才軍師』とも言われたエルランド・ハーウッドにしては『素直過ぎる作戦』とも思えていた。


 それこそが私に一つだけ残っていた『懸念材料』とも言えた。


 だからこそ、あの場に居た主要部隊の隊長であり、『英雄候補』シエル・アルフォートの意見を聞くために呼び付けた。


「なるほど。やはり王の耳には『本当の作戦』は伝えられていないようですね」

「……なんだと。本当の作戦……それは一体なんだ?」


 私の言葉にシエルは懐から紙の資料を取りだした。

 これは先程の作戦会議で使用されていた、作戦概要を記載した機密文書だ。


「こちらはエルランド氏が用意した『空戦部隊を囮に、地上戦部隊で魔王軍を殲滅する作戦概要』になります」

「……そうか。わかったぞ。あいつがしていたことが」


 つまり、エルランドがあの場で話していた作戦は全て『ブラフ』であり、本当の作戦はこの機密文書に記載されたものだった。そういう事か。


「王の推察の通りです。エルランド氏は『魔王軍の密偵が作戦会議を盗み見ている可能性が高い。それを逆手にとってやることにした』そう言っておりました」

「そうか……」

「『なんの情報も得られなかった。よりも自分の能力で手にした情報を疑いはしないだろうからな』とも言っておりました。全く……恐ろしい男だと思いますね」


 やれやれ。と言った表情で手を横に広げるシエル。

 王を前にしてこの応対。なかなか器がデカイなと感心する。


「それで、この足元にある『灰』は何でしょうか。オーレリアが火遊びをするようなことでもしたんですか?」

「……あぁ。これは『エルランド・ハーウッドだった物の成れの果て』だよ」


 私が彼女の質問にそう答えると、シエルの目がスっと細くなった。

 そして私にその意図を聞いてきた。


「……何故かを聞いても構いませんか?」

「エルランドは私に対して謀反を画作していた。だから消した。それまでの事だ」

「…………そうですか……『残念』ですね」


 ふむ……彼女の言う『残念』と言うのがどちらの意味なのかは気になる所だがな。

 まぁ、良いだろう。あまり呼び止めていて、明日の作戦に支障が出ても面倒だ。


「さて。シエル・アルフォート。私の要件は以上で終わりだ。戻っていいぞ」

「はい。それでは失礼します」


 彼女はそう言うと、私に一礼をして部屋を後にした。

 最後に少しだけ、エルランドの遺灰を『寂しそうな視線』で見ていたのは気にしないことにするか。


「ふむ……これで私の懸念材料は全て無くなったな」


 存在自体が危険だったエルランド・ハーウッドは消した。

 明日の作戦も磐石だと言う確信が持てた。

 後は魔王軍を殲滅し、レティシア・ミストガルドを私の性奴隷にするだけだ。


「ははは……明日が楽しみじゃないか……これ程までに夜明けが待ち遠しいのは生まれて初めてだ」


 私はテーブルの上に置いたワインを手にし、それを一気に煽った。

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