最終話 終わらぬ戦いへ
――3年後
「これからお世話になります、
しがない派遣社員ですが……皆さま、よ、よろしくお願いします!」
かつて俺たちが所属していた地域守備局心療課は組織名を変更し、「地域守備局メンタルケア課」となった。
真鍋兄弟はそれとほぼ時を同じくして北海道方面に実質転勤となり、今このメンタルケア課にはいない。
ただ、宣兄と俺と課長、そして八重瀬は今も変わらず、神器を持つ者としての戦いを続けている。
八重瀬の中に潜む『晶龍』。そいつは未だ目覚めることはないが、その力自体は今守備局の要の技術として戦闘に使用されている。
「こちらこそよろしく、豊名さん。
僕は八重瀬真言。初日から1週間は僕がレクチャーしますので、ゆっくり色々覚えていってくださいね。緊張しなくていいから」
「は、はい! ありがとうございます!」
今では八重瀬もあの大剣を使い、俺と同じようにバリバリ最前線での戦闘を繰り返している。
足手まといだなんて最早口が裂けても言えないレベルで、ヤツは凄まじい成長を遂げていた。勿論晶龍の力もあるが、恐らく人知れず努力してきた本人の力も大きい。
今やトドメを刺す割合は、八重瀬の方が多いくらいだ。
「でも、魔獣対策の部署って……
私、ろくに魔獣に出会ったこともないですよ?
それで勤まるでしょうか」
「大丈夫。必要最低限のことが分かっていれば、十分だから」
守備局の戦力が増強されたと同時に、世間にも『魔獣』についての情報は少しずつ公開されていった。
主に会社におけるストレスによって人間が魔獣化することさえも、今では広く知られている。
それにより一時は混乱も起こり、政府による企業へのパワハラ・モラハラ対策も半強制的に進んだものの――
それでも人間は労働をやめることなく、強者が弱者を虐げ続ける構図は何も変化していない。
かつてサービス残業による過労をなくすために、政府は企業を強制的に法律で取り締まろうとした。しかしその結果、過度の残業規制により労働者はさらに追い込まれた。
仕事量は変わらないのに、時間だけを減らしたってどうしようもない。
同じことが、魔獣関連事件でも起こっている――というのが、課長の見解だ。
目に見えない形で、法律に抵触しない形で、相変わらず弱者への陰湿な攻撃は続いている。
それが証拠に、魔獣出現は減るどころか、以前より地味に増え続けている。
そして、新たにこのメンタルケア課に配属されたのがこの女――豊名あかね。
栗色のボブカットに、くりくりよく動く大きな眼が目立つ。一応大学は出てるはずだが、結構童顔で女子高生にさえ見える。
若いのに就職先に恵まれず、派遣先を色々と渡り歩いてきたらしい。よくあるパターンだ。
この課に配属される派遣社員というのはこれまでも全くいなかったわけじゃないが、その殆どは魔獣との戦いがどんなものかも知らず、電話当番とデータ入力だけして契約期間終了……というのが大多数だった。現場で俺たちの戦いを見たヤツはほぼ皆無。
この女も多分、そんな感じでこの職場を去るのだろう。
その方がいい。俺たちのやってる血なまぐさい所業なんて、知る必要はない。
俺はそう思いながら、机に脚を乗っけて自分の神器――いつものロケランを磨いていた。
そんな俺を見た瞬間、彼女はこの世ならざるものを見る目つきになったが――
それもいつものことだ。だいたいの派遣社員はこんな俺を見て、この『地域守備局』の異様さを知る。そして短期で辞めていく。
――それでいいんだ。
豊名あかねと初めて会ったこの時、俺はそう思っていた。
――しかしこの後間もなく、彼女は俺たちの秘密を知ってしまう。
さらに彼女は八重瀬を通じ、晶龍復活に大きく関わることになるのだが――
それはまた、別の話。
Fin
時の止まった島で、龍神は自らの死を希う~頼りない眼鏡男子のアイツが超チート魔神化して大剣の使い手となった理由~ kayako @kayako001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます