【朗読OK】人間レベル低くても、駄目なこと言っちゃっても、それでもいいという人もいる【小説&フリー台本】

雪月華月

人間レベル低くても、駄目なことを言っちゃっても、それでも良いという人もいる

 自分の人間としてのレベルがあるなら、ああ、低いなと思ってた。


 そんな私は、自分用のアバターを作って、RPGを楽しむゲームにはまっていた。私は一人での活動が多かった。多数のプレイヤーがいて、楽しそうに遊んでいるのに、自分が少し外れた立場にいる気がした。


 何も思わないわけではないけど。

 でも、私、どんなにかわいい格好しても人間レベル低いしなぁ……コミュ障コミュ障って一人自分のことを鼻で笑って、適当にやりすごしていた。


 クリスマスが近づいたある日、私はもぞもぞと布団の中で動いていた。寒さが厳しくなり、温かい布団から逃げられない。このまま、だらだらと過ごしてもいいかもしれない、休日だし……。そんな堕落しきった私は、堕落するためのアイテムとして優秀なスマホをいじった。からからの喉は水分を求めていたが、なんとなくずっと動けずにいた。スマホをひらきSNSで情報を眺めていると、私のやってるゲームの機能の一つであるハウスの内装づくりをつかって、一軒のハウスが出来たとスクリーンショットが公開されていた。


 家の内装づくりはとても評判がよく、いい作品が出来たと、ゲーム内のスクリーンショットを公開する人が多かった。まあ、すごいんだろうな……とぼんやりとした頭で思ったが、その内装は段違いだった。


 シックな海外風の内装で、カフェ&バーを目指したもので、クリスマスがちかいということで、ツリーや飾りがセンスよく飾られれている。とにかく海外に行ったように見える内装で、私はひと目で、目を奪われた。なにこれ、こんな内装あるの?! やばくない??


 私は昔大学に行ってた頃。留学することに憧れていた。勉強もしたかったが、海外の街並みでお茶したり、写真を取ってみたかったのだ。胸の中で、鼓動が息づいた。

 ただ惰性のように鼓動していたのに、まるで恋をしたかのようにときめく自分がいた。ここでゆっくりスクリーンショットを撮ってみたい。内装を味わうように見てみたい。ちょっと公開されて、何日か経ってるみたいだし、行ってみようかな……と、私はゲームにインした。


 内装見学しに行くだけなのに、緊張した。本当にすごかったのだ……家の中に建物を作っているだけでもすごいのに、センスがあふれてて、とても素敵で、パリの街の通りにその内装があってもおかしくないと思うくらいだった。

 可愛い系というよりは、シックな格好にして、柄にもなく羽つきの帽子までつけた。しずかな空間で、内装の美しさに対面できる、空間のなかでゆっくりできると思うと、普段あまりテンションがあがらない私ですら足取りが軽かったのだ。


 羽のついた靴で動いてるみたい……! そう思っちゃうくらいに。


 だけど目的にお家に到着して、内装を見に行った途端、私の心はしおしおになってしまった。内装はすばらしかった、ほんとうにすばらしくて、加工しなくても、美しい光景が広がっていた。

 私の気分をしおしおにさせたのは、カップルらしき男女の組み合わせの二人組が、何組もいたことである、五,六組くらいは居ただろうか。どこも仲良さそうに楽しそうにしていた。以前数少ないフレンドが、今の時期は恋愛脳がはびこりだすとすごい顔をして話していたが、私はこんなにもいっぱいのカップルらしき二人組を見たことなくて圧倒された。現実では容姿は普通……中の下と思っているが、ゲームではめちゃくちゃ可愛くしている。容姿だけはとても褒められる。だけど、カップルとかカップルじゃなかったとしても仲のいい人とスクショを撮ることはなかった。


 あ、自分……こんなところにいちゃだめだったわ。


 急に恥ずかしくなった。ぼっちの自分も、ぼっちですからーって自分を自分で鼻で笑う自分も。圧倒的仲良しなんですパワーを放つ人たちの前ではただただ恥ずかしい何かだった。


 私はスクリーンショットを撮ることなく、そそくさと逃げ帰った。

足取りは重くなるような気分なのに、逃げるとなると尋常じゃない早さだった。ああ、なさっけない、身の程知らずだった。


 こんな私ができることといえば、痛い自分を笑いの種にするように、人に話すことだった。


「もう、ぼっちにはアウェイなんですよ、アウェイ。もうカップルだらけでー、なんか寒くないのに寒く感じちゃうで、逃げ帰っちゃったー」


 ゲーム内で雑談できる場所として開かれている家で、私は酔っ払いの饒舌のように話してた。普段はこんなにべらべら喋ることはない……ただ逃げ帰った私を笑ってくれと思ったら、やけくそのように話してた。店主さんと二人きりだから、ぶちかませていたというのが正確だったかもしれない。


「ああ、知ってますよ、すごい情報が回ってますよねぇ、あのハウジング」


「内装はほんと素敵なんですよねぇ……スクリーンショット一枚もとらずに逃げ帰るとか、ほんとコミュ障ー。びびる必要ないのに」


 店主さんは苦笑しながら、ワインのカップを拭き始めた。その丁寧な仕草が羨ましかった。私なら、簡単に割ってしまいそうだ。


 店主さんは、ああ、そうだ……といいことを思いついたかのように、目を細めた。


「今日の営業後に、僕と見に行きませんか? その、ハウジング」


 僕も見に行ってみたかったんですよー。と朗らかに、店主は笑った。それを言われて、ええ、え……私は誘われたのに、引きわらいをしていた。


 言葉にしなかったが、え、なんで?? 私と?? この店主さんなら他の人と余裕であそびに行けるでしょ、私ごときと一緒に行くなんて……。


 あははと私は笑った。


「店主さん、私よりいい人いるでしょー。そっちと行った方がたのしいって」


 店主さんは言葉を一瞬詰まったような顔をした。。それから乾いた笑いをあげて、ふうと息をついた。


「僕は、そんな誰も彼も適当に声をかけませんよ……あなたならって思っただけ」


 いつもの口調なのに、どこか冷めた声で、店主は拭いたワイングラスを棚に戻し始めた。その背中を見ながら、私は心底、自分を恥じた。


 私は人間レベルが低いと思ってるし、それはおそらく本当のことなんだろう。だけど、そんな私でも、良いというひともまたいるのだ。そんな私とでかけたいという人もいるのだ。私は今、花の茎をおるように、誰かの心を折ったのかもしれない。


 それはゲーム内で充実している人たちを見て逃げ帰ったことより、情けなくカッコ悪かった。


 私はぐっと拳を握った。心臓がばくばくと激しく鼓動する。


「あの、本当に一緒に行ってくれるんですか? こんなんですけど」


 私は震えをこらえながら、言葉を紡いだ。

 店主は、私に目を見張ったが、優しく笑ってゆっくりうなずいた。


「もちろんですよ」

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