第42話 寝不足

《エピローグ》

 カーテン越しに月光が寝顔を照らし出す。


「……何、だと?」


 テッペンに添い寝をキメたはずなのに、俺は夜更けに起きてしまった。

 過剰睡眠の体質を背負った俺が? 夜中、目が覚めちゃう。おじいちゃんかよ。

 これは初体験のチャンスかもしれない。そう、夜中にトイレが近いやつ!

 夜間頻尿はさておき、俺は身体を動かせなかった。金縛りも初体験。


 否――


「すぅ、スゥー」


 視線を右へ傾ければ、綾森さんの綺麗な寝顔を覗かせた。

 さらに――


「んにゃ、あにぴぃ~」


 視線を左へ傾ければ、あかねちゃんが可愛い寝顔を覗かせた。

 補習から解放されたあかねちゃんと、Vフェス終わりに疲れを癒したい綾森さん。

添い寝フレンドたちの襲来を受け、俺は慎重かつ大胆にお持ち帰りされるのであった。両手に花とはこのことか。そうだよ!


 意外にも二人は揉めず、一緒に寝ることになった。安眠のおすそ分けに関して、抜け駆け禁止同盟を結んだらしい。中学の女子みたいだなあ。


「牡羊くんはわたしのメリーよ……」

「センパイはうちのあにぴだし……」


 早速、寝言で競っていた。同盟破棄、もう間もなく。

 二人が自分の陣地に引き込もうと、俺の両腕両足を絡め取っていく。良い匂いと柔らかいムニムニ感。恐ろしや、ハニートラップ。もっとやりたまえ。


「なるほどな」


 然るに、添い寝二人分の快眠を担うためには深刻なメラトニン不足というわけか。己の分まで相手に与えた結果、俺の睡眠の質が落ちてしまったのだろう。

 嘘っ……俺の個性、死んじゃった!?


 俺は、やれやれと肩をすくめ――なれなかった。ハニトラの最中で、自由が利かない。やれやれ、仕方がないね。


「綾森さんとあかねちゃんの目覚めが快調になるなら、安いもんさ」


 ――添い寝で寝不足体質な俺、推しのVtuberと妹ギャルに枕営業を迫られました。


 初めて過ごす眠れぬ夜、俺は再びまぶたを閉じていく。

 朝起こしてもらった時、二人はどんな顔をしているだろう。

 完成しないパズルを想像しながら、気付けば日の出を迎えるのであった。


 そして、寝坊である――


                                   <完>

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添い寝で安眠体質がバレた俺、学園のVtuberアイドルに枕営業を迫られました。 金魚鉢 @kingyobachi

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