人間観察

みあ

第1話

 僕の家族は多分おかしい。

父母、僕の三人家族で、一見どこもおかしくないように見える。だけど、実情はそうでもない。


 母さんは不安定だ。

よく父ではない、他の男の人と出掛ける。その時はうんとおしゃれをして。だけど、みんな長く続かない。喧嘩をしたり、暴力を振るわれたり。泣いて帰ってくる時もしばしば。でも、必ずこの家に帰ってくる。

 そして父さんに縋り付くのだ。



 父さんは、そんな母さんを怒らない。だからといって、愛想をつかすわけでもない。こんな妻だったら、怒ったり、呆れたりして、家を出て行ってもいいくらいなのに。母さんが、家を何日空けようが、他人から貰ったものをつけていようが、会話の中で他の男の人の名前を出そうが。

 帰ってくる母さんを必ず受け入れる。



 僕が何か悪いこと……例えば、成績が悪かったり、スマホばかりいじっていたり、あるいは、他の人を傷つけるようなことをすれば、父さんはちゃんと僕を叱る。仲が悪いわけでもない。むしろ良好だ。


 でも、僕は父さんの血縁上の子どもじゃない。全くもって似ている部分が見つからない。母さんがあれだからそうなんだろう。




 どうしても気になって、聞いてみた。父に。どうして怒りも呆れもせずに、母さんに付き合っているのか、と。すると、ひどく笑われた。こんなに笑っているのを見るのは初めてかもしれない。


「面白いじゃないか。私は昔から人間観察が好きでね。彼女は観察し甲斐があると思ったんだ。彼女のような人はそうそういないよ。だから、君を口実に結婚しろ、と脅されたが、私にとってはそれは最高の提案だったんだよ」


やはり僕は父さんの子どもではないのか。脅し、というから。でもちゃんと経済力があり、大人としてある程度まともな父さんを選んだことだけは、母さんに拍手を送りたい。


「でもね、私たちと君は関係ない。血縁関係があろうとなかろうと、そもそもみんな他人なんだ。巻き込まれる必要もない。だから、君はちゃんと育てようと思ったんだ。それにね、君をまともな人間に育てたら、自分の母親のことをどう思うだろうかと気になったのさ」


「軽蔑するかい? 」

「いいえ」


これは即答だった。だが、今回、気がついたことがある。


「したっていいんだよ。母親があれで、育てた親はこんな人間だ。軽蔑した方がかえって普通だと思うけれどね」


普通、が正直よくわからないけれど、僕が普通の感覚でなくても、父は愉快そうだった。


「僕にとってはこれが普通だから」

「確かにそれもそうか」


父が、なぜあんな母と結婚してしまったのか気になっていた。だが、あの話を聞いた時、ああなるほど、と納得してしまった。


 僕が初めて自分が父に似ているところがある、と自覚した瞬間であった。

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