会話するチカラ

「どうした、マリ」

「今、声が聞こえたんです、けど…」


 反応を見るに、ボッジさんには聞こえていないのかな……?


『あなただけにしか、聞こえていないわよ』


 兎さんがそう言うのなら、本当に聞こえていないのだろう。


「どうして…」

『うーん…魔力の波長かしらね。あなたの魔力は安心する、綺麗なものだから、聞くことが出来るのかしら』

「そ…」


 そんなことって…有り得るの?


「…今、話しとったのか?」

「は、はい…何故か、聞こえるみたいなんです」

「………」


 そう言うと、ボッジさんは何かを考え始めた。


「……ひとまず報告じゃ。ユーリ様なら、何か知っとるかもしれん」

「…そう、ですか」


 ボッジさんにも分からないこと。一体なんでわたしだけ聞こえるんだろう…


『ユーリ様…あぁ、確かに分かるかもね』

「え…? なんで…」

『だってあのヒトもわたしの言葉、分かるもの』

「……え?」


 ユーリ様も、分かる…?


「なんと言っとるんじゃ?」

「あ、えぇっと…」


 これは話していいことなんだろうか…ボッジさんがユーリ様なら何か知ってるかもって言ってる時点で、ユーリ様が会話できることは知らないんだろう。ユーリ様が黙ってることなのに、言っていいのかな…


『…無闇矢鱈に言うべきではないでしょうね。稀有な才能であることに違いはないから』


 ……となると、ユーリ様もそれをわかった上で隠しているのだろう。なら、言うべきではない…かな。


「…すいません。言えません」

「……そうか。まぁよい。それにマリのその能力は稀有じゃろうしな。誰にも話さんほうがよかろうな」

「…お願いします」

「分かっとる。じゃがマリのほうも、うっかり他の者の前で会話をせんよう気を付けねばならんぞ」

「は、はい…」


 どうしよう……うっかりやらかしちゃいそうな気がして仕方ないんだけど。



「ひとまずこの話は後でユーリ様に通すとして、まずはここで働くヤツらと顔合わせをするかの」

「はい」


 悪い人じゃないといいな……








「…この子が、新しい世話係?」


 予想はしていたけど、集まっていた他のヒトから胡乱げな目で見られる。うぅ…


「そんな目をするな。アニス様の遠い親戚で身寄りがなくてな。推薦制度で来たのじゃ」

「マ、マリと言い、ます。よ、よろしくお願いしま…」


 ……噛んだ! 重要なところで噛んじゃったよぉぉ…


「…なんだこの可愛い生き物」


 耳をペタンとして落ち込んでいると、そんな言葉が聞こえた。


「仕事は簡単なものをやらせてみたが、十分やっていけると判断した。まぁ、気にかけてやってくれ。それじゃあ解散!」


 ボッジさんのその言葉で、集まっていた10人くらいのヒトたちがちりじりになる。えっと…わたしは…


「アーリ! マリを頼んだ」

「わたし? まぁいいけど…マリちゃんだったわね」

「は、はいっ!」


 ボッジさんにアーリと呼ばれた人は、赤髪のとても綺麗な女性だった。


「ふふっ、いい返事よ。わたしはアーリっていうの。じゃあ行きましょうか」

「はい」


 アーリさんが手を出してくれたのでそれを掴み、わたしはアーリさんの後を付いて行った。



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魔王様、仕事して下さい! 家具屋ふふみに @fufumini

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