褒められること

 ボッジさんの後について行くと、ひとつの檻の前で立ち止まった。


「今日はここじゃな」

「うわぁ…」


 檻の中に居たのは……大きな兎だった。四つん這いの状態なのに、わたしの背丈よりも高い。


「草食じゃから、大人しい。1番最初に世話をするのにはピッタリなやつじゃ」

「なるほど…何をすれば?」

「まずは部屋の掃除からじゃな。ほれ」


 ボッジさんからほうきとちりとりを渡される。どうやらこれで床を掃くらしい。


「床のゴミを取り終われば、次は拭き掃除じゃ。まぁまずはやってみぃ」

「はいっ!」


 ボッジさんが檻を開けてくれたので、中に入る。


「念の為閉めておくのじゃぞ」

「分かりました」


 一応この檻は中からも開けられるようになっているらしい。まぁわざわざ檻を開けて逃げるような騎獣もいないだろうしね。パートナーはここで働いてる訳だし。


「じゃあお掃除させてもらうね」


 一応断ってから掃除を始める。兎は牧草をむしゃむしゃと食べており、こちらを気にする様子もない。


「よしっ」


 ユーリ様がせっかく作ってくれたチャンスを、逃す訳にはいかない。気合いを入れ直して、わたしは地面にちらかった牧草の片付けを始めた。







「ふぅ……」


 体感としてどれくらい経ったのかは分からない。それぐらい集中して出来ていた…と思う。

 ゴミは全て取り、その後拭き掃除も終わった。新しい牧草と水を入れ、これで完了のはず。


「…おぉ。終わったか」


 すると丁度いいタイミングでボッジさんがやってきた。


「はい…どうでしょうか…?」


 自分では上手くできたと思うけれど……家でも掃除をしたことはある。というか毎日。でも毎回まだ汚れているって言われた。だから心配になってくる。


「ちゃんと出来とるわい。偉いのう」


 そう言ってぽんぽんと頭を撫でてくれた。

 わたしは一瞬キョトンとして……不意に熱いものが込み上げてくるのが分かった。


「ど、どうしたのじゃ!?」


 ボッジさんが慌てる。どうして…


「…あ…れ?」


 頬を伝う感触。それは……涙だった。涙なんて最後にいつ流したかすら覚えていない。


「ど、して…」


 拭っても拭っても涙は零れ続ける。

 …………すると、生暖かい何かに頬を撫でられた。


「…ふぇ?!」


 思わず変な声でちゃった……

 生暖かい何かの正体は……舌だった。兎さんの、大きな舌。


『何故泣くの? あなたは立派に仕事をしたのよ? 誇っていいの』

「………え?」


 驚きで涙が引っ込んだ。え、え!? 


「今の…」

『あら、あなたわたしの声が聞こえるのね』


 優しげな声。その主は……兎さんでした。ほぇ?





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