夜闇の静けさに時折香るバイオレンス。その人間、この土地には、何かがある

知らぬ間に怪異と婚約してしまった九里香は、珊瑚という学生を紹介される。彼女は異形の正体を暴くことで、それを祓うことができるのだという。条件により夫婦となった二人は、共に様々な異形と対峙する。

異類婚姻譚に生物学を絡ませるという着想に、まず興味を引かれました。様々な手がかりから二人は異形の正体を同定し、人知の及ぶ存在へと引きずり落とします。その過程が非常に興味深く、面白いです。現れる異形がどんな特徴を持っているのかも、毎回楽しみでした。
怪異だけでなく、日常シーンにおいてもそういった知識が絡められ、知らないことに触れるワクワクを感じることができました。さりげない描写からガッツリした描写まで、至る所で好奇心が掻き立てられます。
説話類型である異類婚姻譚を異類「破婚」としているところにも興味を引かれました。作中で語られる設定とは別に、見るなのタブーを考えても、正体を暴くという追い払い方にはなるほどという気がします。

怪異も得体が知れないのですが、九里香、珊瑚、そして二人のいる土地にも何か事情があることが察せられます。それぞれに底の見えない闇が広がっている予感がし、それにじわりじわりと近づいていくような物語の運びがたまりません。

バイオレンスをきかせた物語からは、あまり温度を持たない静かな印象を受けます。この、闇が色濃く、逃れられない空気感が心地よいです。

物語が核心に迫るのはこれから。提示された謎が明らかになり、そこからどうストーリーが展開していくのか。楽しみです。

※貞潔な翼⑥までを読んでのレビューです。