第十一話:『香城事件』-②
(逮捕されてから取り調べで判明していなかった殺人も判明し、その後の裁判で死刑判決を受けている……が、その後の動きは全く不明)
通称、香城事件。
二十年近く前に起こり、社会現象にまでなった連続殺人事件。
法で裁けなかった犯罪者たちに鉄槌を下す存在として、事件の凄惨さに比例するようにそのメディア人気は極めて高く、彼女が収監されていた拘置所には減刑や死刑の棄却を訴える手紙や署名が大量に届いたという。
彼女の殺害した犯罪者は特に悪質な連中が多かったらしく、彼女が殺害した人間によって被害を受けた人間、あるいは遺族は彼女に感謝の手紙を送った上で、立件できなかった警察を批判する運動を始め、当時の社会現象にまでなったという。
(そういや子供の時に、この顔なにかで見た覚えあるなぁ……。ニュースかワイドショーの特集だっけか)
死刑判決が下された後も長きに渡りメディアでその是非を問われ、ネット上でも陰謀論含め議論の対象となったが今となって風化し、存在も忘れ去られている。
(実際に死刑が執行されたらまたメディアに取り上げられて再燃するだろうけど、だからこそこの人の刑は執行されるのは相当かかるだろうなぁ)
それこそ老人になって自然死するまで、拘置所の中に過ごすかもしれない。
(現在47歳。医療技術を持つ上に銃や刃物の取り扱いに慣れていて、毒物の知識も豊富。いわば軍医か)
技能としてはかなりスゴい。
それこそ、スキル化すれば相当な金になるだろう。
……しかし、
(死刑囚って事は拘留中だよなぁ。当然厳重に監視されているだろうし、しかもこの人は拘留されている場所すら秘匿されている)
透との飲みは途中から本格的な飲みになって、大皿返しに行って結局『松ちゃん』で普通に飲み直してしまった。
バイトの子と良い感じになったタイミングで金置いてそれとなく撤退したけど。
透の奴、上手くやれたかな。
「元々は新東京第二拘置所にいたが、影響力の大きさから密かに別の拘置所に移動され、その後の動向は不明と……熱心な陰謀論サイトなんかでは今香城カスミがどこにいるのか議論が起こっているけど……」
どれもこれも眉唾モノの――いわば都市伝説レベルの物である。
すでに死亡していて、その公表のタイミングを図るために隠ぺいしているという話――は、まだ分からなくもない。
だが、政府と取引をして裏の殺し屋になっているという話や、脱獄していて今も人知れず、警察の手に負えない犯罪者を殺し続けているなどとなるともはや苦笑いしか出ない。
(……他の過去の事件を調べられるだけ調べたけど、いわゆる犯罪者が殺害されたのは基本的に全て『反撃』によるものがほとんど。しいて言うなら結婚詐欺師とか質の悪い恋愛詐欺を働いていた人間が被害者から刺されたりしてるけど……不特定多数をってのは見当たらない)
ネットで調べられたのはそこらへんまでだ。
ネット上の情報なんて、時間が経てば消えてしまう物も少なくない。
実際、検索結果に表れた古い記事を読んでみようとタイトルをクリックすれば、『該当の記事は削除されました』なんて文字が出て来る事がゴロゴロあった。
(……図書館って、二十年も前の新聞も保管してくれてるかな……)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
新都立中央図書館。
ちょっと古い資料でも、キチンとした大きい図書館ならば確実に残してくれているだろうとわざわざ車を出して離れた図書館まで足を運んできた。
……せっかくなので図書館施設の中に併設されているカフェでちょいとお洒落なランチを腹に入れてから、中に入って司書らしき人に声をかける。
「あの、すみません」
「? はい、なんでしょうか?」
近所の図書館と違って、若いスタッフがエラく多いな。
大学を卒業したて位だろう、中々美人のスタッフが応対してくれた。
「二十年程前の『香城事件』に関しての資料を閲覧したいのですが、新聞や雑誌は――」
「……あ、申し訳ありません」
当時の資料が残っているか問い掛けようとしたが、スタッフは本当に申し訳なさそうな顔をして、
「雑誌類は保管期限を過ぎているのでほとんどが除籍処分されておりまして……新聞でしたら縮刷した物をデジタル保存していますが、今は全席使用されておりまして」
……そうか。
てっきり紙で保存されてるかと思っていたが、新聞紙みたいな脆い印刷物を保存するには必然的にデジタル化になるのか。
束で借りられたら適当な席で目的の部分を探し出してコピーして帰ろうと思ってたんだが……。
「それじゃあ、席が空いたら教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。それなら構いません」
さて、しばらく時間がかかりそうだし、適当な書籍を探してみるか。
データベース用のパソコンが置かれているデスクの方を見ると、パッと見12席。
その座席は全て、まぁ、イメージ通りご高齢の方々で埋まって――
「――ぉん?」
そのご高齢の方々の中に混じって一人。
かなり着古した私服が多い中、一人だけスーツ姿の男が――いや、遠目にはそう見える美人がそこに紛れていた。
(あの時話を聞きにきた刑事さんじゃん)
探偵、九条ミツグはスキルという物が大嫌いである rikka @ario-orio
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