未来、夢が現実に

 ソラとの出会いから5年が経ち、賢太は28歳となった。いまだに景斗と一緒に暮らしている。変わったことと言えば、初期は賢太がすべて家事を担っていたのだが、賢太の仕事も増えたため、時間があるほうが家事をするということになった。今のところ、幼馴染2人での生活が終わる予定はない。2人暮らしは楽だから、稼げるようになっても一人暮らしをしようとは思わなかった。この同居生活が終わるのは、きっとどちらかが結婚した時だろう。

 無名だった賢太の存在は、超人気俳優の景斗と幼馴染と言うことで瞬く間に世間に広まった。今ではモデル、俳優として一目置かれる存在となっている。

 『夢実ダイチ』としての活動も順調だ。『一週間の友達』で作家デビューし、大ヒットを記録した。実写映画の公開も控えている。また、そのスピンオフ作品である『ダイチと幼馴染』も売れ行きは順調だ。ちなみに、小説がヒットした後に登場人物とペンネームが同じことに気づいて、勢いで決めなければよかったと賢太はほんの少しだけ後悔した。ちょっと恥ずかしかったのだ。それはさておき、現在は『天才魔女の悠々自適な生活』という小説を年に2冊出しており、漫画化され、アニメ化の話も進んでいるなど、小説家として順風満帆な生活を送っている。

 クリスマスが迫った寒い日の夜。賢太と景斗はソファに並んで座ってくつろいでいた。机にはお茶が入ったマグカップが二つ並んでいる。2人は翌日に『一週間の友達』の舞台挨拶を控えている。景斗がダイチ役で、賢太がダイチの幼馴染役で出演している。

「お前が作者だって情報、よく漏れねえよな」

 景斗が感心したようにそう言った。『夢実ダイチ』と『小山賢太』が同一人物であることは、ごく少数の関係者を除いてまったく知られていない。

「まあ徹底的に隠してるし。幸いにも、口が軽い人間がいないからな」

「脚本も書いたんだっけ」

「脚本家さんと一緒にだけど」

「全部任せるのは嫌?」

「ああ、嫌だな。自分で書けるんだから、自分で書くに越したことないし。それに、映画のキャストに、自分が含まれてたから、なおさら。この作品だけは、誰にも指図受けたくねえって思ったから。まあ、映像化される想定はしてたけど、まさか自分が出るとは思わなかったし」

「しかも俺と幼馴染役」

「話題になるからな」

「『リアルイケメン幼馴染が幼馴染役に!』ってやつな」

 景斗は面白そうに笑った。

「セット売り成功。一緒にダンス動画投稿してる甲斐があったな」

「はいはいそうだな」

「えー、もっと喜べよ~」

「うざ」

「ひど」

「しかし、まさか、ここまでうまくいくとはな」

 夢に見たことが次々と現実になっている現状に賢太は、いつか目が覚めてすべて消えてしまうのではないかと思うことが多々あった。順調すぎて怖いくらいだが、自分以上に自分の活躍を喜ぶ昔と変わらない人間がいることで、賢太は安心して前に進むことができている。変化が激しい日常の中で、まったく変わらないものがあることは、賢太の精神的な負担を和らげている。

 そんな思いなんて露ほども知らない景斗は、「幼馴染を全面に売り出して正解だったな」と自画自賛している。褒めろ褒めろと言いたげな顔だった。

 賢太はため息をついた。昔と変わらずに子どもっぽすぎる幼馴染にちょっとだけ呆れたというのもあるが、それ以上に、言いたいことがひとつあったからだ。

「で、お前が僕とのダンス動画を上げまくった結果、僕と一緒に住んでいることをばらした結果、BLドラマのオファーが来ましたね。しかも幼馴染の」

 ことの発端は数日前。最近流行りのBLドラマのオファーが、賢太と景斗に来た。やんちゃで遊び人の大学生役が景斗で、真面目でクールな大学生役が賢太で、2人の関係は幼馴染という設定だ。まさか幼馴染商法がこれほどうまくいくとは。

 その話を聞いて盛大にため息をついた賢太に対して、景斗は一緒に仕事できると喜んだのだった。

「いいじゃん。一緒に仕事できるんだから」

 一点の曇りがないまなざしの景斗に、賢太はまたしてもため息をついた。純粋に幼馴染と仕事ができることが嬉しいだけだから厄介なのだ。

「そこは、どうでもいい。ただでさえクソみたいな妄想されてんのに、そこに餌与えてどうすんだよ」

「外野の声を気にするなんてらしくねえじゃん」

「あと、お前から真剣に好きとか言われたら、爆笑する自信がある」

「え、なにそれ見たい」

 なぜか興味津々の景斗に、賢太は頭を抱えた。

「あと、恋愛がメインのやつ、避けてんだよ。できる気がしない」

「いやいや、できるに決まってるでしょ。賢太が売れた作品って、普段は好青年だけど、実はサイコパスの殺人鬼ってやつだったよな。あれで賢太の演技力上手すぎてやべーってなって名前が広まった。認められる演技力あるんだから大丈夫」

「演技力上手すぎるってなんだよ」

「まあまあ細かいことは気にしない気にしない」

「それに、小説のほうで忙しいから、時間ない」

 あくまで小説家がメインというスタンスで賢太は仕事をしている。だからといって俳優やモデル業をないがしろにしているわけではない。手を抜きたくないからこそ仕事の量をセーブしている。

「そっか。アニメ化するから忙しいんだっけ」

「そ。だから、仕事、あんま入れてないの」

「声優でもやるの?」

「それは、無理。キャパオーバー。まあ、もし、アニメが超人気になって、映画化したら、ゲスト声優やりたいけど」

 前から考えていたことをポロっと口に出してみると、景斗はすぐに「いいじゃん!」と賛同してくれた。

「俺も出たい!」

「お前は、下手だから無理」

「うまくなってるかもしんねえだろ」

「安心しろ。期待はしてない」

「うわひど」

「思い返してみろ。自分の朗読」

 うっと言葉に詰まった景斗を見て賢太は笑い、マグカップを手に取った。

 もうすぐソラに託された夢はすべて叶う。それでも、やりたいことが次から次へ溢れて尽きない。書きたい物語がたくさんあって、演じてみたい役もたくさんある。彼女に出会ったことで、前向きに未来を見ることができるようになった。

 さて、次は何をしようか。

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期間限定の不思議な友人は夢を託して消える ネオン @neon_

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