一方通行の親友

ゆ〜

第1話

 俺にはよく見る夢がある。それは、幼稚園の頃のお泊まり会の夜、好きな人の話になった時のこと。ちょうど盛り上がってきたその時、自分に話が回ってきた。俺はその頃仲の良かった男の子の名前を挙げる。先程までは聞こえなかったはずの蝉の声。子供はなんて残酷なんだろう。皆から否定され、馬鹿にされるそんな夢。



「おはよー、蓮。」

「おう。お前は今日も眠そうだな」

「まあね、課題がさ終わんなくて〜」

「あー、あの先生課題多すぎだよな」

「ほんと毎回徹夜地獄で死にそ……。いつも余裕そうだし今度手伝ってよ」

「えー、どーしよっかなぁ〜。湊斗はいっつもギリギリまでアニメ見てるからな〜」

「そういやさ、アニメでおもいだしたんだけど、あのアニメの映画やるんだってな!」

「マジ!?」


 いつも通りの場所で湊斗と待ち合わせ、挨拶をしてダベりながら部活に向かう。毎日気だるそうな雰囲気全開のあいつだが成績は俺よりいいし、認めたくないが部活のエースは絶対にあいつだ。勝てるのは背丈くらいだろう。俺は皆と同じ中学校に行くのが嫌で親に頼んで受験させてもらった。そこでたまたま同じクラスだったのが湊斗だったってわけだ。今はクラス一仲がいい二人組だと噂されるほどだ。あいつはよく俺らは死んでも親友だと豪語している。


 汗が冷えて寒いくらいに冷房がきいた電車は夏休みだからかかなり空いていた。俺たちの通う学校はそこそこ良い偏差値の共学校だ。でも、俺が思ってたような「ザ・青春」はなく、代わりに待っていたのは大量の課題と過酷な部活の練習だった。まあ、女子もいるから彼女がいる先輩だっているけれど、今の俺たちには全くの無縁だ。でも、せっかくの夏休みである。

 湊斗と遊びたい。

 たった一言「一緒に遊びに行こうぜ。」と言うだけのはずなのに喉のところで引っかかって言えなかった。部活のスタート時間になる。毎回体操は湊斗と組んでいるので、その時に誘おうといつものようにペアを組もうとした。でも、湊斗は他の後輩と組んでいて、いつのまにか俺だけが残ってしまっていた。




「今日の体操後輩とやってたな」

「うん、なんか誘ってくれたんだよねー。つーか、蓮ほぼボッチだったじゃんw俺以外に友達いないんじゃねえの?」

「なんだよw誰とやるか迷ってただけですー!」


 そんな会話をした帰り道の電車は、休みにしては人が多く感じた。

 次の日、また二人で学校に向かう。何かが違うように感じたけれど、湊斗は普段通り眠たげで本当にいつも通りだった。体操で絶対に湊斗を誘おうと思っていると部活が始まる。今日の体操はあいつと一緒に組めた。俺らは顧問にバレないように小声で話す。


「湊斗、今度一緒に二人で遊びに行かね?」

「おお、いいね〜!どこ行く?」

 内心全力でガッツポーズをしたい気持ちを抑えながら平然とした様子で話す。

「お前は行きたいとこないの?」

「無いなー、蓮は?」

「無いw」


 そんな会話をしていると、横から聞こえていたのか久米が


「お前ら付き合いたてのカップルかよww」


 と一言。湊斗が笑いながら否定し、それで終わった。俺はそれをノリだと分かっていても否定することはできなかった。遊ぶ約束は結局、お互いの駅の間にある大きなショッピングモールでアニメの映画を見ることに落ち着いた。帰り道はやっぱり昨日と同じ時間だったからか少し人が多かった。



 ************************



 あっという間に湊斗と約束した日になった。2年間同じクラスだったが、考えてみれば湊斗と遊びに行くのはなんだかんだで初めてだ。どんな服を着ていこう。かなり面倒だが、仕方がない。姉に頼るしかないのか……。憂鬱な気持ちをおさえながら姉の部屋へ向かう。ドアの隙間から光が漏れているので起きていることが分かった。姉にお願い事をするのはいつぶりだろうか、そんな事を考えながらゆっくりと姉の部屋のドアを開ける。


「姉ちゃんおきて――」

「いっつもノックしてって言ってんじゃん!」


 やっぱ姉の大きな声に俺の声は遮られる。朝から元気いっぱいな姉は小学生かと思うくらいだった。まあ、そんなことを本人に言ったら耳が死ぬ程大声で怒られる。一緒に遊んでくれていた昔がとても懐かしい。そうだ、そんな場合ではない。頼むのだ。友達と遊びに行く服のアドバイスをください、と。うん、この一言だけだ。


「あー、わりい。あのさ、俺、今日ダチと遊び行くんだけど服決めるの手伝えよ」


 ああ、やってしまった。完全に終わった。服決めるの、までは良かった。良かったのになんで俺は最後間違えたんだ……?


「はぁ?なんであんたのを私が手伝わなきゃいけないの?」

「うっせーな。いいから手伝えよ」

「あ〜、わかった〜!好きな人でもいるんでしょー!良いカッコしたいんだ〜」

「……」

「あえっ?図星?まじかーw」


 姉は考えるように一瞬間をおいて


「しょーがねーなぁ、手伝ってやるよっ」


 そう言いながら立ち上がりドアの前にいる俺を押しのけて俺の部屋へと入って行く。結果オーライだったが、これは良かったのだろうか。やっぱり、姉ちゃんがああいった時なにか返すべきだった。そのせいでこんなにも夢のことを思い出すなんて思わなかった。外ではセミが鬱陶しいほどに鳴いていた。



 電車から出ると夏特有の湿気と気温の気持ち悪い感覚に襲われた。知ってるはずの駅なのに今日は特別な雰囲気をまとって見える。そのせいだろう、いつもなら満員電車でもすぐに見つけられる湊斗の姿を集合時間になっても見つけられない。遅れているのだろ――


「……わっ!!」

「!?!?」


「なにそんな驚いてんだよww俺だっつーの」

 いつもより明るい声でいたずらっぽく笑いながら話しかけてきたのは湊斗だった。いつもが制服だからかとてもかっこよく見える。


「あぁー、マジびっくりしたわ寿命縮まってたら湊斗のせいだからな」

「ごめんてwでも、なんか若干挙動不審だったからつい面白くてさ」

「挙動不審?」


 俺はいつの間にかスマホを見ては周りを確認しを繰り返していたらしい。確かに周りから見れば少し挙動不審かもしれない。でも、普段の俺にそんな癖は無い。頭も心も切り替えたつもりがまだらしい。やはり朝のことか。


「れん〜、昼飯何食べたいとかある?無いなら暑いしその辺のとこ入っちゃおうぜ」

「そうだな。じゃあ、そこでいっか」


 俺たちはハンバーガー屋に入る。美味しそうに頬張る湊斗を横目で見ていたら湊斗が唐突に言った。


「俺さー、告られたんよね」


 その言葉は「そのポテト一本もらっていい?」くらいのテンションで放たれた。もちろん理解が追いつかない。やっとのことで出した言葉は「嘘じゃないよな?」だった。


「うん。なんかね、後輩に告られたんだけど、まだ振ってもないし承諾しても無いんだよね〜、蓮はどう思う?」


 どう思うも何もない。今すぐに「振れば?」と言いたかった。それが俺らの関係を壊したとしても。でも、すんでのところでその言葉を飲み込んだ。


「その子ってどんな子なの?」

「お前はどう思ってるの?」

「女子?」


 冷静を装いながら疑問をぶちまけていく。自分でも引くレベルだ。


「良い子だよどちらかと言うとおとなしめな子で吹部に入ってるんだ」

「たまに話すけど、自分でもどう思ってんのか分かんないんだよな」

「もちろんそうだよ流石に男とはムリw」


 男とはムリ……その一言が締め付けていく。何を?どうしてだろう?やっぱり俺はおかしいんだ。なんでこんなことに……?もし、神様がいるのなら乗り越えられない試練を与えるなよ。この気持ちを伝えられないことが辛い。


 その後の会話や映画などは全てがまるで真夏に鳴いていないセミみたいだった。そして、その晩の夢はいつもよりも悪夢でしかなかった。




 夏休みが明けて、これでもかとヒグラシが鳴いている。夏休み明け初日から通学の電車は激混みで、全く座ることができなかった。昨日、湊斗は後輩を振ったらしい。心の中では、少しの嬉しさともう叶わないこの思いがグルグルして気持ちが気持ちが悪い。いつも通り、普段通りに。教室の角では久米達が騒いでいる。黒板の前では女子たちが絵を書いている。全ていつも通り。じゃあ、俺は?



 3年になって湊斗とはクラスが別れて疎遠になった。今はメル友みたいな関係だ。ちょうど夏休み休み明けくらいに大きなビルの工事が始まり、一気に通学電車の人口が増えた。湊斗はたまに見かけるけれど、もちろん隣にはあいつと同じクラスのやつがいて、分かっていても辛い。だから、俺は仮面を貼り付けて生きる。辛くても笑うように、皆の感情に合わせるように。いつかはこれを取って生きていく事ができる世の中になるのだろうか。こんな気持ちを吐き出せる相手に出会えるのだろうか。そう思いながら自分に苦笑する。俺はもうきっと親友じゃない。でも、それでもいつも通りを纏う。


「おはよ、湊斗。」


 end


 読んでいただきありがとうございました!

 小説を書きはじめたばかりで表現が至らなかったり、変な箇所があると思いますが見守ってください… 

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